9月12日付 菅官房長官の「デジタル庁」構想

 霞が関をウォッチングしているマスコミの優れ者でさえその存在を知らない極めつけの経済産業省少壮官僚がいる。その人物は、同省産業技術環境局の瀧島勇樹技術振興・大学連携推進課長(2001年経産省入省)である。
 同氏の名前を知ったのはつい先日のことだ。日本経済新聞(9月6日付朝刊)の一面トップに掲載された菅義偉官房長官インタビューを読み、同紙の大見出し「菅氏、デジタル庁検討へ」を目にしたことが契機となった。
 寡聞にして、菅氏が4日夜のテレビ東京の「WBS(ワールドビジネスサテライト)」に出演、デジタル庁(仮称)創設に言及していたことは知らなかった。
 そこで「デジタル庁」構想であれば間違いなく経産省が関与しているはずと考えた筆者は日曜日の午前、敢えて同省幹部に電話した。
 永い付き合いのその幹部は「この構想の根っ子となった本があります。『WIRED日本版』編集長だった若林恵という人物が編集した日経ムック版の『NEXT GENERATION GOVERNMENT』を読むとよく理解できます」と述べ、筆者が「経産省の人間が関与しているはずです。名前を教えて下さい」と求めたが、笑って「本を読めば分かりますよ」と答えるだけだった。
 片っ端から大手書店に問い合わせたものの、昨年12月発行にも関わらずなぜか絶版の同書を見つけることができなかった。だが、キンドルで読んだ編集後記に記述されている件の「瀧島勇樹」の名前に辿り着いた。
 同書を責任編集した若林氏ら民間人7人と、「天才肌」(先述の幹部)という瀧島氏ら経産省官僚6人の勉強会を経て19年8月に作成した報告書が基になっているのだ(因みに瀧島氏は当時、商務情報政策局デジタル戦略企画官)。
 「次世代ガバメント—小さくて大きい政府の作り方」と題された同書の、全くの触りワンパラグラフだけを紹介する。
 <「次世代行政府」におけるインフラというのは、こうした新しいかたちの公共財を意味します。また、ここで注目すべきはこれらの公共財が、ひとりひとりの市民に向けた「C」向けのインフラを共通の基盤として、その上に「B」向けのものが装備されていくという建て付けになっているということです。「G to C」(ガバメントから市民へ)の上に、「G to B to C」(ガバメントからビジネスへ、そして市民へ)という構造になっているのです。>
 果たして民主主義は生き残れるのかという高邁な観点から、この「G to B to C」の「B」を「L」(地方・地域)に変えて「C」を市民(citizen)ではなく民間(civilian)に変換すると、深読みと言われそうだが、「G to L to C」(ガバメントから地方へ、そして民間へ)になり、永田町の現実政治に敷衍できるのではないか。
 行政府に必要なのはネットワークとして機能するであり、それはプラットフォームとして機能するということである。こうした視点で行われた先の勉強会の果実は、7月17日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020」(骨太方針)に反映していた。
 その目次の第3章1項「『新たな日常』構築の原動力となるデジタル化への集中投資・実装との環境整備(デジタルニューディール)」の(1)として「次世代型行政サービスの強力な推進—デジタル・ガバメントの断行」と、きちんと書かれているではないか。
 ここでやっと菅氏の「デジタル庁」構想にたどり着くのだ。これまでの「デジタル化」構想と言えば、内閣府、総務省、経産省からの“寄せ木細工”のようなものであり、国連調査の電子政府ランキングを見ても、第1位デンマーク、2位韓国、3位エストニアに比して日本は14位と大きく出遅れているのだ。菅氏は中央省庁の「縦割り打破」によるデジタル庁創設を自民党総裁選の公約にしている。
 8日の自民党総裁選公示直前に、しかも日経新聞インタビューでその意向を披瀝したことからもヤル気が窺える。ヨイショではない。先述の経産省幹部が語った「デジタル庁ではなくデジタル臨調まで持って行ければ実を結びますね」が、筆者の耳元に残っている。

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