最新記事へ筆者紹介定期購読のご案内メールフォームリンク集ホームページへ
| Home | Cover Story | Profile | Order | Mail | Link |
次期駐日大使決定の真相

 オバマ米政権は5月27日、次期駐日大使にIT(情報技術)関連企業が集まるカリフォルニア州シリコンバレーの法律事務所ウィルソン・ソンシニ・グッドリッチ&ロサティ(WSGR)のCEO(最高経営責任者)、ジョン・ルース(54)を指名したと発表した。下馬評に上がった駐日大使有力候補の中でもハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が早くから確実視され、『朝日新聞』などは昨年末と年初の2回もワシントン支局長の署名で"決め打ち"報道を行っていた。さらに『毎日新聞』(4月18日付)も、2面右肩で「確定記事」を掲載したほどだった。両紙が自信を持って報じたということは、ほぼ間違いなく駐米日本大使館及び外務省もまた、いつまでかはともかく、米側からルース次期大使のアグレマン(信任状)が提出された5月19日近くまで「国務省が推すナイ有力」と判断していたと見ていいだろう。
 外交当局の情報収集能力の低下と言っても過言ではない。3月27〜28日、サンフランシスコで恒例の日米安保セミナー(外務省の外郭団体・日本国際問題研究所、サンフランシスコ総領事館、米シンクタンクの戦略国際問題研究所=CSISパシフィック・フォーラムの共催)が開催された。米側からマイケル・アマコスト元駐日米大使、リチャード・アーミテージ前国務副長官、ナイ・ハーバード大学教授、マイケル・グリーンCSIS日本部長(元国家安全保障会議アジア担当上級部長)ら、日本側から野上義二日本国際問題研究所理事長(前駐英大使)、田中均元アジア大洋州局長(日本交際交流センターシニアフェロー)、田中明彦東京大学教授、岡本行夫元首相補佐官らが出席した。ところが、当初出席者リストにあったカート・キャンベル現国務次官補(東アジア太平洋担当・当時は未だ指名されていなかったので「新アメリカ安全保障センター」=CNAS代表の肩書きで登録されていた)は、セミナー直前にホワイトハウスから「参加を見合わせるように」との要請を受け、出席しなかった。一方、何も連絡がなかったナイは、予定通り出席した。政府高官人事情報の事前漏洩を極端に危惧するホワイトハウスが、セミナー開催中に有力候補者がメディアの取材を受けることを回避するため指示を出していたのだ。外務省からは北米局の鈴木量博日米安全保障課長をはじめ、対米政策を主管とする現役の外務官僚が出席したのに、「ナイがいるのに、なぜキャンベルは来なかったのか」との疑問を抱かなかったのが、駐日大使人事情報を得られなかった最大の理由である。
 それでは、なぜ、ナイでなくルースが起用されたのか。第一に、大使人事の決定権がヒラリー・クリントン長官率いる国務省ではなく、デービッド・アクセルロッド大統領上級顧問を中心とするホワイトハウスにあったからだ。第二に、駐日大使選考が「日本との関わり」や「日本問題の専門家」といった観点は考慮されず、飽くまでも内政上の観点から行われたということである。ルース次期大使とバラク・オバマ大統領の親密な関係も大きな判断材料となったのは間違いない。
 日本では、オバマが大統領選出馬を決めた2007年、有力IT企業多数をクライアントに持ち、ビジネスのうえでも成功した弁護士ルースが自宅にシリコンバレーの実業家100人を集め、一晩で30万ドル集めたことだけが紹介されている。ところがルースは、実は早くから政治の世界にコミットしていたのだ。スタンフォード大学のロースクールを卒業してWSGRに入ったものの、1984年の米大統領選挙では休職し、ウォルター・モンデール民主党大統領候補陣営に参加している。それ以前にも短期間だが、「ヤング・デモクラット」の一員としてジミー・カーター政権時代にホワイトハウスに「勤めた」経験がある。
 要は、筋金入りの民主党活動家である。もちろん、92年と96年の大統領選挙ではビル・クリトンを支持したが、ルースがこれまでに最もエネルギーを傾注したのは、2000年選挙でのビル・ブラッドレー候補の応援であった。ルースのブラッドレーとの出会いは、プリンストン大学の学生時代に同じ寮にいたダニエル・オキモト・スタンフォード大学名誉教授の紹介によるものだ。さらに言えば、オバマは当初、ブラッドレー元上院議員に駐日大使を打診したのだが、ブラッドレーがルースを推薦したのである。
 このオキモト・コネクションは目を見張るものがある。カリフォルニア州選出のダイアン・ファインスタイン上院議員(彼女がオバマの大統領就任式の立会人を務めた)、ナンシー・ペロシ下院議長など、現在の民主党のエスタブリッシュメントから絶大の信任を得ている。そして今回の大使人事でも、WHのアクセルロッドに対し、オキモトがルースを強く推し、さらにはオバマがいま傾注する「グリーン革命」に絡むクリーン・テクノロジー業界で著名な投資家のクレイナー・パーキンス(やはりシリコンバレーを本拠する)もまた強力にバックアップしたというのである。筆者の米国でのソースは、新エネルギー・ビジネスを別にすれば全てのニュービジネスについて、オバマ政権は東海岸から西海岸へのパワーシフトを目指しており、人材を輩出するシンクタンクや有名私立大学もCSIS、ブルッキングス研究所、ハーバード大学などからその中心はスタンフォード大学アジア太平洋研究センター(APARC)に移りつつあるというのだ。ルース駐日次期大使決定にはこうした背景があるのだ。因みに、日本でも民主党政権誕生に現実味が帯びてきており、鳩山由紀夫首相の可能性が高まってきているが、鳩山はスタンフォード大学で博士号を取得している。オバマ政権がそこまで読んだうえでの大使人事だったのかどうか、判断材料は手元にない。(5月28日記)