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人事で問われる「鳩山首相」

 これまで国政選挙当日にテレビ局の「選挙特番」でコメンテーターを務めたことが何回もあった。が、今回の第45回衆院議員選挙での報道体験は、従前のものとは大きく違った。投開票日の8月30日、当日は、民放ラジオ局・文化放送(JOQR)の特別報道番組「政権選択選挙スペシャル!480議席決戦」(午後5時40分から翌日未明0時30分)のコメンテーターを務めた。進行役のキャスターは大竹まことさん、サブが阿川佐和子さん。7時間弱の長丁場の出演というのも初めてだったが、それよりも何よりも、民主党の鳩山由紀夫代表(次期首相)が選挙戦最終日の29日夜に東京・池袋駅西口での街頭応援演説を終えた直後、興奮冷めやらぬ風で現場の記者団との即席会見で語った「(今総選挙戦では)革命的なうねりを感じた」という言葉を、スタジオにいた私が想起させられたほどの選挙結果だった。
 民主党308議席、自民党119議席――。これは「選挙を通じた革命」である。選挙前に300議席を誇った自民党の派閥領袖、現職閣僚をはじめ、首相・幹事長経験者などの大物現職議員の落選速報が、共同通信社のテレコンを通じて瞬時に文化放送報道部デスクに入り、それが直ちにスタジオに寄せられるのだ。臨場感溢れる、そうした「現場」の体験は、これまでの「選挙特番」でもあった。が、今回は中身が明らかに違った。自民、公明両党を見れば、海部俊樹元首相、山崎拓前副総裁、町村信孝元官房長官、武部勤元幹事長、伊吹文明元財務相、中川秀直元幹事長、中山太郎元外相、野田聖子消費者問題担当相、小池百合子元防衛相、久間章生元防衛相、中川昭一元財務・金融担当相、与謝野馨財務相、小坂憲次衆院議運委員長(元文科相)、額賀福志郎元財務相、林幹雄国家公安委員長、甘利明経済産業相、太田誠一元農水相、笹川尭総務会長、船田元・総務会長代理(元経企庁長官)、丹羽雄哉元厚相、太田昭宏公明党代表、北側一雄同幹事長、冬柴鉄三元国土交通相など選挙区で相次いで落選したのだ(町村、武部、中川秀直、野田、小池、額賀、林、甘利、与謝野は比例復活を果たした)。森喜朗、福田康夫両元首相、古賀誠選対副本部長、二階俊博元経済産業相もギリギリまで「当確」が出なかった。戦後日本の政治史を書き換える大変革となる民主党大勝を示す相次ぐ当確報道の一方で、こうした大物の落選速報には、スタジオにいた私は最後までハラハラドキドキだった。
 8派閥(津島派の津島雄二元厚相の引退により、同派は会長不在)の領袖では、麻生太郎総裁(首相)、高村正彦元外相、古賀元幹事長、二階前経産相の4人だけが勝ち残り、町村、伊吹両氏は敗者復活組のため、事実上、領袖の資格を失うことになる。最大派閥の町村派(清和会)は62人から23人、津島派(平成研)は45人から13人、古賀派(宏池会)は51人から25人、山崎派は37人から16人、伊吹派(志帥会)は20人から8人、麻生派(為公会)は16人から7人、高村派は14人から6人、二階派は12人から1人など、軒並み半減か3分1に激減した。参院議員を合わせて辛うじて最大派閥の座をキープした清和会が総勢50人(選挙前は89人)、最小派閥・二階派は総勢14人が3人に成り下がってしまった。この数字だけから判断しても、もはや自民党の派閥は溶解したと言っていいだろう。9月28日実施の総裁選挙で舛添要一厚生労働相、石破茂農水相、石原伸晃幹事長代理の3人のうちのいずれかがポスト麻生というのが「常識的」な見方だが、ダークホースとして河野太郎前衆院外務委員長の可能性を排除すべきではない。いずれにしても、野党第1党として自民党の再生を目指す後継総裁選びは、もはや派閥単位の力学では決まらない。
 さて、肝心の民主党政権である。鳩山政権の立ち上げを前に早くも政権党・民主党内の不安要因が表面化した。私が8月25日発行の『インサイドライン』(8月10・25日合併号)で記した鳩山次期首相の小沢一郎代表代行に対する「従属度」に関わるものだ。鳩山氏は30日夜の会見で、翌日にも官房長官など主要閣僚を明らかにして「政権移行チーム」を結成、閣僚・党人事を決めたいと明言した。ところが翌31日になって、全ての人事は9月16日予定の衆院本会議で首班指名された直後に一気に行うと、前言を翻した。
 何があったのか。民主党幹部周辺には厳重な緘口令が敷かれており、確定情報はないが、恐らく鳩山氏と小沢氏の間で人事を巡る綱引きがあり、官房長官、財務相、外相、新設の国家戦略局担当相人事を首班指名前に発表できる状況にないのではないか。選挙戦終盤になるとマスコミ辞令も含め当初は、「菅直人官房長官」、「藤井裕久財務相」、「岡田克也外相」説が有力視されていた。ところが、投開票日の直前になって、2つの理由からこの人事構想に変化が見られたとの情報が入ってきた。鳩山氏が"小沢離れ"が指摘される藤井氏を内閣の要である官房長官として官邸に据えたいと思い始めた、小沢氏の党内勢力増大を危惧する岡田氏が幹事長留任を強く求めている、という理由から、先ず「藤井官房長官」と「岡田幹事長」ありきで、当初構想を差し替えようとしたところ、小沢サイドから差し込まれ白紙となったというのだ。いずれの人事も、「小沢従属度」に関わることなのだ。
 こうした党内人事抗争が起こるのには、もちろん、理由がある。巨大与党になった民主党だが、実は深刻な問題を抱えているのだ。人材不足が、それだ。確かに同党には古川元久衆院議運筆頭理事(当選5回)、松本剛明元政調会長(4回生)、長妻昭政調会長代理(同)、松野頼久筆頭副幹事長(同)、細野豪志国対副委員長(同)、馬渕澄夫政調副会長(3回生)、松井孝治NC内閣府相(参院議員)、福山哲郎政調会長代理(参院議員)など、中堅・若手に政策通が少なくない。だが、政府経験者(閣僚、官邸)となると、人数の上では12人いるが、民主党政権の中枢を担う実際的な人物と言えば僅かに4人である。
 現職議員の中で経験者を挙げてみよう。西岡武夫元文相(竹下政権)、羽田孜元農水相(同)・外相(細川政権)、鹿野道彦元農水相(海部政権)、渡部恒三元自治相(同)、石井一元国土庁長官(同)、田名部匡省元農水相(宮沢政権)、江田五月元科学技術庁長官(細川政権)、中井洽元法相(羽田政権)、田中真紀子(科学)技術庁長官(村山政権)・外相(小泉政権)である。だが、正直ベースで言えば、彼らはこれからの鳩山政権を担う人材ではない。
 であれば次に、鳩山次期首相以下、小沢一郎代表代行、菅直人代表代行、藤井裕久最高顧問、そして岡田克也幹事長という鳩山政権の中枢を占める人物を見てみよう。この5人のうち岡田氏だけが過去、「政府(閣僚、官邸)経験」がない。鳩山氏は非自民連立の細川護煕政権の官房副長官(政務担当)として官邸経験があり、菅氏は橋本龍太郎政権の厚相として「エイズ問題」で男を上げた。小沢氏の場合、中曽根康弘政権の自治相と竹下登政権の官房副長官(政務担当)として閣僚と官邸の両方を経験している。もちろん、そのうえに海部俊樹政権下の政権党であった自民党幹事長も務めた。
 注目すべきは、大蔵官僚出身の藤井氏である。佐藤栄作政権の幕引き官房長官だった竹下官房長官秘書官、そして次の田中角栄政権の二階堂進官房長官秘書官も引き続き務めるという異例の経験がある。さらには細川政権の蔵相でもあった。今年の6月に77歳になった藤井氏は当初、総選挙不出馬を表明、鳩山政権誕生の暁には、首相官邸を取り仕切る官房副長官(事務担当)として、霞が関官僚群に睨みを利かせる役回りが期待されていた。ところが、8月17日に日本記者クラブ主催の6党党首討論会で鳩山氏が「官房長官、財務相、外相には民間からではなく国会議員から起用したい」と発言した翌日の衆院選挙公示日の未明に発表された比例代表名簿に、藤井氏の名前が記載されたのだった。こうしたことから、「藤井財務相」説が30日の選挙当日を前に永田町を駆け巡ることとなった。
 ところが、先述したように、現時点では藤井氏は官房長官、菅氏は国家戦略担当相が有力視されるのは、やはり「小沢ファクター」に起因する。「党中党」と言っていい小沢派の約120人という勢力倍増に伴う小沢氏の影響力増大を危惧する岡田氏が強く幹事長留任を求め、鳩山氏は小沢氏と距離を取り始めた藤井氏を官邸に置きたいと考え始めたから、一度は言明した「二段階人事=政権移行チーム結成」がご破算となった。一夜にして前言を翻すほど、鳩山氏は小沢氏との関係に傾注せざるを得ないのだ。
 「人事は自分ひとりで決める」と、鳩山代表は会見で言明している。が、民主党関係者の多くは疑問符を付ける。年内までにクリアしなければならない「予算」と「安保」という高いハードルが待ち受けている。9月16日の首班指名前に閣僚・党人事の決断が迫られる鳩山氏。「大きな期待」は「大きな失望」と表裏一体である。       (9月1日記)