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越年する菅vs小沢の“最終戦争”

 この1年、日本の政治は「小沢問題」に振り回されてきた。2010年2月、民主党の小沢一郎元代表の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐって現職の石川知裕衆院議員を含む元秘書ら3人が政治資金規正法違反(虚偽記載)で起訴された。小沢氏自身は検察の判断で不起訴になったが、その後、民間人がメンバーの東京第5検察審査会は小沢氏の起訴相当を議決、1月13日の民主党大会後、同28日召集予定の通常国会前には正式に強制起訴される見込みだ。年末だというのに、民主党は性懲りもなく小沢氏を起点とした政争に明け暮れている。今度の確執は小沢氏の国会招致をめぐる党内対立だ。民主党の菅直人代表(首相)と岡田克也幹事長が政治倫理審査会への出席を促し、疑惑の説明を求めたのに対し、「一兵卒」小沢氏はこれを拒んだ。将校の言うことを聞かない一兵卒がおかしいのか、一兵卒を寄って集って追いつめる将校側に度量がないのか。反小沢と親小沢の党内対立は危険水域に入り、直談判に及んだ菅氏と小沢氏の関係はもはや修復不可能である。政争の核心は、代表選で菅氏との一騎打ちの末、破れて一兵卒に成り下がった小沢氏による権勢維持策と政界サバイバルである。
 国会の政治倫理審査会なんか出る必要がないという小沢氏の論拠は「司法への妨害」論である。岡田氏に宛てた回答書で小沢氏は次のように述べている。「近々東京地裁での公判が開始される私が、国会の政治倫理審査会に自ら出席しなければならない合理的理由はない。なぜなら政治倫理審査会の審査や調査は立法府の自律的な権能であり、司法府への介入を避けるなど慎重でなければならないからである」。屁理屈に近い。強制起訴の対象は土地取引を巡る政治資金規正法違反事件で、小沢氏にまつわる全疑惑のごく一部でしかない。国会は個別事件の事実解明で司法に対抗しようとしているわけでない。国民が一番知りたいのは、土地を購入した金の出所である。これまで小沢氏は説明してこなかった。ところが、12月28日午後、同氏は一転して、出席する意向を記者会見で表明した。実はこの小沢氏の態度急転は、反小沢グループの枝野幸男幹事長代理が今月初旬、筆者に言っていたことである。「合理的に判断すれば、小沢氏にとって政倫審に出席した方が得策だとすぐに理解できる。ところが、小沢さんという人は、我々が合理的だと考えること、そうする方が理にかなっていると思うことに対して、いつも逆のことをしてきた。我々にとって一番困る展開は小沢さんが政倫審に出席して『本件については訴追されるのでお答えできません』と述べることだった。それだけで国会での説明責任を果たした言い募ることができるからです」と。まさに反小沢グループにとって一番困る展開となったのだ。
 そもそも政治倫理審査会とはどういう組織なのか。名前からは「政治とカネ」にまつわる疑惑を徹底追及する印象を与えるが、自民党政権時代には、実質的に政治家が証人喚問を回避するための免罪符のような役割を果たしてきた。与党議員が自らの申し立てで弁明する場を与えられる形で、証人喚問と違ってウソをついても議員証言法にもとづく偽証罪などの罪に問われない。12月20日、菅首相と小沢元代表のサシの会談が首相官邸で行われた。小沢氏は二人だけの会談を要求、岡田氏が同席することを認めなかった。90分に及んだ会談の中身は、概ね以下の通りである。
 菅首相 「(小沢氏は)一兵卒として協力してくれると言ったじゃないですか。協力してくれるなら、衆院政治倫理審査会に出てくれませんか」
 小沢元代表 「それは命令ですか。代表としての意見か、個人としての意見ですか」
 菅 「個人の意見なんかありません。私が党の代表なのだから」
 小沢 「それは命令ですか。協力するって、そんなことを命令するのですか」
 業を煮やした菅氏は小沢氏がかつて会見で発言した「約束」を秘書官にプリントアウトさせ、会談の場に持ってこさせた。それでも押し問答は続いた。
 小沢 「政治倫理審査会に出れば何が解決し、国会対策でどういう利点があるのか、説明してほしい」
 菅 「約束したじゃないですか。出なければ党として処分しなければならない。いいのですか」
 小沢 「仲間なのだから、冷静にちゃんと話をしましょうよ。官房長官の問責決議はどうするのですか。私が政治倫理審査会に出れば、野党とうまく話が進むのか」
 菅 「問責決議はいくらでもある。あのような決議はこれまでにもいくらでもあった」
 会談後、菅首相は岡田幹事長を伴って直ちに記者団に説明した。首相サイドが明かす二人のやりとりで浮かび上がるのは小沢氏の傲慢な姿勢だ。菅氏は周辺に「小沢の論理はめちゃくちゃだ」と吐き捨てるよう語っている。一方、小沢氏側が強調するのは「見通しがなく、冷静さを欠く指導者としての菅の姿」だ。小沢氏は会談後、連日支持議員の会合に顔を出し、首相とのやりとりを明かしている。「菅さんはものすごく興奮していた。何を言っているのか、意味が分からなかった。あんな菅さんを見るのは初めてだ、"イラ菅"と言われる意味がわかった」「同じことを何度も聞かされて肩が凝ったよ」とおどけて見せたりもした。どちらがどちらを追いつめているのか判然としない。ただ、百戦錬磨の小沢氏も今回に限っては手詰まり感が漂う。窮地に陥ると、新党カードを効果的に使ってきた同氏だが、今回は周辺に「離党もないし、新党もない」と繰り返し述べている。小沢氏と行動を共にする某大物が当面の小沢戦略を語ってくれた。「小沢が今目指しているのは『党内野党』の立場で執行部批判をして揺さぶる一方、多数派工作をして支持グループを広げる。そして、通常国会で野党から内閣不信任決議案が出たとき、賛成に回り一挙に菅内閣をつぶす」――。仮に小沢氏が離党しても、同調者はそれほど多くないという見方が根強く、それが同氏の選択肢をせばめている。政倫審出席表明も手詰まりからくる一手と言えなくはない。新党を結成するにしても少なくとも10億円という巨額の資金が必要だ。だが、「小沢氏資金ショート」説も囁かれている。党分裂への恐怖をテコに主導権を握ったかつての小沢手法はすっかり影をひそめている。さらに言えば、山岡賢次党副代表など有力な側近が次々と小沢氏から離反したため、小沢氏の考えを「代弁」するグループ幹部や、小沢氏の意向を踏まえて動く影響力のある議員が少なくなり、周辺は「小者」ばかりとなった。その結果、小沢氏本人が前面に出て説明することになり、以前のように「本人が何を考えているかわからず、不気味だ」という警戒感が薄らいでいる。
 執行部の一人は「最大80人が行動を共にするという向きもあるが、現状ではせいぜい30〜40人だろう。先の代表選で小沢さんに1票を投じた細野豪志前幹事長代理も樽床伸二前国対委員長、松本剛明外務副大臣、原口一博前総務相も離党はしない」と言い切る。数字の根拠はこうだ。小沢支持の衆院中堅・若手議員の集まりである「一新会」は、党内対立が激しくなってから連日、会合を開いているが、常連メンバーは20人に満たないことが多いという。これに先の衆院選で初当選した小沢チルドレンでつくる「北辰会」メンバーを加えても大所帯にはならない。一新会、北辰会の全会員がそっくり小沢氏に付いていくわけでない。菅首相は23日夜に会食した石井一副代表、藤井裕久元財務相に対し、自らの「反小沢」路線について「既にルビコン川を渡っている」と語っている。菅・岡田・仙谷枢軸ラインは、「小沢切り」と内閣改造・党役員の一部差し替え人事でこの難局の打開を図りたいとしている。だが、今回、政倫審出席を表明したため、小沢氏が政倫審出席を断れば「離党勧告」「党員資格停止処分」へと突き進み、小沢氏を政界から葬るという強硬路線は軌道修正を余儀なくされた。
 次の焦点は内閣改造・党役員人事に移った。菅首相は遅くとも民主党大会前には踏み切ると見られるが、問題は、参院で問責決議が可決された仙谷官房長官と馬淵澄夫国土交通相の処遇である。野党は自民、公明党などが一致して仙谷、馬渕両氏の辞任を要求していることから、更迭不可避の見方が支配的だ。そしてその場合の後任官房長官候補は2人いる。一人は玄葉光一郎国家戦略相兼党政調会長で、もう一人は枝野幹事長代理だ。玄葉氏を起用すれば、仙谷氏は政調会長として玄葉官房長官を党側から全面支援することになる。仙谷氏が兼務している法相も補充しなければならない。加えて、馬淵氏の後任国交相や玄葉氏の後任国家戦略担当相も任命する必要がある。ただ、仙谷官房長官は、問責決議された閣僚がその都度、辞任を余儀なくされれば、解散・総選挙という常在戦場にいる衆院議員に比べ任期6年が保証されている参院議員の力が大きくなりすぎるとの持論を繰り返し語っている。確かに、竹中治堅政策研究大学院大学教授が、衆院に於ける内閣不信任案成立と参院に於ける問責決議可決と同じ効力を持つことに疑問を呈しているように、学術的に定見はない。筆者は、菅首相が自分の政権の司令塔である仙谷官房長官を外す選択はしないと見ているが、仙谷官房長官と岡田幹事長のスワップ人事の可能性は排除すべきではないと思う。いずれにしても、菅・岡田・仙谷枢軸ラインが目下狙いを定めているのは、小沢系と見られているが同氏とは一線を画している細野、松本、樽床氏であろう。特に自民、公明両党にパイプがある樽床氏を党国対委員長に返り咲かせたら、小沢陣営は総崩れになる可能性がある。彼ら3人は人事で反小沢陣営に取り込まれると小沢支持グループは雲散霧消しかねない。菅首相はそこに照準を合わせ「小沢切り」を前提とした内閣改造人事の絵柄を描いているのではないか。いずれにしても菅vs小沢の“最終戦争”は越年する。                 (12月28日記)