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米中戦争は「一時休戦」へ !!

 冒頭、お断りしなければならない。筆者はかねてから「衆参同日選挙、消費増税再々延期」の見立てを主張してきた。しかし、事ここに至り、この自説を全面撤回する。一言「不明を詫びる」と言って、引き下がるべきかもしれない。ただ、許されるなら、若干の「釈明」をさせていただきたい。

 何十年も永田町界隈で、からだを張って政治を中心に取材を続けてきたので「一寸先は闇」であるのは重々承知している。それでも先を予測するのは、職業柄宿命であり、筆者の「業」である。間違えたこともあったし、当たったこともあった。今後もこの姿勢を変えることだけはしたくない。

 今回も筆者の見立てに正反対の情報は数多く得ていた。少し例を挙げるなら、5月15日に安倍晋三首相は清和会担当だった政治記者OBによる私的会合で@衆参同日選は大義名分がないので行わないA消費増税は実施するC総裁4選は望んでいない、などと明言していた。5月21日早朝に、知人のNHK報道局の幹部から「消費増税は実施されるようだ」と電話をもらっている。5月31日、自民党首脳は筆者に「現下の経済情勢がリーマンショック級とは言えない。私は、柳の下に3匹目のドジョウはいないと思う。ここで3回目の延期は国際社会に対するメッセージが明らかにマイナスに作用する」と非公式に語っている。6月4日には、創価学会の「ディープ・スロート」から「太田昭宏氏の選挙区(東京12区)での世代交代は衆院選がないことの証しだ。世代交代すれば新しい名前が浸透するのに最低でも1年かかる。仮に解散があれば前回次点だった共産党に議席を奪われかねない。だから、このタイミングで世代交代するのは解散がないということだ」との見立ても聞いていた。

 それでも筆者は持論を変えなかった。情報が錯綜する中、最も頼ったスタンディング・ポイントは、自分が首相だったらどう考えるか、だった。結果的にそれが間違えたのでご批判は甘受する。これ以上は「引かれ者の小唄」に映るので、とどめたい。

 さて、本題に移る。テーマは目移りするところだが、安倍首相とイランのハメネイ師会談から始める。安倍首相のイラン訪問は、実は4月27日の安倍・トランプゴルフ会談に源を発している。ゴルフの最中、トランプ米大統領から「イラン問題で困っている」と悩みを打ち明けられた。安倍首相は「自分もイラン問題は中東和平交渉との絡みで大きな関心を持っており、何かお手伝いしたい」と応じている。

 思い起こせば、安倍首相の父、晋太郎氏は外相時代の1980年のイラン・イラク戦争勃発後、両国を訪問し和平工作を行っている。当時、ラフサンジャニ・イラン国会議長との会談を行った際、安倍首相は晋太郎氏の秘書官として同行している。中東和平へのDNAは脈々と受け継がれていたようだ。

 米政府内の中東専門家は、娘婿のクシュナー大統領上級顧問である。彼は、サウジアラビアのムハンマド皇太子と彼の弟の前駐米大使と太いパイプを持つ。また、イスラエルのネタニヤフ首相と直接つながるチャンネルもある。しかし、イランへのアクセスがない。

 安倍・ハメネイ会談の直前、ホルムズ海峡で日本のタンカーが攻撃された。米側はイランの革命防衛隊が襲撃したと主張、イラン軍の機雷回収とされる映像を公表した。一方、イラン側は否定している。当然のことだが、ホルムズ海峡を通過する船舶の船籍、所有者、積載荷物、出発港、行き先などすべてイランは掌握している。誰が仕掛けたかはともかく、会談のタイミングを計っての攻撃だったことは間違いない。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは26日付で「(安倍首相は)米国とイランの懸け橋になることを目指したが、両国の対立が一段と不安定さを増すなど中東和平の調停役としてのデビューは厳しい結果に終わった」とネガティブに論評した。しかし、主要閣僚の一人は筆者に「会談の中身については絶対言えないが、会談後ハメネイ、トランプ両氏のツイッターでの罵りあい発言をそのまま真に受ける必要はないとだけは申し上げる」と語っている。何かは不明だが、ポジティブに受け止められる内容があったようでもある。

 安倍外交の晴れ舞台は、28〜29日大阪で開催される主要20か国・地域(G20)首脳会議だ。世界の耳目は、29日午前11時30分から1時間の予定で行われる米中首脳会談に集まっている。両首脳は世界経済の行く手に垂れ込める暗雲を払いのける手だてを用意しているのか。

 トランプ氏のツイートで明らかになっているが、18日午前8時ごろ、米中首脳電話会談が行われた。日本の報道では、トランプ氏が習近平国家主席にかけたことになっているが、事実は逆である。習氏がホットラインを通じてかけてきた。しかも、中国側からの事前の打診なしという異例のアプローチだった。

 習氏は、米中は対等に対話し問題を解決すべきだとしたうえで@G20サミット時のトップ会談は協定締結などではなく、今後の交渉をレールに乗せるための話し合いであるA中国の社会制度、政治統治の仕組みを理解して欲しい。でなければ、交渉を続けても限界があるB中国企業(ファーウェイ)を世界市場で公平に扱ってほしい――の3点を要望した。

 この電話会談後の同日夜11時ごろ、トランプ氏はツイッターに、G20サミットに合わせて習氏と会談することを明らかにした。同時に、ホワイトハウスにライトハイザー米通商代表部(USTR)代表、ムニューシン財務長官らを招集、G20のトップ会談は中国との関係修復であり、交渉ではないと言い渡した。習氏の要請を受け入れたと言っていい。

 敬愛するジャーナリストの田原総一朗氏は、米中首脳会談で「習氏がトランプ氏に花を持たせるのではないか」(週刊朝日7月5日号)と予測している。その根拠として挙げているのが、トランプ氏の頭の中は来年の大統領選でいかにして勝つかでいっぱい。一方、習氏のポストは終身で、5年先、10年先まで考えることができる。中国は「中国製造2025」「同2035」「同2049」の政策目標を掲げ、25年に経済、技術などあらゆる分野で米国と肩を並べる。49年には経済力でも軍事力でも米国を追い抜くことを謳っている。田原氏は習氏の戦略について、トランプ氏が大統領に再選された後自分のペースに巻き込もうとしているので今結論を急ぐことはない、と読む。

 米中の対立は、表向き貿易戦争だが、実態は覇権戦争である。どちらが世界ナンバー1になるか、国家の威信をかけた戦いである。だから「行きつくところまで行く」(ジェームズ・プリスタップ米国防大学国家戦略研究所上席研究員が筆者に語った言葉)という見方が出てくる。

 今後すべての産業を再定義する、と言われるAI(人工知能)を制する国や企業が覇者への最短コースになる。中国のAI関連投資は18年、約4兆円で世界の4分3を占めた。世界のAIベンチャーの資金調達額のうち、中国が48%を占め、米国38%と逆転した。お尻に火が付いた米国は手をこまねいているわけにはいかない。あらゆる手段を使って中国の行く手を阻もうとする。

 G20サミット議長の安倍首相は、米中対立の波しぶきをもろに受けて減速する世界経済を立て直す政策提言を共同声明に盛り込むことができるのだろうか。米・イラン仲介役を買って出たのに続き、米中の「トラブルシューター」になれるのだろうか。因みに、本日夜に安倍首相は習主席と夕食会を催す。安倍氏のリーダーシップを注視したい。

(2019年6月27日)