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「安倍1強」で泣く人と笑う人

 「中華料理は何でも食材にする。テーブルの脚以外は、と総理に報告したよ」。囲み取材の番記者たちに、故本田宗一郎氏(ホンダの創業者)はそう言って笑い飛ばした。経済人訪中団代表が故中曽根康弘首相に訪中報告に来た時のことだ。新型コロナウイルスによる肺炎が猛威をふるい、感染はパンデミック(世界的流行病)か否かの瀬戸際に来ている。中国では5974人が感染、死者が132人に上った(1月29日のロイター電)。新型ウイルスのニュースから、半世紀近く前に聞いた本田氏のエピソードを図らずも思い起こしてしまった。

 多くの新型ウイルスは動物から人への感染が発端となる。今回のウイルスは遺伝子解析ではコウモリに近いそうだ。武漢の市場で、コウモリのウイルスが別の動物を介して人に感染した可能性が高い。タケネズミ、アナグマ、ヘビが疑われている。昨年、英ケンブリッジ大学が人類滅亡のシナリオとして10個列挙した。その中にAI(人工知能)、核戦争、気候変動、小惑星衝突などがあった。私見ではウイルス感染のパンデミックを入れてもいいのではないか。速やかな終息を願うばかりである。

 気候変動余波もまた深刻な悲喜劇をもたらしている。記録的な暖冬で日本海側を中心に雪が少ない状態が続いている。小雪に困惑するのは除雪を担う業者だ。札幌市では除雪車の出動が例年の4分の1だという。業者は「雪を運び出す作業は1回もしていない」と嘆き、市は過去の平均出動回数を下回った分の6割を「待機保証金」として業者に支払う。豪雪地の新潟県長岡市も今シーズンほとんど雪が降っていない。除雪業者は「降り過ぎれば災害だが、降らないことも我々には災害」と悲鳴を上げる、と時事通信が伝えている。

 東京五輪まで半年を切った。地球温暖化で日経新聞が興味深い分析記事を載せている。2050年には、世界の大都市の6割に当たる122都市で8月の五輪開催が困難だという。東南アジアで開催に適した都市は皆無だ。スポーツ科学に基づいて、競技の中止や中断の指標となる「暑さ指数」で割り出した結果だそうだ。8月開催の背景には、五輪放映権を握る米国放送大手の意向がある。世界的にみてリスクが少ないのは、シベリア、アラスカや季節が反対の南半球の国々の南極よりという地図まで載せている。東京五輪・パラリンピックで熱中症事故が起こらないことを重ねて祈願するしかない。

 東京五輪前には、7月5日投開票の都知事選が控えている。立憲民主党の長妻昭選対委員長はテレビ番組で、野党統一候補として「れいわ新選組」の山本太郎代表を検討したいと述べた。左派ポピュリズムを代表する山本氏は依然人気が高い。本人は「選択肢として排除しない」と満更でもなさそうだ。小池百合子都知事や後ろ盾の二階俊博自民党幹事長が、最も警戒する候補者である。実際に出馬することになったら、都知事選も興味津々となる。

 1月20日召集された通常国会は大荒れが予想される。衆参予算委員会は、オール野党で「桜を見る会」問題とIR疑惑追及が必至だ。公平に見て、分は野党にあり、安倍晋三首相がハンドリングを誤れば、不測の事態も予想される。ただ、各社の総理番、首相周辺から聞こえてくるのは、首相が「めげている」「元気がない」「やる気を失せている」などの報告が一切ない。安倍氏は逆境になるほどアドレナリンが湧くタイプなのか。

 対して、しょげ返っているのが菅義偉官房長官と二階幹事長だ。菅氏は、自分の携帯電話番号を密かに教えている「信頼している記者」からの問い合わせにも年初来一切出てこない。「桜」の初動対応ミスと、内閣改造で自ら押し込んだ河井克行前法相と菅原一秀前経産相の辞任騒動が、永田町では「菅のドジ」評価になっている。昨夏の参院選までは「令和おじさん」として破竹の勢いだったが、今や「やり過ぎ」「調子に乗り過ぎ」の罵声に転じてしまった。菅氏はキャピトル東急ホテルのレストラン「オリガミ」内の個室を月曜から金曜まで朝食懇談用に押さえている。ところが、年初来使用頻度が極端に減っている。意気沮喪して懇談する気も起きないのだろう。

 これにほくそ笑んでいるのが麻生太郎副総理兼財務相だ。後半部分でダメになった官房長官はなぜか秋田県出身者が多い。吉田茂を裏切った鳩山一郎内閣での根本竜太郎、短命内閣の石橋湛山内閣での石田博英など想起、そこへ菅氏を思い重ねているフシがある。

 政界は有為転変が常だ。二階幹事長が元気な時は、かつての盟友、小沢一郎氏に元気がなかった。その逆もある。今、二階氏に元気がないのに比較して、野党「ワンチーム」を仕掛けている小沢氏は元気になり始めている。二階氏の憂鬱は、カジノを含む統合型リゾート(IR)事業をめぐる汚職事件に端を発する。収賄容疑で再逮捕されたIR担当の内閣府副大臣だった衆院議員の秋元司容疑者を含め東京地検特捜部から事情聴取された国会議員全員が二階派である。

 昨年5月、参院選に自民党比例代表候補として二階氏主導で公認した尾立源幸氏(元旧民主党参院議員)の励ます会が行われた。二階氏が主賓としてあいさつ、平沢勝栄総務会長代理、秋元容疑者が続いた。いずれも二階派の面々だ。この会を取り仕切ったのが全日本遊技産業政治連盟などパチンコ業界である。特捜部は、パチンコ業界が尾立氏選対に派遣した人物をすでに事情聴取している。パチンコ大手ガイア(業界3位)の家宅捜索も行っている。パチンコ業界との関連で何か特別な疑惑があり、IRとパチンコの「合わせ技」で一本取ることを考えているのか。

 二階氏はこうした状況にただならぬプレッシャーを感じている。81歳にもなって今日はベトナム、明日は韓国と飛び回っているのは、走っていないと不安に陥るからなのだろう。今のところ二階氏に司直の手が及ぶことは考えにくいが、昨年9月の内閣改造・党役員人事で幹事長続投に固執したのは、動物的嗅覚で周辺へ捜査の手が及びつつあることを察知したからだという背景説明がある。勘ぐり過ぎだと思う。しかし、今秋の人事で、二階氏が副総裁、岸田文雄氏が幹事長、官房長官に加藤勝信氏が起用されるなら、二階氏はかつて金丸信氏が幹事長から副総裁になって特捜部に立件された「悪夢」がよぎるはずだ。

 麻生氏は菅氏だけでなく、もともと二階氏とも関係が良くない。政権中枢でのパワーバランスの流動に、安倍氏は心を痛めているのではなく、逆に岡目八目の境地で楽しんでいるのかもしれない。そうでないと、最近の高揚ぶりが説明つかない。今後の展開を注視したい。

 与党が失態を重ねているのに対し、野党はどうなのか。ワンチームの「1強野党」を目指して年をまたいで合流協議を続けていた立憲民主党と国民民主党の結論は「当面合流は見送り」という事実上の決裂だった。早期解散もありうる状況下での合流見送りに対し、二階氏は「合流しようがしまいが『どうぞご自由に』という感じだ」と突き放した。合流頓挫は、党内内立で空中分解した旧民主党の体質から抜け切れなかったのが原因という見方で永田町ウォッチャーは一致する。

 ポイントは合流方式だった。立憲がこだわったのが「吸収合併」だ。国民は「対等合併が基本」と反発した。その象徴ともなったのが党名である。立憲は当初から「党名だけは絶対に譲らない」の姿勢を通した。これに対し、国民は「党名も変えないで、立憲にひれ伏す吸収合併」に反発が強かった。野党再編のキーマン、山本太郎氏は「もともと一緒だった人たちがなんで改めて合流できないのか」と呆れる。近親憎悪みたいなものかもしれない。合流見送りは、四面楚歌の安倍政権にわざわざ塩を送るようなものと揶揄されている。本年の政治も“荒れる”ことだけは間違いなさそうだ。

(2020年1月29日)