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年明け早々の日露交渉で進展か !!

 だいぶ前「狭い日本そんなに急いでどこへ行く」という交通標語が流行った。外国人労働者受け入れを拡大する出入国管理法改正案が11月27日夜、衆院を通過した時、そのキャッチフレーズが思い浮かんだ。衆院法務委員会の審議17時間は拙速極まりない。

 在留資格を持つ「特定技能」の中には、家族の帯同が法的に認められる。事実上の「移民法」という指摘に反駁するのは難しい。政策の大転換なのに国民的議論の場もなく、国会委員会の生煮え議論でごり押しするのは、来春導入後の現場や地域社会でのハレーションが怖い。日本で暮らす外国人の健康保険や年金をどうするかも決まっていない。

 今、日本の就業者は6500万人ぐらい。それが2025年には少子化の影響で900万人も減少する。深刻な人手不足に対応するため外国人を受け入れよう、というのは今年6月、閣議決定された。それから半年もたたないうちに法案提出、国会での議論である。準備は間に合うはずがない。筆者は介護業界に知人がいる。彼が語るには、同法改正案提出後に法務省の役人が「介護業界は人がいくら足りないんだ」と聞いてきたそうだ。そんな場当たり対応で、まともな国会答弁ができるのか。政府は三十数万人の受け入れ枠を発表したが、900万人減るのに30万人を入れても焼け石に水である。介護業界の知人は「外国人を受け入れて問題が起きたとき、国は知らんぷりで、責任を現場に押し付けてくることが一番心配だ」と語っていた。迷走する出入国管理法改正の成り行きを注視したい。

 さて、日露関係が本格的に動きそうなので、小欄ではこれを中心にリポートする。日露といえば、新党大地代表の鈴木宗男氏のライフワークである。彼にもたっぷり背景説明を受けた。北方領土問題の原点は、鳩山一郎首相とブルガーニン・ソ連首相が調印した1958年の「日ソ共同宣言」に源を発する。その流れは2001年、森喜朗首相とプーチン大統領が署名した「イルクーツク声明」へと引き継がれた。ところが、小泉純一郎政権下の02年10月の日露外相会談で、当時の川口順子外相がイワノフ外相に「イルクーツク声明」の取り下げを通達、その後の日露交渉「空白の10年」を招いた。

 安倍晋三首相とプーチン大統領の日露首脳会談は、12月1日にブエノスアイレスで行われる会談で23回目(!)である。両氏とも在任期間が長いから、むべなるかな、にしても多い。9月12日、ロシア・ウラジオストクでの東方経済フォーラム討論会(習近平中国国家主席も同席)で、プーチン氏が安倍氏に向かって唐突に「前提条件なしの今年末までの平和条約締結」を提案した、と日本のメディアは大きく報道した。平和条約締結と北方領土問題を切り離す揺さぶりをかけてきた、という解説もあった。コトの真相は少し違うようである。

 プーチン発言の前段に、安倍氏が「平和条約締結に向けた交渉と領土問題に協議を並行してやっていくべきだ」と発言している。それを受けてプーチン氏は「シンゾーの考えは正しい」と答えた。討論会の司会者が「では大統領、いつ頃から平和条約締結の交渉を行うつもりですか」と質問を投げかけた。するとプーチン氏「いま思いついたのだが」と前振りし、前述の「前提条件なしの…」の発言につながった。プーチン氏と司会者は事前に打ち合わせして「出来レース」だったとの見方もあるが、一連の文脈を見ずに発言を一か所だけ切り取って報道すると「フェイクニュース」になる恐れがある。

 11月14〜15日、シンガポールで開催された東アジア首脳会議での安倍・プーチン会談は、後世の史家から長い日露交渉での転換点と位置づけられるかもしれない。この会談に安倍首相は秋葉剛男外務事務次官と谷内正太郎国家安全保障局長を同席させた。外務次官が首相に同行するのは異例である。通常は外務審議官(政務担当)が同行する。G7サミットの時だけ経済担当の外務審議官がお供する。14日の安倍・プーチン会談は1時間半に及んだ。記録係が同席せず、通訳だけ陪席する通称「テタテ会談」である。この会談の肝はこのテタテ会談の後に起こる。安倍首相は谷内氏と秋葉氏を部屋に呼び込み、一方のプーチン氏もラブロフ外相とウシャコフ外交担当大統領補佐官を招き入れた。両首脳は各々の側近2人に対し、平和条約締結に向けた具体的な作業に入るよう指示した。シナリオ通りのセレモニーである。今後の日露交渉は新しい枠組みでやる、という宣言でもあったのだ。

 安倍氏にとってより重要なのは、谷内氏と秋葉氏を部屋に招き入れたことで、今後の対露交渉は両氏が一体で臨むことになると国内外に示したことにある。このパフォーマンスが意味するところは次のような解説が妥当だろう。

 谷内氏はもともと平和条約締結・領土返還交渉について、2島先行返還の早期妥結に消極的だった。国内の識者、大学教授、保守派政治家、外務省のロシアンスクール組、条約畑は谷内氏が政権枢要にいる限り、安倍氏はプーチン氏との交渉で安易な妥協はできないとみていた。しかし、同じ条約畑の秋葉氏を陪席させた上で「指示」を出したパフォーマンスの裏には「平和条約締結・2島(歯舞諸島と色丹島)先行返還を急げ」という安倍氏の強い思いが込められている上に「あの谷内氏も『了解』したのだから納得してほしい」という4島一括返還派へのアピールが見て取れるのだ。

 安倍首相は11月8日、鈴木宗男氏と会談した際「日露は大きく動く」と語っている。「大きく動く」の中身はこれまでの経緯から平和条約締結・2島先行返還しか考えられない。これに対し、鈴木氏は@北方4島への自由往来A返還される島は一つでも二つでもいいB国後島周辺漁場の操業保証――の三つが担保されるのであれば「返還交渉は安倍首相にゆだねる」という北方4島旧島民らの最大公約数的要望を伝えている。

 今後の政治カレンダーを俯瞰すると、来年6月28〜29日、大阪でG20(主要20カ国・地域)首脳会談が開かれる。その直後に東京で行われる日露首脳による会談で合意・調印される可能性が高い、と筆者は常々書いてきた。参院選前のプロパガンダとして最も有効だからだ。この晴れ舞台で、G20を含む華々しい外交成果が出たら、一気に衆参同日選挙に持ち込む可能性だって否定できない。

 そこに至るまでに安倍氏がクリアしておかなければならないのは、北方2島の主権が日本に帰属した場合、将来にわたるまで米軍基地が建設されることはない、とロシアを納得させることだ。日米安保条約第6条、あるいは日米地位協定の「枠外」で、安倍氏がトランプ米大統領から口頭で「基地を置くことはない」と約束を取り付けたとしても法的効力はない。ポスト・トランプ大統領がその約束を覆すことがあるので承諾できない、とプーチン氏が安倍氏を土壇場で攻め立てることだって想定される。これはかなり厄介な問題である。どうすれば丸く収まるのか。キーマンである秋葉氏が密かに動き出している。

 年明けの1月23日、安倍氏はスイスのダボス会議出席前にモスクワに立ち寄り、改めて詳細を詰めることになる。その段取りや舞台裏の動きを巡って、筆者は図らずも「状況証拠」をつかんでしまった。その中身は明らかにできないが、外務次官自らが年末に恐らくワシントンとモスクワを訪れると見ている。つまり、秋葉氏はワシントンでペンタゴン、NSC(国家安全保障会議)、国務省の高官と会い、日本主権下の北方2島に米軍基地を建設しないためのネゴを行う。さらにモスクワに飛んでロシア側のカウンターパートと会談して、その約束の法的効力を協議するのではないか。来年1月下旬の安倍・プーチン会談まで時間がひっ迫しているので、事務方トップがお出ましになって交渉せざるを得ないということである。

 日経新聞とテレビ東京が11月23〜25日実施した世論調査によると、安倍首相がプーチン大統領と平和条約交渉を加速すると合意したことについて「評価する」は67%だった。また、北方領土問題の決着方法を聞いたところ「2島をまず先に返還すべきだ」が46%と最も多かった。4島の一括返還を求めた人は33%。自民党支持層で見ると、2島の先行返還に賛成は55%だ。自民党支持層ほど2島先行に理解があった。

 来年の政治的キーワードは日露交渉、消費再増税、国政選挙の三つである。これらが絡み合って政界は激しく動きそうな気配だ。

(2018年11月30日)