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米朝衝突は来春すぎか!?

 年の瀬に小欄を書いている。古希を過ぎると1年経つのが早い。若い時の2倍速である。それも道理で、人生の残り時間を分母に置き、1年を分子にして割り算すると、答えが若い時に比べて大きくなる。子供のころは人生の終点がはるかかなたで、時間がゆったり流れていた――。

 2017年のフィナーレ、仰天するようなニュースが筆者の耳元に飛び込んできた。首相官邸サイドから経済界トップに「18年1月9日、米国が北朝鮮攻撃に踏み切る。短期決戦で金正恩体制を瓦解させる。金はロシアに亡命。金王朝を存続させるが、後継に故金正男の長男、ハンソルを据える。事態が差し迫っているので、御社の韓国駐在員及び家族を密かに順次帰国させるように」と伝えられたというのだ。

 財界人が信頼できる人だったうえ、軍事作戦の突入日を明示、事後処理策まで具体的なので「すわ一大事」と、できる限り裏取りに走った。結論から先に言うと、案の定、ディスインフォメーションだった。なぜ、官邸が偽情報を流すような手の込んだことをしなければならないのか。北朝鮮に対し、いつ何時武力行使があるかわからないぞ、という疑心暗鬼状態にさせておく狙いがある。常に不安を掻き立て、金正恩に「喜び組」をはべらせくつろいだ状態でマグロのトロなんか食べさせないぞ、という心理作戦である。

 ディスインフォメーションが巡りめぐって筆者の耳まで届いたということは、安部官邸のどなたの発案か知らないが、フェイクニュースが狙い通りに機能したわけだ。おそらくこの偽攻撃情報は複雑な回路を経て北朝鮮まで届いているに違いない。

 米国が、北朝鮮の核施設、ミサイル発射基地攻撃と同時に金正恩斬首の軍事作戦を練っていることは周知の事実だ。通常、こうした武力行使のための作戦準備には1年かける。イラク戦争の時がそうだった。今回はとりわけ、在韓米軍兵士家族ら25万人、6万人の日本人、その他の国連軍関係者家族数万人単位の退避作戦が連動する。慎重に事を運ばなければならない。斬首遂行に踏み切ると、金正恩に最後まで命を張る親衛隊が最低でも1000人はいるとみられる。それを一挙に壊滅できる作戦でなければならない。中国の事前同意と協力が欠かせない。

 筆者は、米国が北朝鮮への軍事展開をハナから選択しない、とは思っていない。ただ、用意周到な準備をしたうえで時期は選ばざるを得ない。国連が決めた金融制裁で、北朝鮮の保有するドルや中国元の外貨は18年2月末ごろには底をつくだろう。さらに国連安保理は12月22日、北朝鮮向けのガソリンなど石油精製品を9割削減するほか、原油供給も「年間400万バレル」と初めて上限を明示する制裁決議案を全会一致で採択した。中国が本気で石油パイプラインのバルブを閉めると、その影響は18年春すぎには相当効いてくる。その効果を見定めたうえでトランプ米大統領は軍事オプションの可否を判断するに違いない。

 トランプは「反知性」の象徴のようにメディアでは喧伝されている。ところが、外交関係者の間では高い知性をそなえているとの評価だ。ツイッターでの激しい発言や激烈コメントは、相手の反応を予測した計算づくのつぶやきだと外務省幹部らは見ている。中国の習近平国家主席は、トランプが「軽い人間」ではないことをとうに見破っている。だからこそ、11月の訪中時に最大級のもてなしをして敬意を表した。表面的パフォーマンスや過激言動だけ追って、裏に隠されたものの分析作業を怠ると、間違いを犯す。

 トランプは12月18日、米国の安全保障政策の指針「国家安全保障戦略」を発表した。米軍復権や同盟強化で「力による平和」を打ち出した。この演説から透けて見えるのは、対中国強硬姿勢を明確にした点である。「中国はインド太平洋地域で米国に取って代わろうとしている」と不快感をあらわにしている。おそらく、トランプは年明け早々、米中の貿易不均衡解消を主要政策として前面に押し出してくるだろう。

 その狙いは、北朝鮮へ石油を年に55万バレル供給している中国の動きを牽制することにある。石油が来なければ、北朝鮮は干上がる。発電がままならないので厳しい寒さをしのげない。当然国家も国民も疲弊する。その最終カードを中国が握っている。貿易不均衡問題を俎上に乗せようとする先には「北朝鮮に対して決めたことをちゃんとやらんか」という対中圧力が透けて見えるのである。

 現在、トランプの目の上のたんこぶは、ロシアゲート捜査だ。展開次第では足元をすくわれかねない。政策上では大型減税法を成立させ、国家安保戦略の発表を通じて求心力は回復しつつある。ただ、トランプは求心力の高まりと支持率上昇が正比例しない稀有な大統領である。大統領にそぐわない品の無さは、一部の米国民から「存在自体が嫌い」と唾棄されている。

 日本国内に目を転じる。18年の最大の政策課題は憲法改正であるのは疑う余地がない。成否はともかく、安倍晋三首相は「明治維新150年」に当たる18年に、憲法改正の国会発議、国民投票実施にチャレンジしたいと切望している。改憲は安倍の悲願だ。

 自民党の一部に、内閣支持率が低迷しているから今やるのは無理だ、という声がある。朝日新聞調査(12月16〜17日実施)は支持41%(前回比3ポイント減)不支持38%(同1ポイント減)、日経新聞とテレビ東京の合同調査(同15〜17日実施)では前回より2ポイント減の支持50%、同1ポイント増の不支持40%だった。

 大雑把に言って、改憲に賛成する人と反対派はどの世論調査でも半々に割れる。国民投票をすると、有権者を2分する大騒動となるのは必至だ。それゆえ、対立を煽って国民がいがみ合うのは19年まで先延ばしすべきだと主張する向きもいる。

 一方で、19年まで待っても状況は同じだから、安倍の意欲も気力も十分なうちにやるべきだ、と反論する人が多い。解説まで付く。18年9月の自民党総裁選で安倍が3選されるのは確実だ。換言すれば、3選は動かしようがないという「1強期間」こそ安倍の力が最も強い時期である。3選後は下り坂に入る。であるならば、18年中に憲法改正に取り組むのが安倍にとってのベスト・シナリオとなる。どちらの考え方が優勢かというと「18年アタック組」だ。符合するように、自民党憲法改正推進本部(細田博之本部長)は17年12月20日の全体会合で、改憲4項目に関する「論点取りまとめ」を示し、了承された。

 自衛隊に関する規定を巡っては、憲法に自衛隊を明記することでまとまった。戦力不保持を定めた9条2項については「維持」と「削除」の両論を併記し、結論を持ち越した。9条に関する安倍の立ち位置は、2項を維持して自衛隊を明記する、というものだ。それに対し、石破茂元幹事長は「2項を削除して自衛隊の目的・性格を明確にする」と主張する。安倍の出身派閥「清和会」(細田派)の領袖である本部長・細田が、安倍に肩入れしているとの批判を避けるため、さしあたり両論併記の措置を取ったのだろう。

 当初、18年1月の通常国会前に党の憲法改正案をまとめ、通常国会に提出する予定だった。ところが、自民党案決定は総裁選後の秋の臨時国会前に大幅先送りされた。急いてはことを仕損じる、の意識が働いたか。衆参両院の3分2以上の賛成で国会発議したのち、国民投票に諮るという「改憲日程」は早くて18年後半になる。

 改憲気分の醸成に最も寄与するのが経済再生である、と安倍官邸は固く信じている。市場関係者に「申(さる)酉(とり)騒ぐ、戌(いぬ)笑い」という格言があるそうだ。16年の英国のEU離脱とトランプ登場、17年のNY市場ダウ平均初の2万4000ドル突破などの「申酉騒ぐ」を経ての「戌笑い」を安倍は正月の初夢にしたいはずだ。18年後半には、日経平均株価が2万3000〜2万4000円台になるとの予測もある。改憲成否の隠れた鍵を景気が握っている。

(2017年12月26日)