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安倍後継に急浮上した菅義偉官房長官

 桜前線が北上を続けている。今は東北地方に停滞している。ゴールデンウィーク(GW)には北海道まで達するか。関東地方はすでに葉桜である。「桜が散ったら、次はサツキだ」。立憲民主党議員が語ったとされる名言(?)だ。この桜は、桜田義孝前五輪相、サツキは片山さつき地方創生相。覚えやすく、エスプリが効いて、うまい。

 暴言、失言が相次いでいた桜田氏は4月11日、とうとう更迭された。衆院比例代表東北ブロック選出の高橋比奈子議員のパーティーで「復興以上に大事なのは高橋議員だ」と口を滑らし、安倍晋三首相の堪忍袋の緒が切れた。それにしても、こういう人物が当選7回も繰り返して来た事実に驚く。政治家の劣化を見抜けない有権者にも責任の一端はあるのか。朝日新聞の全国世論調査(4月13〜14日実施)によると、桜田氏の辞任は「遅すぎた」が62%で「そうは思わない」24%を大きく上回った。

 前回の小欄は国際問題を取り上げた。今回、反転して内政を書いてみたい。

 内政の2大テーマは、衆参ダブル選挙があるか否か、と消費税の10%引き上げは10月に実施されるかどうか、にフォーカスする。しかも、この二つは利益相反のようにリンクしている。

 自民党の萩生田光一幹事長代理は18日のインターネット番組「真相深入り!虎ノ門ニュース」で「(消費税引き上げの)前提は景気回復だ。6月の数字(日銀短観)を見て、危ないぞと見えてきたら、崖に向かってみんなを連れていくわけにいかない」と述べて、永田町を騒然とさせた。景況感が悪ければ、消費増税の3度目の延期もあり得るとの考えを示し、増税先送りの場合は「国民の信を問うことになる」とラッパを吹いた。

 萩生田氏は安倍首相の側近中の側近だ。と言うか、ボディガードのような存在である。安倍氏が萩生田氏に指示して言わせたかと憶測を呼んだ。国民民主党の玉木雄一郎代表が即座に反応した。ツイッターに「同日選の可能性が高まったと言える。政権はバラバラな野党の現状を見透かしている」と書き込んだ。

 最近、安倍首相と面談した永田町の事情通から話を聞くことが出来た。首相は「(衆参ダブル選挙かどうか)まだ決めていない」と苦笑しながら答えたという。ただ、首相の表情を観察しながら3割方ダブルに傾いているとの感触を持ったという。3割決めているというのは「永田町的に言えば、実際的な確率は相当高い」と、事情通は付言した。「前向きに検討する」という官僚答弁が、実際は「何もやらない」と同義語の永田町・霞が関用語のたぐいらしい。

 萩生田氏の消費増税再々延期発言について、事情通は「あの経済オンチに何が分かる」と半ば私情を吐露したうえ「首相が言わせたことは絶対ない」と断言した。ちなみに、この事情通はガチガチの消費増税論者である。萩生田発言に関する筆者の見方は、首相の意向を受けてのものではない、という事情通の指摘に同意する。菅義偉官房長官が直接指示したとの確証は持ち合わせていないが、萩生田氏が官房長官の意向を忖度し、再々延期の可能性のアドバルーンを上げたとみている。ネットテレビというマイナー番組での発言からも、首相のフリーハンド確保のための観測気球である気配が濃厚だ。当の菅官房長官は記者会見で「リーマンショック級の出来事が起こらない限り、10月に10%に引き上げる」と従来答弁を繰り返し、煙に巻いている。

 閣内でも、消費税再々延期を大義名分とした衆参ダブル選挙については賛否が渦巻いている。ある現職閣僚は筆者に「自民党は本来、国家・国民の将来を考え増税という苦しみを率先して受け入れてこそ責任政党たりうる。あえて、消費増税を掲げて信を問うべきものなのに、再々延期を解散の大義名分にするなどもっての外だ」と力む。正論には違いないが、増税を掲げて選挙で勝ったためしはない。だからこそ、この決断は一層悩ましく、難しいのだ。

 前述の事情通は、選挙の皮算用まで開陳してくれた。参院選単独なら、自民党は10議席以上減らす。だが、衆参ダブルにすれば現状維持で済む可能性が出てくる。一方、衆院は自民の現状が「取り過ぎ」なのでダブルになっても減る。与党で3分の2を維持するには、単純計算で「総数464÷3×2=310」である。310から公明の約30と維新の約10をマイナスして270が自民のギリギリの「勝敗ライン」となる。自民は現状284だから14議席減らすノリシロがある。としたうえで、情報通は「ダブルになれば、衆院で自民は議席減になるでしょうが、10を超えることはほぼないと思う」と集約した。

 あくまでも机上の計算に過ぎない。選挙はナマモノである。閣僚の失言やスキャンダルが飛び出すと風向きが一気に変わる。自民党にとって「不吉」な兆候も現れている。統一地方選で、安倍氏を支える麻生太郎副総理兼財務相と二階俊博自民党幹事長が、サッカーで例えるなら「オウンゴール」で競争相手に点を献上した。麻生氏は地元の福岡県知事選で、現職を引きずり下ろすため元厚生労働官僚を擁立したが、4倍以上の大差で敗北、山崎拓元自民党幹事長は「麻生氏のオウンゴールだ」と揶揄した。麻生氏は県連最高顧問の辞任を表明している。

 保守の金城湯池である二階氏の地元、和歌山県議選御坊市選挙区で、二階氏「城代家老」の県議が共産党新人候補に敗れる番狂わせが起きている。この県議は3年前の御坊市長選で落選した二階氏長男の選対責任者だった。麻生、二階両氏の自民党内での地盤沈下は覆うべくもないが、政権長きが故の地殻変動が始まっているのなら、安倍氏にとってはすわ一大事である。もし、強い野党だったなら、顔面蒼白で選挙を迎えたに違いない。

 選挙後には、内閣改造、党役員人事が待っている。早くも「個人的辞令」が飛び交っている。焦点は、ポスト安倍のトップランナーに躍り出た菅氏の処遇だ。幹事長に起用し、官房長官の後任に加藤勝信総務会長を持ってくる構想を口にする人は多い。だが、筆者はこの案に同意しない。官房長官続投という見方を堅持している。その理由は以下の通りだ。

 新元号が滑り出した途端に、消費増税による景気後退、思い切った人事で起きる党内ハレーション、小池百合子東京都知事の引きずり下ろしによる混乱などはできることなら避けたい、というのが安倍首相の腹の中だとみている。少なくとも東京五輪までは不必要な波風は立てたくないと思っている。従って、菅氏は閣内で睨みを利かす官房長官で居続けたいた方がよい。加えて、幹事長になれば党内求心力は一気に菅氏に集中し、安倍氏は東京五輪を待たずしてレイムダック化する。レガシー(政治的遺産)を確立できないうちの退陣につながりかねず、菅氏は自らが「親殺し」の烙印を押されることになる。

 ポスト安倍レースの2番手につける岸田文雄政調会長はどうか。麻生氏が副総理を続投して無任相として閣内に残り、財務相には麻生氏が強く推して岸田氏を起用するアイデアを語る人がいる。これなら、10月からの消費増税に支障は来たさないし、大宏池会実現のためにも麻生氏は岸田氏に恩を売れるというわけだ。

 少し前になるが、麻生氏と岸田氏は東京・麻布の中華料理屋でサシで飲んだ。今は両氏とも派閥の領袖になっているが、元は宏池会の先輩、後輩の間柄である。麻生氏が例のべらんめえ口調で「お前は安倍の後を狙っているんだよな。で、お前が首相になったとしてだ、お前はトランプ(米大統領)と丁々発止やれるのか」と問いかけた。岸田氏は言葉が出ず、下を向いていた。すると麻生氏は「このまま安倍に任せるしかないだろう」と言い放ったという。

 麻生氏は、安倍首相がトランプ氏とのゴルフを終えた27日夕にカナダの首都オタワを訪れるのに同行したい、と自ら申し出た。福岡県知事選の惨敗、菅氏の存在感急上昇に反比例して自らの影響力低下をかこつ麻生氏は、選挙後の人事や「来し方行く末」について安倍氏と二人きりで語り合う時間を何としても確保したかった。公的な用事もないのにカナダまで安倍氏の「追っかけ」をするのは大切な「仕込み」のタイミングとみたのだろう。ここを逃しては、参院選まで両氏が胸襟を開いて話す機会はないと読んだに違いない。

(2019年4月25日)