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安倍晋三首相の「4選」ならぬ「3 . 5選」論

 年の瀬が迫り、日ごと寒さは募ってきた。それでも、今年の国内平均気温は歴代最高というニュースが流れている。北海道や北アルプスの山々は雪が極端に少ない、と友人から便りが届く。地球温暖化阻止へのスクラムは各国の思惑から人類ワンチームになれない。形のあるものは例外なく壊れる。人の命に限りがあるように、私たちの住む星もいずれ瓦解する運命にある。超長〜いスパンでみると、それを数字で確認し、冬景色で実感するような令和元年の師走である。

 年が明けるとオリンピック・イヤーだ。米国では大統領選がある。五輪がスポーツの祭典なら米大統領選は民主政治の祭典、と言えばほめ過ぎになるか。2020年の干支は「庚子(かのえ・ね)」である。庚の字は更(あらたまる)に通じ、時代の変わり目になることが多いという。60年前の庚子である1960年は、日米新安保条約強行採決の混乱で岸信介内閣が総辞職した。米国ではジョン・F・ケネディ大統領が当選した。

 安倍晋三首相の祖父、岸元首相は回顧録で、安保条約の審議を前に解散できなかったことを悔しがっている。「解散するとすれば…新条約が国会に提出された2月5日の直後がタイミングとして絶好と思われた。…解散しておけば、もろもろのアク抜きとなり、新条約はさっぱりした形で批准されたであろう。冒頭解散の機会を逸したことは残念だった」。生々流転、祖父と孫、巡り巡って60年後も衆院解散のタイミングで悩む。総選挙はいつあるのか。政界の関心事はその一点にフォーカスされる。

 「インサイドライン」(12月25日号)で触れたように、筆者は早期解散説を変更していない。解散のタイミングは@19年度補正予算成立が見込まれる1月31日A20年度予算成立が見通せる3月下旬B外交案件が好転しそうな5月連休明けC五輪後D五輪花道で退陣、新首相の下で、の5つだ。この選択肢の中で筆者はAかBの解散と予想している。5月説の根拠は以下の通りだ。9日にモスクワでロシア対独戦勝75周年記念式典が行われる。安倍首相、トランプ米大統領、メルケル独首相、マクロン仏大統領、北朝鮮の金正恩委員長らが出席する。安倍・プーチン会談で日露平和条約締結に向けた最終交渉入りの合意にこぎつければ解散の大義になりうる。安倍・金会談もなしとは言えない。このタイミングでの解散説は永田町ウォッチャーの中では圧倒的少数派である。

 筆者は頑固一徹ではない。棒を飲み込んだように硬直した考えに固執するつもりはさらさらない。いろいろなシミュレーションもしているし、見通しの異なる人たちとも虚心坦懐に意見交換している。十人十色である。そのうえで出した筆者なりの結論である。小欄では、そうした取材過程の一部をさらけ出して、読者の判断材料として供したい。

 いきなりマッチポンプのようになり恐縮だが、伝家の宝刀(解散)は抜けないのではないか、という声も少なくない。12月9日の記者会見で、安倍首相は「解散・総選挙を断行することに躊躇はない」と言い切った。野党側は「年明け解散もありうる」と身構えるが、自民党内には「やれば負けて政権のレームダック化が進むだけ」と、強い言葉と裏腹の内心の動揺と見る向きもいる。

 首相側近の一人は「これまで国政選挙のすべてを常に傍らで見てきた経験則からすると、必ず事前に安倍首相はどこかで闘争モードのスイッチが入ったということが感知できた。しかし、今回はそうしたものが伝わってこない」と証言する。ニュージーランドのラグビーチームが試合前に披露する「ハカ」オーラは感じられないという。

 おまけに、首相自身が種をまいた「桜」疑惑は年明け通常国会(1月20日召集)でも炎上が続きそうだ。共同通信社が12月14〜15日に行った世論調査によると、安倍内閣の支持率は42.7%で前回調査より6ポイント減った。不支持率は4.9ポイント増の43.0%となり、1年ぶりに支持と不支持が逆転した。「桜を見る会」疑惑に関し、安倍首相が「十分に説明しているとは思わない」前回よりさらに増え83.5%に上った。首相の総裁4選反対は61.5%だった。世論調査の数字を見る限り悪指標ばかりで、冷静に見て解散を打てる環境下ではない。

 憲法で保証された首相の「大権」と言っても、やりたくても行使できなかった首相は多い。安倍首相の祖父も盟友、麻生太郎副総理兼財務相もその一人だ。衆院議員465人のバッジをはく奪するのである。胆力と腕力の力業が必要だ、と歴代首相は語る。権力基盤が盤石で、与党が勝てる環境下にないと、そうそう踏み切れるものではない。逆に追い込まれて解散し、惨敗した宮沢喜一政権のケースもある。伝家の宝刀は、周りが思うほど簡単に抜けないのである。

 加えて自民党の秋元司・衆院議員(元内閣府副大臣)が25日、IR参入をめぐる収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕された。関連で自民党の白須賀貴樹衆院議員と勝沼栄明前衆院議員の地元事務所が家宅捜索を受けた。久しぶりに政治家が絡む贈収賄事件だ。「贈」は中国企業である。第4次安倍再改造内閣はすでに、菅原一秀前経産相と河井克行前法相が公選法違反疑惑で辞任している。改造のキャッチフレーズは「安定と挑戦」だった。現状では「不安定と挫折」と陰口をたたかれている。年明けの予算委員会はスキャンダル追及で大騒ぎになること必至である。審議は各駅停車になるのではないか。

 カオスの中での解散はあるのか、ないのか。どちらとも言える。安倍首相は、英国のジョンソン首相が議会解散に打って出て、事前の予想を上回る大勝を果たしたことを受け、側近に「やっぱり選挙で勝つには勘と運が大事だね」と感想を漏らしたという。17年秋、森友・加計問題で窮地に陥っているとき、解散を断行して勝利、局面を打開したのは記憶に新しい。今度の勘や運はどう働くのか。

 一昔前「竹下カレンダー」という言葉があった。竹下登元首相が精密に行事などを書き込んだ政治行程表のことである。解散のタイミングもまた、政治カレンダーに左右されるのは言をまたない。野党の態勢が整わないうちに選挙になだれ込んだ方が勝てる。当然の政治常識だ。野党は立憲民主と国民民主の再統合が取り沙汰されている。しかし、吸収か対等かでせめぎ合い、年明けの「ワンチーム」もままならない状態だ。それでは、1月20日召集の通常国会冒頭解散かと言うと、そうは問屋が卸さない。冒頭では、財政支出13兆2000億円、事業規模26兆円の経済対策を盛り込んだ大型補正予算案の審議・成立が必須となる。

 補正予算成立後の解散となれば、総選挙の投開票日が2月下旬以降となる。手続き上、特別国会は3月初旬以降となり、首相指名を経て組閣に入る。その後の来年度予算案審議をいくら短縮しても、予算成立は5月連休前後までずれ込む。加えて、4月上旬には習近平中国国家主席が国賓で来日する。同19日には秋篠宮が皇嗣であることを内外に宣明する「立皇嗣の礼」の皇室行事を抱えている。仮に、それまで予算が成立していなければ、重要行事は暫定予算を組んで執行しなければならない。連休後の政治日程は、東京都知事選(7月5日投開票)があり、7月24日から9月6日まで東京五輪・パラリンピックが開催される。政治カレンダーに重きを置く人は、疑惑でよほど追い詰められない限り、安倍首相が解散を決断するはずがない、とみている。公明党の山口那津男代表は24日、訪問先のミャンマーで同行記者団と懇談し、解散時期について「五輪終了までは客観的・物理的に難しい」と断言している。

 こうした事情から、永田町ウォッチャーらの間では「五輪後の2020年秋の解散」説が主流派を形成している。ただ、五輪後の経済環境は視界不良だ。エコノミストの大多数は悪化と予想する。景気が腰折れすれば、解散しにくくなるのは政治のイロハである。

 筆者はさまざまな要因を踏まえたうえで、3月下旬か5月連休明けの解散を予想した。大胆過ぎる、というご批判は承知の上である。大胆ついでに「インサイドライン」で次のような展開にも言及した。安倍首相の腹の中を無断で勝手に探った。

 東京五輪前の総選挙で自・公・維合わせて3分の2を確保する。そのうち党内からの4選待望論が出る。来年9月の自民党両院議員総会は4選前倒しを決議することになる。実際には「3.5選」ラインで打ち止めし、その在任中に憲法改正、日露平和条約締結・北方2島返還、日朝国交正常化、いずれかのレガシーを作って退陣する。この予想についても永田町ウォッチャーからの支持が少ないことをあえて申し添えておく。

 それでは、安倍首相本人以外には正解の出せない私的年末解散談義を閉じることにしたい。皆さま、どうぞ良いお年を。

(2019年12月27日)