最新記事へ筆者紹介定期購読のご案内メールフォームリンク集ホームページへ
| Home | Cover Story | Profile | Order | Mail | Link |

トランプ氏は安倍氏を「仲間」視している

 名は体を表す、という。ドナルド・トランプ米大統領に限っては、握手の仕方が体を表す、と換言できる。多少ディレッタントな考察になるが、トランプの握手から相手への好悪を推察してみたい。

 トランプは11月上旬、初めてアジアを歴訪した。興味深かったのは、トランプの日・韓・中の3国に対する距離感が首脳との握手の仕方に表れていた点だ。好き嫌いの感情が手のひらを通してストレートに出る。

 まず、安倍晋三首相。5日午後、川越市の霞ヶ関カンツリー?楽部で待ち受けた安倍とシャッグ(シェイク&ハグ)ではなかった。今年2月の安倍訪米時では行ったのに、気持ちが冷めたのか、と周辺は忖度した。ところが杞憂だった。東コース8番ホールで安倍が素晴らしいティーショットを打った。トランプは、げんこつを突出し安倍にタッチを求めた。日本では「グータッチ」と言う。米国では「Fist Bump」と呼ぶ。アスリートや若者によく見られる挨拶だ。

 2月、フロリダでのゴルフ中、両者は「High Five」(互いに手のひらをタッチ)している。Fist Bumpはさらに深化したパフォーマンスで、友情・敬愛の意を表す。チーム・メイトや友達、家族間で交わすもので、仲間意識、親密感がより強い。トランプは安倍を仲間としてさらにランク・アップしたことがうかがえる一幕だった。

 次に、韓国の文在寅大統領。7日午後、青瓦台(大統領府)で行われた米韓首脳会談と共同記者会見の際、文はトランプに握手を求めたが、トランプは気付かなかったように無視した。首脳会談冒頭の写真撮影でも、トランプは終始、両手指を合わせていた。この仕草は「Steeple(尖塔)」と呼ばれる。心理学上は上下関係、支配者意識を表すとともに「飽きた、時間の無駄、あるいは早く立ち去りたい」などの感情を示す。

 事のついでに、晩さん会での乾杯に触れたい。文主催の歓迎晩さん会で、トランプは赤ワインで満たされたグラスを掲げて乾杯のポーズをした。だが、グラスに唇を触れただけでテーブルに置いた。一方、元赤坂の迎賓館での安倍主催晩さん会では、トランプはきちんと飲み干した。アルコールを受け付けないトランプに配慮してグラスの中身はジュースを注いでいたからだ。トランプにしてみれば「俺がアルコールを嗜まないぐらい事前に調べておけよ」という思いだったのか。お粗末な韓国情報収集力、ロジスティックにカチンときたのかもしれない。

 最後は中国の習近平国家主席。習夫妻は、故宮博物院(紫禁城)を貸し切りにして案内、さらに京劇鑑賞、非公式夕食会を催した。まさに前例のない最大級の歓待で遇した。こういう舞台装置は、毛沢東、ケ小平並みに権力の頂点を極めた習の「力」を誇示する場でもあった。さて、握手はどうだったか。

 9日午前、人民大会堂玄関前で行われた歓迎式典で両首脳は握手を交わした。普通に見られるビジネス・シェイクである。友達扱いの安倍とは違うものの、やはり大国の「エンペラー」に一目置いているリスペクト・シェイク(相手への敬愛が窺える握手)の感情がにじみ出ていた。

 トランプは故宮訪問後、ツイッターに「忘れられない午後をありがとう」と習夫妻への感謝を書き込んでいる。何が忘れられなかったのか。実は、故宮で習から勧められ、トランプは国宝の黄金壺に触れた。トランプのゴールド好きは良く知られている。痒いところに手が届く中国の配慮にトランプは無邪気に喜んだ。裏表がないというか、天真爛漫、腹芸ができずにいつも直球で勝負してくる。

 さて、首脳同士何を話したかは大いに気になる。日米首脳会談の白眉は、事務方が準備した公式会談より霞ヶ関カンツリー?楽部や「銀座うかい亭」でのテ・タテ(通訳のみでノート・テイカーなし)会談である。筆者が集めた情報によると、話題のほとんどが北朝鮮情勢だった。とりわけ韓国・文に対する失望はかなりのもので、不満・批判を並べ立てたという。失望・不満に至る背景を説明しなければならない。

 仮に米朝の軍事衝突が起きれば、韓国に在住する30万人の米国人を始め、日本人、その他の外国人の退避オペレーションが最も重要で緊急を要する。より具体的に言うと、在韓米軍家族、英仏加など在韓国連軍駐在部隊、在韓米国人と日本人の退避ルート、海路・空路の確保とその方法である。想定されている軍事オペでは、北朝鮮と戦うのは米国、韓国であり、日本は参戦しない。だが、民間人の退避作戦には日本がコミットする。なぜなら、第1段階の退避先が日本になるからだ。当然ながら、この作戦遂行には日韓の緊密な連携が必要となる。ところが、文政権は救出のための自衛隊艦船や航空機の韓国入国を事実上拒否している。米国政府は「そんなことでは退避・救出作戦はできない」と、韓国に対する強い不満を隠そうとしない。その感情がトランプの握手や乾杯にストレートに表れたわけだ。

 米中首脳もテ・タテを行っている。習が今回の首脳会談でテ・タテを採用したのは、安倍とロシア・プーチン大統領がテ・タテを多用するのを横目に見て、学習した成果?とみられる。日本の外務省はその中身を必死に探っているが、何せ関係者が限られている。まだ詳細は掴めてない。ただ、両首脳が相当激しくやりあったことは掴んでいる。

 会話の中身は推測するしかない。米国が軍事オプションを断行すればどこまで中国は協力できるか、北朝鮮の金正恩委員長斬首作戦を行うとすれば中国はどこまでコミットするか、殺害された金正男の息子ハンソルを擁立してとりあえず金王朝を維持するのか、などが話題にのぼった可能性は否定できない。

 アバウトなトランプにそこまで詳細な理解とプレゼンができるはずがない、という声も聞こえてきそうだが、トランプは事前にしっかりレクチャーを受けている。ブリーフしたのは、同行したマクマスター国家安全保障担当補佐官と同行しなかったマティス国防長官である。

 米紙ワシントン・ポストは、9月15日以後北朝鮮がミサイル発射など軍事挑発を控えているのは、米側が密かに北に対して60日間凍結すれば対話路線に転じてもいいとのメッセージを発信したからだ、と報じた。これをリークしたのは、米国務省のジョセフ・ユン北朝鮮担当大使(日本外務省の審議官クラス)である。その60日間は過ぎた。北は11月29日未明、これまで最高の高度4000qに達するICBM級を発射させ、再び軍事挑発に出た。日本政府の主流は「12月中・下旬までにミサイル発射はあり得る」との見方だった。発射の兆候を掴んでいたのでJアラートは発動しなかった。

 テ・タテでは、表に出せないマル秘扱いの話題に触れることにもなる。おそらく米中首脳会談で、習は「軍事オプションの最終決断は来年3月ぐらいまで待ってほしい」とトランプに頼み込んだのではないか。というのは、3月は実に意味深長な時期である。米国では、トランプとそりが合わなくなったティラーソン国務長官が退任する時期と重なり、中国では全人代で最後の人事が確定する。動くのはケリがついてからにしてくれ、というわけだ。

 トランプとティラーソンの関係はすでに、対北朝鮮路線やイラン核合意を巡る対立などで修復不能なところまで来ている。トランプ訪日時も、ティラーソンは大統領専用機に搭乗するのを忌避、わざわざ民間機で来日した。日米首脳会談直前に、ティラーソンは日本側に席次変更を求めてきた。その結果、本来なら外交プロトコール・オーダー3位になるケリー首席補佐官は末席に座る羽目になった。この嫌がらせとも取れるアドリブは、トランプに対する「最後っ屁」だったかもしれない。

 ティラーソンの後任は、かなりの確率でマイク・ポンペオ米中央情報局(CIA)長官だと思う。ワシントンにいる筆者の「ディープ・スロート」は90%の確率だという。米メディアはこぞって、ニッキ―・ヘイリー米国連大使と流している。しかし、野心家で45歳のこのインド系女性に対し、トランプは高い評価を与えていない。国務長官に求められている要素は、識見より、風貌・風格・存在感、そして見栄え(テレビ映り)だ、とトランプは考えている。

 ポンペオは54歳、フォトジェニックのイケメンである。高校時代はバスケットボールの選手、陸軍士官学校卒業、ハーバード大学で修士号も取得している。トランプ流国務長官像に申し分なく合致する。肝心なのは、ポンペオの対北朝鮮スタンスである。件の情報筋によると「金委員長には一発かませてやる必要がある」とえらく威勢がいいらしい。どういう「一発」か、気になるところだ。発言が本音だとすると、かなり「やばい」ことになる。戦争を知らない団塊世代に属する筆者は戦争モードを覚悟しなければならないのか。

(2017年11月28日)