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噴出する「桜解散」と「五輪花道論」

 季節が反転しているかのようだ。そろそろ紅葉狩りも終わろうという時期なのに、政界は「桜疑惑」で大騒ぎである。「平成を 名残惜しむか 八重桜」。今年4月13日に開催された「桜を見る会」で、安倍晋三首相が披露した自作の一句だ。その時にはだれも半年後の窮地など夢想だにしなかったはずだが、今や永田町では首相の「桜解散説」や「五輪花道論」が口の端に上るようになった。安倍氏の心境を先の一句でもじると「安倍一強 暗雲引いた 八重桜」か。まことに有為転変のスピードは激しい。漢詩「勧酒」の井伏鱒二による名訳「花に嵐のたとえもあるぞ、さよならだけが人生だ」がふと脳裏をかすめる。さて、桜の散り際や如何。

 政治スキャンダルは、テレビのワイドショーが取り上げ茶の間の話題になると、概ね「消火」不能に陥る。スキャンダルは即刻消火が鉄則だが、そのつもりで行った首相の釈明が火に油を注いだ。火は燃え盛り、手が付けられなくなっている。共同通信社が11月23〜24日行った全国電話世論調査によると「桜を見る会」に関する首相発言を「信頼できない」との回答は69.2%に上った。「会を廃止した方がよい」は64.7%に達した。自民党支持層でも57.2%が廃止に賛成している。この手の調査では異様に高い数字である。

 市民団体も動いた。安倍後援会関係者850人を「桜を見る会」に参加させ飲食供応を行ったという公選法違反と、前夜ホテルのパーティーで1人5000円を徴収しながら政治資金収支報告書に記載しなかった政治資金規正法違反で刑事告発した。東京地検特捜部は受理した。

 「モリ・カケ」追及では不発に終わった野党は「本丸(首相)攻撃の好機到来」と勢いづいている。共産党を含む野党各党は25日、「桜を見る会」追及チームを議員76人態勢の追及本部に格上げした。本部長は立憲民主の福山哲郎幹事長、本部長代理に共産の小池晃書記局長が就いた。現地視察など調査を強化する。福山氏はこの日の会合で「この問題を『小さいことだ』と言う人もいるが、魂は細部にやどる」と気合を入れた。

 外堀がどんどん埋められ、桂太郎元首相の通算在任記録を更新したばかりなのに安倍首相の表情が冴えない。疲れと焦りがはた目にも見て取れる。想定外の政治的危機に戸惑いを感じているようだ。側近によると、首相は苛立っているとき、委員会で質問者を野次る性癖がある。今月初旬の参院予算委員会でも立憲民主議員の質問に野次を連発していた。周囲は「止めてほしい」とご注進するが、こればかりは治らないという。

 政治スキャンダルとなった「桜を見る会」をおさらいする。1952年、当時の吉田茂内閣が始めた。それ以来、国会議員、都道府県知事、財界人、各国大公使、芸能、スポーツの有名人を加えた各界の著名人を、八重桜が満開の新宿御苑に招き、首相を中心に歓談する公的行事として定着した。ただ、第2次安倍政権以降、年々招待者数と関連経費が増え、今年4月は参加者1万8200人、経費5500万円に膨らんだ。しかも首相の地元、山口県の有権者に対し「あべ晋三事務所」と明記された観光ツアーの参加受付文書が送られていたことが発覚した。11月8日の参院予算委員会で、共産党議員が「招待者に多数の首相後援会関係者が含まれている。税金で運営されている公的行事の私物化ではないか」と、資料も提示して追及したのが発端だ。安倍首相元秘書の前田晋太郎下関市長は「70歳、80歳のおじいちゃん、おばあちゃんたちがうれしそうに新宿御苑に向かう。ものすごく地元に勇気を与えてくれる会と思っている」と擁護したつもりが、地元有権者の接待を認めた格好でひいきの引き倒しになった。

 菅義偉官房長官は13日の記者会見で、来年度の「桜を見る会」を中止すると発表した。中止の理由を「予算や招待者人数も含めて全般的な見直しを行うため」と説明した。首相も同日夜、記者団に「私の判断で中止することにした」と、憮然とした表情で一言だけ言ってそそくさと立ち去った。「税金の無駄遣い」との国民的批判を受けての対応だったのは疑いようもない。おそらく今年の「桜を見る会」が安倍夫妻最後の晴れ舞台として記憶されるだろう。

 各界の功績・功労があった人を招待するのが原則なのに、政府・自民党の幹部は多数の支援者を招待客に紛れこませていた。二階俊博自民党幹事長は12日、「支援者に配慮するのは自民党として当たり前」「(党への招待者割り当ては)あったって別にいいじゃない。何か問題になることがありますか」と、いつもの二階節で開き直った。すぐさまネットで大炎上し「二階からガソリンをかけた」などの書き込みが相次いだ。こういうのをネット言葉で「燃料投下」というらしい。鳩山由紀夫元首相も場外乱闘に参戦した。18日ツイッターで、女優の沢尻エリカが違法薬物所持で逮捕されたことを「政府のスキャンダルを覆い隠すのが目的」と、例によって宇宙人的思考で投稿。「私も主催したが、前年(麻生太郎内閣)より招待客を減らしている。安倍首相は私物化しすぎているのは明白」と書き込んだ。日経新聞によると「桜を見る会」に関するSNS投稿数は突出して多い。

 野党側は18日、与党に「予算委員会での集中審議開催」「衆院内閣委への安倍事務所の会計責任者と前夜祭を開催したホテルの担当者の参考人招致」を要求したが、森山裕自民党国対委員長は拒否した。自民党内には、早期幕引きに誤算が生じたと不安が広がり、追及封じに会期延長なしを決めた。野党は審議拒否で対抗している。

 政治スキャンダルが起きると、野党へのけん制で衆院の解散・総選挙説を流すのが常套手段だ。今回も「通常国会冒頭で補正予算を処理したうえでの1月下旬解散」と俗にいう「桜解散」説が永田町で飛び交っている。ただ、今回はけん制になっていない。枝野幸男立憲民主党代表は「こちらが解散に追い込む」とカウンターパンチを見舞う。自民党内にも「こんな状況で解散すれば、自民大幅議席減で首相が自分の首を絞めるだけ」と、及び腰の声も聞かれる。

 そもそも桜スキャンダルが噴出する前から、安倍首相最後の「伝家の宝刀」として解散時期が永田町ウォッチャーの間で取りざたされていた。それがたまたま桜スキャンダルとカブって状況は混とんとしてきた。

 取材メモを見ると、まさに百家争鳴のごとく政界関係者は解散時期を予測している。オフレコで聞いているので名前は明らかに出来ないが、少し紹介したい。

 有力閣僚の一人「まず間違いなく1月下旬に補正予算を上げてから解散だと思う」

 自民党幹部「以前は、東京五輪後に内閣改造した直後の解散だと思っていた。しかし、早期解散に考えを変えつつある。株価と為替がこのままの状況で推移すれば、年初の解散判断に好材料となる」

 某大手紙政治記者「五輪後の9月解散はほぼ間違いなくない。米国経済を含め米中の行方、日本経済の見通しが不透明だからだ。タイミングは年初か来春の2つしかない」

 某大手紙編集委員「解散は年内も年初もない。閣僚辞任や台風と大雨災害もある。加えて、これが一番の理由だが、首相の専権事項である解散権は持ち続けることが求心力の維持につながる」

 政治団体代表「早期解散もありうるが、15カ月予算をきちんと上げて、経済効果も万全となった3月解散、できれば外交案件で成果が期待できそうな5月連休明け解散の方がきれいだ」

 ちなみに、これらは桜スキャンダルが発覚する前の取材である。発覚後に知人を介して聞いた自民党元最高幹部は「へたすると、安倍氏は選挙を打てないかもしれない」と予想している。安倍1強の終わりが始まったのか。八重桜はソメイヨシノの潔さに比べると、開花期間がしぶとく長持ちする。それになぞらえると、安倍氏は粘り腰を発揮して窮地を乗り越える、という見方もできる。令和元年の政界年の瀬は時ならぬ桜吹雪となった。

(2019年11月29日)