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安倍首相と小池代表の「ガチンコ」の行方

 「日本のリセット」(小池百合子東京都知事の弁)が始まった。民進党はメルトダウンした。事実上解党し、小池新党「希望の党」に合流する捨て身の策に出た。新党は事前に合流希望者を身上調査する。旧社会党系の左派グループはオミットされる公算が強い。前原誠司代表は無所属から立候補する。政党史上例を見ない珍事となった。今、民進党では「おれは左派じゃないよ。保守だもん」という言葉が流行っている。枝野幸男代表代行も「おれはもともと保守だ」と言っているという。前原は「どんな手段を使ってもどんな知恵を絞っても安倍政権を終わらせる」と吹いている。俗に「何でもあり」の政界だが、総選挙に向けて筆者も予想しなかった「疾風怒濤の1カ月」の幕が開けた。

 安倍晋三首相が「国難突破解散」と名付けた総選挙は10月22日投開票される。落語家で作家の立川談四桜が「やっぱり(首相)『おろし』につながる『もり・かけ』隠し。つまりは『ボク難突破解散』ですな」と揶揄している。

 対立構図は当初の「与党対野党」から「安倍対小池」に転換した。安倍の挙げた争点は@北朝鮮情勢への対応A消費増税引き上げ分の使途変更、である。もちろん改憲の是非も有権者の投票判断の一つになる。小池新党は@消費税凍結A原発ゼロを掲げ、反安倍政権を明確にした。開票の1カ月前から議席予測するのは難しいが、経験則で言うと、東京都議会選挙の趨勢が次期国政選挙に反映されることが多い。

 毎日新聞社は9月26〜27日、世論調査を実施した。それによると、衆院選比例代表の投票先で「希望の党」は18%に上り「自民党」の29%に次いで多かった。内閣支持率は前回調査より3ポイント減の36%、不支持率は同6ポイント増の42%で支持と不支持が逆転した。自民党幹部は希望の党を「小池百合子恐るべし。信じられない強敵だ」と震え上がっている。安倍に極めて近い人も事態の急変に焦りを隠さない。

 自民党の選挙通は次のような見通しを披歴した。希望の党は、少なくとも東京(選挙区・比例代表)で相当数の議席を獲得する。石原宏高(3区)は落選、下村博文(11区)萩生田光一(24区)もかなり危ない。石原伸晃(8区)でもきわどい戦いになる。

 小池新党が目指すのは「都市型政党」である。東京を中心とする首都圏(神奈川県、埼玉県)と静岡から名古屋の東海ブロック(民進党の金城湯池)でかなりの議席が見込めそうだ。名古屋では河村たかし市長と組み、大村秀章愛知県知事も合流する。小池の出身地、神戸を核とした兵庫県(日本維新の会への配慮から大阪府を回避)、そして福岡市を中心の九州ブロックを集票のターゲットにしている。

 安倍は25日の解散表明記者会見で、総選挙での目標議席を自民・公明で過半数(233)獲得とハードルを下げた。ただ、希望の党に追い風が吹き、自民にそろりとも吹かないと、過半数に届かないことは十分あり得る。バンドワゴンと言われ、勝ち馬に乗る有権者心理である。そういう事態が出来した時をケース・スタディしてみたい。与党で過半数に届かない時、自民はマイナス52超の議席減になる。当然、総裁や幹事長の敗北責任を問う声が出る。ほんの3カ月前「1強」と言われた安倍内閣は「ジ・エンド」になるかもしれない。その場合、総選挙後の首班指名選挙の顔ぶれは、自民・公明が推す候補と小池百合子の戦いになる。

 安倍は、自身を崖っぷちに追い込むような解散選択を、なぜこの時期に判断したのだろう。時計の針を戻してみたい。自民党は9月8〜10日、独自に選挙情勢を調査した。サンプル数を明らかにしていないが、学説ではサンプルが少ないほど誤差の範囲が広がる。調査結果によると、自民党は現有議席288からマイナス11〜同30という数字が出た。安倍は議席減を承知のうえで衆院解散に踏み切ったことになる。なぜか。乱暴な言い方で断じると、今選挙をしなかったら今後益々議席減が膨らむ、という計算が働いたからだ。

 安倍周辺では、麻生太郎副総理兼財務相や今井尚哉首相秘書官(政務)が早期解散を主張、菅義偉官房長官が来年の通常国会中に憲法改正を発議してからの解散を進言していたという。日経新聞は「電撃解散の舞台裏」(9月23日付)で安倍の決断を丁半バクチのような「賭け」と論じた。

 「森友学園」や「加計学園」に安倍ファミリーが絡む疑惑が浮上して、内閣支持率は急落した。首相周辺では、解散どころか来年秋の党総裁選での3選すら覚束ないとの危機感が漂う。内閣改造でどうにか支持率は底を打ち、反転する。そこで、前原誠司代表に変わった民進党が勝手にコケたことで安倍は救われた。幹事長に起用が決まっていた山尾志桜里元政調会長を巡る不倫スキャンダルが「文春砲」で発射され、スタートからつまずいたのだ。加えて、北朝鮮が9月15日早朝、中距離弾道ミサイルを発射、日本上空を通過していった。皮肉な言い方をすれば、北朝鮮と民進党はこの間タイミング良く安倍の「応援団」を演じてくれた。

 選挙を断行するうえでの不安要素は、小池率いる「希望の党」の動向である。安倍としては、なるべく準備が整わないうちにやるに越したことはない。ただ小池はもともと改憲論者である。次なるオール与党に希望の党が加わるなら改憲の発議は可能となる。そういう政治状況をもろもろ判断したうえで安倍は「賭け」に打って出た。

 日経新聞の検証記事によると、安倍と麻生は10日夜、富ヶ谷の私邸で二人だけで話し合っている。麻生は「解散はご自分のお気持ちで判断された方がいい」と助言した。リーダーの決断はいつでも孤独である。潰瘍性大腸炎が持病の安倍には、お腹が一層キリキリ痛む瞬間だったに違いない。

 衆院選の興味は、小池新党がどれだけ議席を伸ばすか、の一点である。はっきりしているのは、希望の党は小池の魅力、キャラクターでしか集客力も集票力も望めない、ということだ。他の誰が音頭を取っても、旗を振っても、国民は踊らない。小池がフル稼働して選挙戦の先頭に立ち、ジャンヌ・ダルクよろしく「私についておいで」と風を起こさなければ党の躍進はない。

 もちろん練達の小池だ。そのことは百も承知だろう。どうすれば多数議席を獲れるか、日々考えているに違いない。小池は26日の新党設立の記者会見などで、自らの衆院選出馬を否定した。しかし、筆者は小池が衆院選公示日前日の10月9日か、都議会会期末の翌日6日に出馬表明すると考えている。大向こうを唸らせるパフォーマンスはお手のものの女性である。

 思い起こすのは、先の東京都知事選だ。安倍官邸と自民党都連との調整が進まず、候補者選定の遅れを絶好のチャンスと見た小池は自民党籍のままジャンケンの「先出し」に打って出た。除名も覚悟の上だった。だが、この「崖から飛び降りる」潔さが空前の小池ブームを巻き起こし、圧勝した。機を見るに敏な人である。これになぞらえると、今回は周辺をじりじりさせる「後出しジャンケン」で有権者の心を鷲づかみする作戦を選択するに違いない。

 小池が描くシナリオは、1993年の「細川護熙方式」による政権構想ではなく、94年6月、「自社さ」政権に対抗するため当時の小沢一郎新生党代表幹事主導で結成された新生党、公明党の一部、民社党、日本新党、自由改革連合が合流して誕生した新進党を念頭に置いているようだ。当時の新進党は55年体制発足後、自民党以外に200人超の衆参議員を擁した最初の政党だった。小池の目指す到達点は「第3極」ではなく、近い将来自分が首相に就く連立政権である。

 希望・民進の合流を話し合った小池・前原会談(神津里季生連合会長同席)の中身は明らかになっていないものの、総選挙後の特別国会で、誰を首相指名選挙に立てるかまで話し合ったはずだ。前原が「あなたを候補にする」と約束し、かつ希望の党が150議席に届くと確信できたら、小池は間違いなく「後出しジャンケン」してくる。

 安倍政権の存続は、自民党議席減を「52」に留められるかにかかり、日本が本当にリセットするかどうかは、10月22日の審判にかかっている。それまで、煮えたぎっている政界マグマはあちらこちらで小噴火を起こすだろう。

(2017年9月29日)