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既に“勝負あった”の自民党総裁選

 小欄で国内政治を取り上げるのは久々である。9月20日投開票の自民党総裁選は「何が起きるかわからない」(古賀誠元自民党幹事長)という願望の混じった見方もあるが、永田町の大半は「安倍3選」は決定的で、消化試合とまで言われている。消化試合を我慢して眺めるのは退屈極まりない。何とか盛り上げる方策はないのか。

 中選挙区制時代、自民党は「党中党」と言われた。各派閥は総裁候補を抱え、総裁選は「総選挙より面白い」と言われた。「三角大福」「安竹宮」は今や死語になったが、派閥間の駆け引きだけでなく、政策論争の場としても重要な役割を担った。自民党記者クラブ(平河クラブ)担当の記者は、この時期寝るのを惜しんで夜討ち朝駆けしたものである。

 小選挙区制は政権交代を容易にした制度ではあるが、一人勝ちすると「安倍1強」のような強権を生むシステムに変わる。その功罪を論じる紙幅はないが、総裁選の熱気の彼我だけは往時茫々の感がある。

 2012年9月以来、6年ぶりの総裁選である。安倍晋三首相(63)と石破茂元幹事長(61)の一騎打ち構図だ。自民党衆参議員405人と地方の党員・党友405票で争われる。自民党の細田派(94人)、麻生派(59人)、岸田派(48人)、二階派(44人)、石原派(12人)と、竹下派(55人)の衆院側から支持を得た安倍は議員票の7割、300人強をすでに掌中にした。圧倒的に有利な状況である。「正直、公正」を掲げてテレビ出演を重ねる石破に対し、安倍は逐一反論すればモリ・カケが再燃されると、アンチ露出戦術で肩すかしする。これも「燃えない」総裁選の一因となっている。

 党内第3派閥の竹下派(衆院34人、参院21人)が迷走した。領袖の竹下亘総務会長は8月9日候補者支持の一本化断念を正式に表明した。竹下派は「自主投票」というより事実上の「分裂選挙」となる。なぜ、こんな事態を招いたのか。いまだ同派に隠然たる力を持つ青木幹雄元官房長官(元参院議員会長)が直系の同派会長代行である吉田博美自民党参院幹事長に対し石破支持を要請した。この声に逆らえない竹下は石破支持で派内をまとめようとした。しかし、派内の衆院側には茂木敏充経済産業相、加藤勝信厚生労働相、山口泰明党組織運動本部長、新藤義孝元総務相ら安倍3選支持者が多数することから一本化調整に失敗した。

 事情通によると、衆院竹下派で竹下に調整を一任したのは小渕優子、橋本岳、原田憲治ら6人しかいなかった。一方、確実に石破支持に回りそうなのは、竹下、船田元、三原朝彦、笹川博義らで多く見積もっても10人という。竹下の派内における求心力低下は否めず、総裁選後の人事で同派が冷遇されるのは不可避だ。ただ、竹下自身は肩書に拘らない性格だから、総務会長を外されても泰然としているだろう。

 無派閥議員73人の動向も気になるところだ。若手リーダーの一人、小泉進次郎筆頭副幹事長は前回総裁選で石破に票を投じた。当時、小泉は清和会(細田派)に所属していたが、同派から安倍と町村信孝(故人、元外相)の2人が出馬、さらに石破、石原伸晃(元幹事長)、林芳正(文部科学相)の5人が立候補したことから、党の活性化などを考慮して判断したものと見られる。ただ、今回は日本を取り巻く環境が違う。小泉はそもそも安倍の外交・安全保障政策を評価している。政治手法については相容れないが、3年後を見据えると、安倍を支持する可能性が強いと見込まれる。無派閥73人のうち約30人が実質的には菅(義偉官房長官)派だ。仮に、小泉が石破支持を打ち出しても、残る約40人は当選回数が少なく選挙基盤が盤石でないため、首相官邸の意向を忖度して小泉に同調しないのではないか。そうなると、国会議員による石破票は安倍票の2割に届くかどうかの目算になる。

 勝敗でまぎれる要素があるとしたら地方の党員・党友票である。共同通信の世論調査(8月25〜26日実施)によると、次期総裁に誰がふさわしいかと問うと、安倍36.3%、石破31.3%で予想外に僅差だった。モリ・カケ問題など長期政権の「ゆるみ・たるみ・おごり」が地方党員のやる気を削ぎ「安倍の顔では来年の統一地方選、参院選が戦えない」という不満マグマがどの程度地下にたまっているのか。これがはっきり計量化できていない。とはいえ、帰趨を揺るがすほどのことは考えられず、総裁選の焦点は、安倍が石破にどれだけの差をつけて勝利するか、にある。消化試合と言われる所以だ。

 永田町ウォッチャーの関心は、総裁選後の内閣改造と党役員人事に移っている。人事だけは「〇〇辞令」で先にアドバルーンを上げてから潰すなど足の引っ張り合いあるので、言わずもがなだが、今から予想してもそうなるとは限らない。加えて閣僚ポストの約束手形をちゃんと切ってもらったのに、期日が来たら不渡りになったケースは枚挙にいとまがない。人事権は筆者にはなく、次の総裁となる人に属する。とはいえ、ここは蛮勇を奮って書かないと読み物にならない。

 二階俊博幹事長は党副総裁でないか。実は二階幹事長時代、地方の首長選挙などすべてを含めると6割以上が負け続きだ。二階では来年の統一地方選、参院選は戦えないというのがほぼ党内コンセンサスになっている。後任は誰か。筆者の知人の政治家は、菅ではないか、という。ただ、この裏にはちょっと大胆すぎる「深読み」があるので、それを紹介したい。

 安倍が自らの政治的レガシーとして考えているのは、悲願の憲法改正を筆頭に脱デフレ宣言、日朝・日露の進展、そして天皇の退位と新天皇即位などである。残り3年間、こうした課題に取り組むには安定した政治状況が前提となる。そこで、来年参院選で大負けを防ぐために衆院とのダブル選挙という発想が当然のように出てくる。更に、来年の通常国会中盤までに改憲発議をして、衆参ダブル選挙の上に国民投票をぶつけるトリプル選挙が考えられる。特に安倍在任中における憲法改正は、ここが唯一のチャンスと言っていい。衆参の国政選挙の争点は憲法改正、そしてそれを同時に国民投票で諮ることになる。こうした「力技」ができる政治家は菅しかいない、というのが前述の政治家の意見だ。官房長官の後任は、安倍や霞が関の信任が厚い加藤勝信を抜擢する。財務相に岸田を起用して、来秋の消費税増税に傾注してもらう。

 このアイデアを、菅と親しい新聞記者にぶつけてみた。彼は「トリプル選挙はアイデアとしては面白いが」としたうえで「個人的には、官房長官続投の可能性が強い」と否定した。その理由として挙げたのが、通常国会召集日、会期幅の決定などすべての決定権が党国対ではなく首相官邸に集中している。潤沢な官房機密費がある官房長官の方がメリット多いと考えるのではないか、というものだった。ちなみに、新聞記者が示した党・内閣改造人事の枝ぶりは、幹事長に岸田を起用して党内リベラル派に目配りする。政調会長は甘利明を据えて第2派閥麻生派への配慮を示す。総務会長は竹下留任で度量の広さを見せる。一方、閣僚は財務相の麻生を副総理専任にすれば一連の不祥事の引責にもなり、後任は麻生に指名させれば良い。加藤、茂木、世耕弘成経済産業相、河野太郎外相の主要閣僚は留任、小泉進次郎を閣僚か官房副長官に抜擢するアイデアをサプライズとして手の内に残しておく。

 ことほど左様に、総裁選前から人事の話が花盛りである。その底流には総裁選で安倍が石破を完膚なきまでに圧勝するという前提があるからだ。まさに安倍の勝ち方が今秋政局を決めることになる。

 お前はどう思うのだ、と言われそうだ。筆者のいささか常識的すぎるかもしれない見方を示すと、現在の「安倍1強」を支える麻生、菅の2人を変える理由を見出すのが難しい。政治は奇を衒って成功した先例が極めて少ない分野なのだ。

(2018年8月30日)