最新記事へ筆者紹介定期購読のご案内メールフォームリンク集ホームページへ
| Home | Cover Story | Profile | Order | Mail | Link |

「森友」「外交」で求心力低下が否めない安倍政権

 つれない言い方になるが、森友文書改ざん問題の佐川宣寿前国税庁長官証人喚問は、茶番劇になると予想していた。佐川氏は「刑事訴追の恐れがある」と証言拒否を55回繰り返した。安倍晋三首相と妻昭恵氏、首相官邸からの指示はいずれも否定した。おそらく何度も予行演習したのだろう。ネットの世界では、佐川氏は大阪地検の任意取り調べでも「刑事訴追の恐れがあるので答えを差し控えたい」と供述するギャクが受けていた。

 真相解明は全く進まなかったので、国民のいら立ちは沸点に達している。ジャーナリストの安積明子さんが『東洋経済』で「証人喚問は、日本の憲政史上に汚点を残したともいえるひどいものだった」と評していた。国民の最大公約数的感想だろう。ただ、佐川氏が何を隠し、誰をかばおうとしたかが浮かんできたのは抗いがたい。

 官僚とは忖度する生き物である。何を忖度するのか。権力者の意向である。官僚の中の官僚と言われる財務官僚は、とりわけその能力が高い。権威を持つ者や有力政治家に対しネットワークを張り巡らし、動向を細大漏らさずチェックしている。そのインテリジェンス機能が霞が関における財務省の力の源泉だった。

 以下は、ウラを取るのが難しいので、半世紀に及ぶ政治取材経験から来る一般的推論として語る。官僚が公的な決裁文書を自分の意志で書き換えることはほとんどない。それをやらざるを得ない状況に追い込まれるのは、外からの力学が働く。東大法学部卒で固められた霞が関のエリート組織はコンプライアンスについて熟知している。何をやれば罪になるか、は学生時代からお手のものである。ただ、権力者からの指示があればそれに盲従する。そういう習性の一団なのである。官僚をクビになった佐川氏が、いまだに「官僚答弁」で誰かを守ろうとする姿はなんとも切なく、悲しい。

 たまたま読んだ「読書日記」(3月27日毎日新聞夕刊3面)に劇作家の平田オリザさんが、高橋和巳著の「悲の器」(河出文庫)を取り上げていた。ドキッとした中身だったので紹介したい。

 「主人公の法学者正木典膳は、若い令嬢との再婚を発表するが、同時期に妊娠させた家政婦から慰謝料請求の訴訟を起こされ、思わぬスキャンダルに巻き込まれる。正木が信じる法と法学の理念からすれば、彼は何も罪を犯してはいない。その自分が辱められることは理不尽であり、辱めた家政婦の側にこそ非があると初老の法学者は考える。(中略)これは本当にまったくの偶然なのだが、佐川前国税庁長官が大学時代、高橋和巳を愛読していたという記事をネットで目にした。私はその符号に戦慄した」

 本題に返る。森友学園を巡る文書改ざん問題を受け、内閣支持率が急落している。

 直近のメディア世論調査は、朝日新聞(3月17〜18日実施、以下同じ)=支持31%(前回比12P減)不支持48%(同11P増)▽毎日新聞=支持33%(12P減)不支持47%(15P増)▽共同通信=支持38.7%(13.7P減)不支持48.2(9.2P減)▽NNN(日本テレビ系列)=支持30.3%(13.7P減)不支持53%(15.7P増)――だった。

 支持、不支持が逆転しただけでなく、その差が10ポイント以上広がった。「安倍1強」内閣は「普通の内閣」に様変わりしてしまった。「普通の内閣」に対してはメディアは手厳しい。最近の紙面は、「求心力に陰り」、「安倍3選に黄信号」、「改憲年内発議に逆風」、「1強打破へ野党追撃」の見出しが躍る。例えは悪いが、川でおぼれかけた犬には手を差し伸べるのではなく、棒でたたくのが政治ジャーナリズムの常とう手段である。

 安倍シンパとみられている産経新聞が3月19日朝刊1面トップで「『安倍3選』に黄信号―森友文書改竄、引退長老衆不穏な動き」と報じた。産経までが方向転換したのか、と仰天した。裏を探ってみると、社内事情によるものであることがわかった。同紙経営トップが安倍首相の「超シンパ」である同紙政治部記者に対し「たまには安倍批判をやってみろ」と直々指示したというのだ。路線転換というより、フェイント・モーションのパフォーマンスに近い。朝刊を飾った当日、同記者は国会内の参院予算委員会室の出入口に待機、退出してきた安倍首相や今井尚哉首相秘書官に謝っている姿が現認されている。マッチポン役を仰せつかる記者もつらい。

 安倍首相応援団を自他ともに任じてきた読売新聞・日テレグループも最近、政権と距離を置く報道や言動が目立っている。紙面では「『森友』直撃 内閣支持急落」の見出しに、前文で「首相の連続3選が確実視されてきた秋の自民党総裁選にも暗雲が漂い始めた」とそっけない。政府の規制改革推進会議が進める放送法の規制見直しについて、日本テレビの大久保好男社長(元読売新聞政治部長)は「容認できない」と強い口調で反対する。見直しは、放送事業とネットなど通信事業の規制・制度の一本化や「政治的公平」などをうたった放送法4条の撤廃を検討している。大久保氏は、偏った番組やフェイクニュースが横溢しかねないから「間違った方向の改革ではないか」と反旗を翻している。

 「前門の虎、後門の狼」状態の安倍氏だが、このまま首相辞任、あるいは9月の自民党総裁選不出馬へと進むのか。大方の関心はその一点だ。結論から先に言う。麻生太郎副総理兼財務相の辞任は不可避なものの、安倍首相は生き残る、とみている。根拠になるものを挙げなければならない。

 一つは、内閣支持率である。前述したように大幅ダウンではあるものの、それでも「普通の内閣」程度で踏みとどまっている。30%を下回るとさすがに黄信号が点滅し出すが、過去20%台でしぶとく踏ん張っていた内閣はいくらでもある。永田町でよく使われる「青木(幹雄)方程式」(内閣支持率と自民党支持率を足した数字)でチェックしてみたい。例えば、共同通信調査で見ると、内閣支持38.7%、自民党支持36.2%で、両方を足すと74.9%となる。危険水位と言われる50%をはるかに上回っている。

 3月19日夜、筆者はたまたま森喜朗元首相、鈴木宗男新党大地代表と会食する機会があった。もちろん森元首相が清話会(細田派94人)出身であることを割り引く必要はあるが、同氏と鈴木氏は「安倍首相3選は揺るぎない」と断じた。発言の裏で筆者が注目するのは、森氏と青木幹雄元官房長官の間柄である。両氏は早稲田大学雄弁会の先輩、後輩でツーカーの関係だ。青木氏は引退したものの、実は「安倍3選」成否のカギを握る平成研究会(現竹下派55人)の方針決定に強い影響力を持っている。青木氏は将来、同派の総裁候補に小渕優子衆院議員(党組織本部長代理)を願望する。故小渕恵三元首相への恩義に報いるための責務と考えている。仮に紆余曲折はあっても安倍政権が続くのであれば、ここは「安倍3選」に乗るべきだと判断し、森氏とすり合わせた可能性が強い。筆者は、森氏の確信に満ちた「安倍3選」断言が、青木氏からすでに言質を取っているとの心証を抱いたのである。産経新聞が書く「引退長老衆の不穏な動き」は小泉純一郎元首相や山崎拓元副総裁を指す。

 安倍首相が逃げおおせても、麻生財務相は恐らくアウトである。佐川氏の国税庁長官・理財局長の任命・監督責任からは逃れられない。いくら安倍首相の盟友でも、ここでけじめをつけないと、日本に正義がなくなる。火の粉は首相に及ぶ。ただ、党内第2派閥の麻生派(59人)の領袖である同氏を無下にするわけにいかない。麻生氏の支持・協力が「総裁3選」に不可欠だ。閣外に去っても、党内政治的には決して悪いポジションに就くことはないだろう。後任の財務相は結局岸田文雄総務会長に落ち着くのではないか。財務相の受諾は、岸田氏の総裁選不出馬を意味する。岸田派(47人)が「安倍3選」支持に回れば、安倍続投は揺るぎないものになる。

 安倍首相が党内国会議員の基盤を固めても、懸念材料は地方党員の動向だ。石破茂元幹事長が総裁選第1回投票(自民党衆参議員405人=405票と地方党員・党友=405票で争う)で、安倍首相を地方票で圧倒すると、3選を果たしても今秋以降の政権運営は厳しいものになる。だから安倍氏は現在、連日連夜公邸に1〜3回生議員を呼び、会食しながら各議員に対し地元をテコ入れするよう発破をかけている。

 日々、向かい風の風速が増し、安倍氏の前途は洋々たるものではない。当面は、4月17日〜19日の首相訪米である。昨年2月に続いてフロリダ州の大統領別荘「マーラ・ラゴ」でトランプ大統領と会談する。安倍外交の正念場である。南北首脳会談、米朝首脳会談に先駆けて北朝鮮の金正恩委員長の電撃訪中・中朝首脳会談が行われた。激動の朝鮮半島を巡る関係各国の動きから日本は取り残された感が強い。安倍氏はトランプ氏に何を語るのか――。

(2018年3月30日)