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9月自民党総裁選は「安倍3選」が確定的!

 詰まるところ、トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長のシンガポール会談の勝者は誰だったのか。全世界から報道陣約2500人を集めた世紀の会談の評価が割れている。

 英誌「The Economist」(6月16日号)は「金正恩の勝ち」と断じる。その根拠として「トランプ氏は会談自体が成果だと誇るが、北朝鮮は常にそれを望んでいた。米国大統領と対等に会うことを、金氏は国内向けに宣伝できる。合意には、北朝鮮を制約する条件は何も入っていない。(中略)金氏は政治家扱いされている。国民弾圧は忘れられ、安保理決議違反も部分的に許された。かかる人物との合意は望ましくない。道徳的にも外交的にも災厄というべきだ」と手厳しく書く。だが、この論旨はそもそもトランプが金正恩に会ったこと自体が間違いだと言わんばかりである。

 他方、米上院軍事委員会のリンゼイ・グラム上院議員(共和党)は「二人はよくやった。これが出来なかったら、残る選択肢は戦争しかなかった」とテレビのインタビューで述べ、両者の腕を挙げる。

 米国の政治・経済や世界の通商事情に精通する双日総合研究所チーフエコノミストの吉崎達彦氏は個人的なニューズレター「溜池通信」を月2回発刊している。6月22日号は「3つのトランプ劇場〜米朝、米中、G7」を特集した。前号でトランプ・金正恩会談を「マッドマン外交」(両首脳がマッドマン同士であったからこそ会談が成立した)と喝破した吉崎は、今回も示唆に富む卓論を展開する。少し長くなるが引用したい。

 「トランプ大統領としては『狙い通り』の展開と言えよう。好調な経済にも助けられているとはいえ、一連の『トランプ劇場』は国民の関心を集めることに成功している。今月は特に@G7サミットA米朝首脳会談B米中通商摩擦と週替わりメニューである。こうやって、どんどん論点をずらしていくのがトランプ流である。先週の米朝首脳会談は大テーマであるはずだが、それを惜しげもなく捨てて今週は『中国叩き』という新ネタを送り出す。結果として先週のことは忘れ去られ、外交に関する議論は深まらない。いわば『視聴率至上主義』である。(中略)視聴者の関心を繋ぎとめておくために必要なのは、長期戦略などではなく、その時々の新鮮なネタである。その手法を外交に展開しているのであろう。国益どうこうといったことはさほど気にしない。大統領にとってはショーマンシップが最優先なのである」

 かくしてトランプ劇場は第3幕「米中通商摩擦」に入り、シンガポール会談の3日後、対中国制裁関税リストを公表した。総額500億ドルの品目に25%の追加関税を課すもので、うち340億ドル分が7月6日に発動される予定だ。中国も即座にカウンターパンチで応じた。同じく500億ドル分の対米報復関税リストを発表した。するとトランプはさらに2000億ドル分に10%の上乗せ関税を検討するよう米通商代表部(USTR)に指示した。これを受け、上海総合株価は大きく下げた。

 米中貿易戦争の行方が気になるところだが、トランプの視聴率至上主義から行くと、短期決戦で終わるのではないかという見方が多い。7月6日までに、2国間で「ディール(取引)」が行われる、と。そうなると、次なる新ネタの登場が待たれるところだ。

 あまり想像したくないテーマだが、トランプが前からちらつかせている「日本叩き」が選択肢の一つになるかもしれない。とりわけ「日本車叩き」だ。日米新通商協議(FFR=Free、Fair、Reciprocal)が近く控えている。実は、日米の新しい枠組み「FFR」も当初の実務者レベルの会議では、米側は最後の「Reciprocal」の「R」ではなく「Trade」の「T」、すなわち「FFT」の名称を強く求めてきた。米側の念頭にあったのは、対日は2国間のFTA(自由貿易協定)で進めたいというものだった。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を進める安倍晋三首相は日米首脳会談でそれを押し返し、FFRの名称で最終決着した経緯がある。

 トランプが鉄鋼、アルミに続き輸入自動車にも25%の関税を課すのでは、と取り沙汰された今年4、5月頃、経済産業省首脳とUSTR首脳は何度か話し合いを持った。日本側が、日本からの対米自動車輸出額よりも米国本土で生産されている日本車の売上額が多いことを数字で示すと、米側は即座に「そんなことは先刻承知だ」と素っ気なく答えた。そのうえで「貿易赤字額の減少だけに頭が向かう大統領の関心は、トヨタか日産が米国内のミズーリ州などにもう2、3か所新たな工場を作ってくれるかどうかにある。シンゾー・アベからそれをトランプに是非とも言ってほしい」としつこく繰り返すのみだったという。外交を弄ぶかのようなトランプと付き合うのは大変である。トヨタや日産にしても、生産ラインを今以上に米国に移すと、今度は国内の雇用問題に発展しかねない。おいそれとは受け入れられないだろう。

 他国には厄介極まりないトランプだが、国内での支持率は上昇している。ギャラップによると、過去の平均支持率は39%、4月後半には40%台を回復、6月18日公表された調査では政権発足直後と同じ45%になった。共和党支持者の9割が支持、民主党支持者の支持は1割にとどまっている。中西部の白人支持層は一貫してトランプ固定ファンである。無党派層の支持は前週の35%から42%に上昇した。週替わりのトランプ劇場が奏功しているようだ。

 国内問題に目を転じたい。米朝首脳会談を機に、朝鮮半島情勢が激変している中で、拉致被害者問題を抱える安倍首相が日朝首脳会談実現に向けて前のめりになっている。金正恩から「会談の可能性あり」のサインをトランプを通じて受け取ったからに違いない。トランプが金正恩に対し「非核化」と「拉致」を並列で挙げ同時解決を迫った際、横田めぐみさんの固有名詞を挙げないまでも、それとわかるような表現で言及したとの情報もある。正確なところはさらに掘り進めてみたい。6月14日、安倍首相は日本人拉致被害者の家族と面会した際、日朝首脳会談について「拉致問題が前進していくものにならなければ意味がない」と述べている。内閣府の景気判断表現ではないが、従来の「拉致問題解決に向けた進展」から微妙に変化している。

 「モリ・カケ」の閉塞状況を得意の外交で打ち破りたい気持ちなのだろうが、日朝首脳会談はリスクも大きい両刃の剣だ。金正恩とのトップ会談が実現したとしても、安倍首相がこれまで唱え続けてきた「(拉致被害者)全員の即時帰国」をお土産にできるのか。日朝の事前協議で、北朝鮮から満額回答が出ないことが分かっても、お互いソッポを向いていたトップが会うことに意義を見出すのか。多くの国民が期待する成果を手にすることなく「会ってきた。何人かを連れ帰った」ことを国民がどう判断するかである。金正恩との会談に臨むに当たっては重たい政治決断が待っている。

 小欄の最後に、9月7日告示、同20日投開票の自民党総裁選の動向に言及しておきたい。結論から言うと事実上、安倍首相の3選が確定したと言っていい。安倍周辺は「関心は安倍首相が石破(茂元幹事長)さんをどれだけ完膚なきまでにぶちのめすことができるかだ」と、えらく威勢がいい。公式、非公式を問わず「安倍3選」を支持しているのは、細田派(清和会)、麻生派(志公会)、竹下派(平成研究会)、二階派(志帥会)である。石破氏は自派(水月会)と地方票しか頼るところがなく、勝機は少ない。下馬評に上がっていた岸田文雄政調会長は不出馬ではないか。野田聖子総務相は推薦人20人の確保に難航している。

 永田町の関心は、総裁選後の人事に移っている。ポイントは幹事長と財務相だが、どちらのポストも現在の「安倍1強」バランスを崩したくないため続投説が出回っている。3選後も当面「安倍1強」の環境は続くだろうが、これまでと違う「空気」の変化が生じる。4選はないため、安倍首相のレイムダックへの道が確実にスタートするという変化だ。

(2018年6月29日)