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2020年政局の焦点・東京都知事選

 富士山は7合目辺りまで冠雪、一気に秋が深まった。秋はスポーツである。ラグビーワールドカップは、日本チームがベスト8まで進み国全体が発熱した。にわかラグビーファンが噴出し、南アフリカに敗れると「ラグビー・ロス」に陥った。国民の半数以上が一喜一憂、心踊らされたのはいつ以来だろう。その一方、台風19号とそれに続く千葉県大雨被害で犠牲者や被災された方々に思いを致すと心が痛む。哀悼の誠を捧げ、お見舞いを申し上げます。

 ラグビーで沸点に達した気持ちを冷やして国内政局に目をやると、当面の焦点は東京都知事選の動向と衆院の解散・総選挙のタイミングである。ともにトップの任期満了が絡んですでに水面下で地上からは見えにくいアヒルの水かきが始まっている。最大スポーツイベント、東京オリンピックが二つの成り行きに影響を与えているのも共通する。衆院解散時期については『インサイドライン』(10月25日号)で触れたように、来年1月召集の通常国会序盤が有力だ。本稿では都知事選を取り上げたい。

 小池百合子都知事は来年7月30日任期満了を迎える。小池氏はいまだ出馬を明らかにしていないが、周囲は「当然出る」と思っている。元副知事を特別秘書に据えたり、ヤフー前社長を副知事に起用したり、2期目に向けて意欲気満々だ。ご本人の性格からして、五輪開催都市の「顔」を世界に発信したいに違いない。

 都知事選の課題の一つが投票日だ。東京五輪は来年7月24日開幕する。3月26日に福島県楢葉町・広野町の「Jヴィレッジ」から全国47都道府県を回る聖火リレーも7月10日から都内を走る。五輪ムード高揚の中での選挙戦は水を差すものだが、こればかりは如何ともしがたい。公職選挙法は自治体の首長選について、任期満了より前の30日以内に行うことと規定している。規定の範囲内で、五輪関連のイベントに与える影響が最も少ない日曜日を探すと7月5日しかない。7月5日投開票日説が最有力だ。

 前回、小池氏に大敗を喫した自民党は「今度は何が何でも雪辱する」と、当初は対決姿勢を強めていた。とりわけ、小池氏に煮え湯を飲まされ続けてきた自民党東京都連の下村博文自民党選対委員長、荻生田光一文科相らは反小池の急先鋒で、加えて「小池嫌い」で鳴る菅義偉官房長官もその陣営に加わる、というのが一般的見方だった。ただ、自民党の都知事選候補選びが一筋縄でいかない背景に、小池氏と旧知の仲の二階俊博幹事長が「小池氏が立候補したら自民党が応援するのは当たり前だ」と公言し、初めから党内が「腸ねん転」を起こしていたことがある。

 政界は固定観念で決めてかかると、しっぺ返しを食らう。ヌエのような政治家たちは、状況次第でどんな形にも変容する。だから、たゆまぬウォッチングが欠かせなし、観察する側も変化に応じる柔軟な思考が必要になる。筆者のところに入って来る小池氏にまつわる最近の情報は、当初の見方と180度違うものだ。「菅官房長官は小池都知事と接触している。仲介役は二階氏だ」「安倍晋三首相の名代で今井尚哉首相秘書官兼補佐官がかなりの頻度で小池氏と会っている」。情報源をたどると複数なので、恐らく間違いなかろう。となれば、ここにきて安倍官邸が急きょ戦術転換した拠ってきたるところを、筆者は想像を交えて解説しなければならない。

 まずもって、小池氏に勝てる候補者を探すのが至難の業だ。有力閣僚の一人は「小池氏に勝てる候補はいない」と、戦う前から半ば白旗を挙げる。小池氏は前回都知事選で291万票という途轍もない票を取った。当時は「小池旋風」が吹き荒れていた。今度はそこまでは行かないという予想が圧倒的だが、それにしても、好き嫌いは別にして放つオーラと貫禄は別格だ。自民党内では、参院東京選挙区で全国最多の114万票を獲得した丸川珠代元五輪相や鈴木大地スポーツ庁長官らの名前が挙がっている。だが、丸川氏でもさらに50万票上乗せしないと勝負にならないとされる。

 安倍晋三首相の腹の中を推し量ってみたい。小池氏が衆院解散・総選挙や都知事選をダシに政局を流動化させないと約束するのであれば「小池氏でもOK」という立ち位置だと推察する。菅官房長官に比べると、安倍氏の小池氏に対する「悪感情」はかなりレベルダウンする。菅氏の同意が前提条件になるものの、仮に首相側近の下村氏や荻生田氏が「丸川氏擁立」を進言しても、安倍氏は受け入れないのではないか。最優先事項は、五輪直前の政局流動化を何としても避けたい。訪日する外国人に「ニッポンは安倍政治で盤石だ」というところを見せつけたい思いが強い。

 菅氏の思惑も探ってみたい。小池氏への対応を因数分解すると、自らの野心「ポスト安倍」の要因も加わり、かなり複雑、難解である。ポスト安倍レースでは、力量を別にして「禅譲期待」の岸田文雄党政調会長がトップを走っている。2番手に茂木敏充外相が続く。政策、答弁力、語学力、国際性など能力は後継候補の中でダントツだが、人間性に疑問符が付くとされる。嫉妬が渦巻く怨念の海で最近足を引っぱられ出した。一時期スポットライトを浴びた「令和おじさん」は、後継意欲を見せ始めた途端に照明が落とされ、選択肢は狭まった。これまで以上に「安倍命」で支えていく以外、展望が開けていない状況にある。可能性があるとしたら、首相が「万が一」の事態に直面するとか、勇退を決意してワンポイントで禅譲するケースなど「たら、れば」付きだ。

 安倍氏を支える「トライアングル」の一角、麻生太郎副総理兼財務相の影響力が福岡県知事選での失態から衰えてきた現在、菅氏が二階氏と手を組んでパワーアップを図る選択肢も考えられなくはない。その引き金が都知事選になる。もっとも、菅氏周辺は「二階氏と謀って後継を狙うのは無謀すぎる」と、このアイデアを端から否定する。

 菅氏が考える小池氏との間合いは、小池氏が二階氏を介してであれ、安倍政権とそれなりに良好な関係を築いていく意思を見せてくれるのであれば対立候補をあえて立てない、との「太っ腹」対応になるのではないか。小池都政を見ても、必ずしも反自民というわけでもない。菅氏が太いパイプを持つ公明党・創価学会は、都政与党の立場を確保・維持したいので菅氏が容認するのであれば小池続投に反対しない。

 ポイントは、小池氏が究極の野心「日本初の女性首相」を捨てていないことを、菅氏を含め自民党の各有力者がどう見ているかが「小池氏OK」のメルクマールになる。さらに言えば、仮に菅氏自身が自らの野心「安倍後継」の実現が無理だと悟った時点で、小泉進次郎環境相以外に小池氏もカードに持つことは変幻自在の菅氏の性格からしてあり得ないことではない。同じことは二階氏にも言える。常に「小池カード」を掌中にしていることを自らの存在感アピールに使っている。二階氏と小池氏は、新進党、自由党、保守党、さらに自民党を共に渡り歩いてきた旅ガラスだ。今も時々旧交を温めている。

 一つ、都知事選の不確定要因があるとすれば、先の参院選でブームを巻き起こした日本初の左派ポピュリズム政党「れいわ新選組」の山本太郎代表が突如出馬した場合だ。自民党があえて候補者を立てると、自民公認候補と小池氏の保守分裂で票を食い合い、漁夫の利を得るのは山本氏という見方がある。山本人気と庶民からの「少額寄付行為」は相変わらず続いている。山本氏はポピュリズムの権化、サプライズ無きにしも非ず、だ。

 東京五輪・パラリンピックで世界中の人々を迎え入れる開催地の知事は果たして誰なのか。残り10カ月を切って、安倍官邸、自民党有力者や都連の動き、それに加えて「ポスト安倍」への思惑、小池氏に対する好悪の感情が複雑に交じり合って、いまだカオスの領域にあるものの、筆者が目を凝らすと着地点には「小池百合子」の姿がおぼろげながらも浮かんでいるように見える。

(2019年10月30日)