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9月第2週の内閣改造と党人事の行方

 参院選の総括は、「インサイドライン」(7月25日号)に詳しく触れたので、そちらをお読みいただきたい。ただ、比例代表得票の流れを指摘しなかったので、少し追記したい。戦後2番目に低い投票率(48.8%)だったとはいえ、自民党は3年前の参院選比例代表で2011万票だったのが、今回は1771万票と240万票減らした。堅固な集票組織を持つ公明党も100万票減の653万票だった。共産党も150万票減らしている。立憲民主党791万票、国民民主党348万票で、併せた1139万票は前回分裂前の民進党が取った1175万票から36万票の微減だ。他方「れいわ新選組」は徒手空拳から228万票を獲得している。どこの支持層からかき集めたのか、精査が待たれるところだ。直感では、比較的政治意識の高い無党派層が雪崩を打ったと推察する。さて、小欄は戦い終わった後の政界の動きを中心に書いてみたい。

 投開票の翌々日23日夜、安倍晋三首相は懇意にする政治部記者OB数人と都内のイタリアレストランで会食した。席上、安倍氏の「V9達成」発言はすでに書いているので、ここでは割愛する。OBらはほかにも様々な質問をぶつけている。一部で噂の絶えない年内の衆院解散・総選挙説についてもしつこく質問したようだ。安倍氏は言を左右して、当然ながら言質を取られることを拒んだ。出席した一人の印象では「選挙はもうコリゴリだ」という忌避感がにじみ出ており「年内解散はないと思った」と吐露している。参院選は自民党にとって「余勢を駆って解散に打って出る」ほどの勝利ではないので、筆者も「なし」と言いたいところだが、断じることはできない。しかもイラン情勢の不透明度が高まり、中東での軍事衝突の危険性が強くなっている。国連総会後の10月に米英とイランの対立が激化すれば、年末解散・総選挙どころではなくなる。

 「消費増税の先は?」という問いに、安倍氏は「税と社会保障の一体改革は次の人にやってもらう」と答えている。「次の人」とは自らの「後継」を指しているのか。ポスト安倍で期待値が急上昇の菅義偉官房長官に話題を振ると「菅さんは後継になり得ますよ。支える人たちをどうするのかがポイントになる」と意味深長に応じている。

 菅氏に近い自民党無派閥議員による政策勉強会「令和の会」が発足している。無派閥議員の半数以上を束ねた。安倍氏の言う「支える人たち」とは、この会が核になるという意味なのか。菅氏は、安倍氏を支える麻生太郎副総理兼財務相、二階俊博幹事長と肩を並べる、いや今では凌駕する実力者の一人になっている。

 内閣改造・党役員人事は9月10日と12日に分けて行われる見込みだ。すでに永田町ウォッチャーによる「独自内示」が飛び交っている。人事の季節は永田町ウォッチャーの腕の見せ所だ。日ごろの人脈、取材力、定見が問われる。当たろうが外れようがお構いなし、趣味でやっているウォッチャーもいる。

 政治家への人脈の広さ、太さから最強ウォッチャーと衆目の一致する人物と筆者は最近「人事構想」を練った。言うまでもなく、人事権、任命権は総理総裁にある。ただ、日ごろ永田町界隈で取材している者にとって「独自内示」は人事の季節の通過儀礼みたいなものである。どちらかというと、最強ウォッチャーが派閥力学やら人事の「変数」とやら蘊蓄を傾け、筆者がそれに外野席からヤジを飛ばしたり、茶々を入れたりという感じだった。「当たるも八卦当たらぬも八卦」のゲーム感覚を楽しむ気軽さで読んでいただきたい。

 最大の焦点は菅氏の処遇である。最強ウォッチャーが言う。「安倍さんは二階幹事長を副総裁に棚上げして一気に菅氏を幹事長に起用する可能性が高い。後任の官房長官は加藤勝信(総務会長)氏だ。加藤氏の財務相もあり得る。その場合、官房長官は荻生田光一(幹事長代行)氏だろう。以前より存在感が低下した麻生さんもこの人事は拒否できない」。いいところを突いている気もするが、選挙でとりあえず負けなかった幹事長を簡単に「更迭」させるだろうか。いずれにせよ安倍首相は、菅氏の意向を最優先するはずだ。年内衆院選がないとすれば、幹事長のポストはそれほど魅力的でない。菅氏は続投ではないか、という筆者の見方に最強ウォッチャーも最後は同調した。

 「でも、安倍首相の性格と『強靭さ』を思うと、二階幹事長の交代は十分ある。甘利明選対委員長が幹事長にものすごい意欲を持っている。所属派閥の志公会領袖、麻生氏も推している」と最強ウォッチャーは粘る。二階氏を外すと波風が立つに違いない。続投であれば、今度は甘利氏の処遇が問題になる。甘利総務会長か。総務会は自民党の改憲最終案を決定する意思決定機関だから、今度の総務会長ポストは重要だ。

 ところで、安倍政権の初期から裏方として汗をかき、首相の受けがいい加藤総務会長と世耕弘成経産相もそれなりに遇しなければならない。10月の消費増税を控え、補正予算による中小企業対策などで財務省の全面協力が必要になる。そこでオール財務省が推す加藤氏を財務相か経産相の要路に起用するニーズが出ている。一方の世耕氏は「今、参院自民党幹事長として汗をかいていれば、衆院に鞍替えしても誰も文句は言わない」(最強ウォッチャー)。ただ、日米貿易交渉や日韓関係がヒートアップしていることから、それこそ表や裏で汗をかいてきた当事者を外せるのだろうか。

 甘利氏が政調会長なら、玉突きで岸田文雄政調会長が経産相に回る可能性がある。ただポスト安倍候補の一角を占めてきた岸田氏に対する評価がここにきてガタ落ちである。参院選で、岸田派(宏池会)に所属する4人の現職参院議員が落選したからだ。とりわけ、岸田氏の選挙区があり、宮澤喜一元首相以来宏池会の「牙城」でもある広島県で、岸田派の重鎮で元参院議員会長の溝手顕正氏を落選させてしまった責任を問う声は大きい。選挙応援パフォーマンスが緩慢だったのか、元々リーダーシップが欠如しているからなのか。「岸田氏の安倍後継は事実上消えた」と言い切る人までいる。

 菅氏が岸田氏を見る目も厳しい。実は菅氏は参院選中盤、広島選挙区(定数2)に遊説に入っている。自民党公認の新人女性、河井案里氏を応援するためだ。河井氏の夫、克行衆院議員(広島3区)は無派閥だが「隠れ菅派」とされる。事前のマスコミ各社の情勢調査では溝手氏が河井氏と野党統一候補の森本真治氏を突き放してリードしていた。いざふたを開けてみると森本氏がトップ当選、河井氏が2位に滑り込んだ。菅氏にしてみれば「岸田さんは地元で何をやっていたのか」という思いなのだろう。

 話がわき道にそれた。最強ウォッチャーは「人事の方程式が難しくなるのは甘利幹事長のケースだ」と腕組みする。「甘利氏からすると、政調会長が岸田氏というのは嫌でしょう。その場合は加藤氏を政調会長にもってきて、経産相を荻生田氏にすることも考えられる」と、どんどん構想の羽を広げる。「構想するのは勝手だが、ずいぶんいろんな方程式があるもんだね」と筆者。この辺りは漫才の「ボケとツッコミ」である。

 麻生太郎氏のことを忘れていた。「基本的に留任の線だ」という最強ウォッチャーの意見に筆者もほぼ同意する。ただ、副総理兼無任相という考え方もある。その場合、財務相は加藤氏の可能性が高い。

 サプライズでは、小泉進次郎自民党厚生労働部会長の官房副長官への抜擢だ。石破茂元幹事長と小泉氏の関係を完全に分断し、石破氏の後継首相の芽を摘み取るため、小泉氏を官邸内に「身柄拘束」するアイデアである。小泉氏を説得できるのは、同じ神奈川県選出の菅官房長官しかいない。

 最後に、筆者がかねてから指摘している安倍首相の東京五輪後の「勇退」と菅官房長官への「禅譲」説について、最強ウォッチャーの意見を聞いてみた。「五輪後に安倍首相が残る任期1年余と時限を切って菅氏に禅譲して、さらに21年9月の本来の任期切れ前に正式な総裁選を実施するのは妙案だ。現実味がある」とのご託宣だった。少し「忖度」してくれたのかな。

(2019年7月30日)