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「総裁3選」まで未だ道半ばの安倍首相

 安倍政権の権威が負のスパイラルで下降している。公文書改ざん、口裏合わせ、セクハラまで加わって、作家の澤地久枝さんが言う「日本の政治がこれほどひどかったことはかつてない」醜態をさらけ出している。

 年明け、安倍晋三首相の3選は盤石だと思われていた。4カ月後、盤石どころか政権の存続自体が危うくなっている。大型連休後、大きな政局がやって来るかもしれない。まことに、一寸先は闇、政界の動きはドラスティックである。

 陰謀史観めくが、霞が関の一連の不祥事は首相官邸の強権支配に対する反乱だという、うがった見方がある。麻生(太郎副総理兼財務相)流のワーディングでは「はめられた」になる。安倍政権になって、各省庁の局長クラス以上の人事は官邸が握った。省庁は人事案を2案か3案を用意し、菅義偉官房長官にお伺いを立てる。菅氏と同じ神奈川県選出の某国会議員によると、菅氏は官僚を呼びつけ、罵倒し続けたことがあったという。安倍官邸の「恐怖支配」は必然的に「忖度(そんたく)政治」を生む。

 世の動きは、すべて「光と陰」で構成される。日本は世界で有数の長寿社会を実現したが、同時に300万人近い認知症患者が出現した。あっちを押さえ込めば、こっちがピュッと出る。安倍官邸は財務省を「冷遇」してきた。財務省悲願の消費税10%アップは二度にわたって先送りされた。官邸の主要スタッフも経済産業省出身者で固めた。同省出身の今井尚哉首相秘書官(政務担当)は安倍の右腕とまで言われる。彼の言うことは安倍首相の代弁と見られる。菅、今井両氏の強圧的とも言える言動が、今回の「霞が関の反乱」の底流にある、と見る永田町ウォッチャ―は多い。まさに、あっちを押さえ込めば、こっちがピュッと出る、の典型である。

 だからと言って、財務官僚の破廉恥行為が許されるわけでない。佐川宣寿前国税庁長官が大阪地検の聴取に「(改ざんは)役所を守るためだった」と供述しているそうだ。最強官庁と言われる「財務省一家」丸出しである。中谷元元防衛相が民放テレビ番組で喝破していた。「巧詐(こうさ)は拙誠(せっせい)に如かず(巧みに偽りごまかすのは、つたなくても誠意があるのには及ばない)」と。スーパーエリートたちの驕りに猛省を促したい。

 内閣支持率が30%を下回ると、政権運営に黄信号、というのが通り相場だ。日本テレビ系列(NNN)の世論調査(4月14〜15日実施)で支持が26.7%(前回比3.6p減)、不支持が53.4%(同0.4p増)だった。全マスコミの世論調査がそうであるわけではないが、安倍政権が危険水域に近づきつつある兆候が散見し出した。

 柳瀬唯夫元首相秘書官(現経産省経済産業審議官)のすっとぼけた釈明は忖度の極致である。傍証からみて、柳瀬氏が愛媛県役人と会い「首相案件」と発言したのは間違いない、と誰もが思っている。経産省OBも「さっさと認めた方が被害が大きくならない」とうんざりの体だ。

 柳瀬発言よりもっと深刻なのは、森友学園問題への昭恵首相夫人の関与である。昭恵氏に対する参考人招致か証人喚問が行われるまで疑惑の炎はくすぶり続ける。野党も疑惑の核心を握る人物から話を聞かないことには政党の存在意義が問われる。この綱引きでは引き下がらないと思う。くすぶり続ける炎を消すには二つのケースが想定される。

 一つは、安倍が招致もしくは喚問を認めるケースだ。仮に昭恵氏が質疑応答の予行演習を積んでも官僚のずぶとさまで保証できないので、こらえきれず関与を認めるかもしれない。従って、昭恵氏の招致・喚問は安倍首相が半ば政権放棄を意識する賭けと同義である。

 二つ目のケース・スタディは、昭恵氏の招致・喚問を見送ることを条件に、自らの自民党総裁選不出馬を宣言することだ。安倍氏の性格からして、これも十分にあり得る想定だ。安倍氏と親しいマスコミ人によれば、四面楚歌の状況にあっても安倍は「絶対に負けるものか」と高揚しているそうだ。しかし、その姿にどこかしら虚勢を感じるという。

 訪米から帰国した翌日の21日、新宿御苑で首相主催の「桜を観る会」が開かれた。安倍氏は「全容を明らかにして膿を出し切って、組織を立て直していく」と語った。出席者の中には安倍氏が予想外に元気なのがかえって不思議だった、と感想を持つ人がいた。「葉桜の賑わいありて盃(はい)重ね」の句を披露したうえで「日本がもっと元気になるよう全力を尽くす」と笑顔で締めくくった。この笑顔も弱気の裏返しだと解説された。

 振り返ると、2012年9月の自民総裁選の際、国指定の難病、潰瘍性大腸炎を抱える安倍氏の背中を押したのが昭恵氏だった。一族周辺は皆、出馬に反対だった。今回、その「恩人」の昭恵氏を守るために安倍氏が首相の座を下りるのであれば、まさに皮肉と言わざるを得ない。

 ここから以後は、変数(たら、れば)が前提条件として付く話となる。変数が変われば答えも自ずから違ってくる。

 安倍首相が総裁選不出馬を決断した場合、首相退任後も影響力を行使できる「院政」を敷きたい、とまずは考える。石破茂元幹事長はまったくソリが合わないので、あらゆる手段を使って総理・総裁への道を阻止する。従って、盟友の岸田文雄政調会長を後継に据えるような状況を作ってからの不出馬宣言になる。

 最大派閥の清和会(細田派・95人)、第2派閥の志公会(麻生派・59人)そして宏池会(岸田派・47人)が一体となって岸田氏を推したい。これなら盤石だが、必ず落ちこぼれが出る。岸田氏では2019年の参院選は戦えない、と思っている人が少なからずいるからだ。

 第3派閥の平成研(領袖に竹下亘総務会長が就任した。55人)の動向が気になる。依然として同派に影響力を持つ青木幹雄元官房長官は最近、政治記者OBとのオフレコ懇談で、かなり辛辣な安倍批判を展開したうえで「最近の石破は良くなった」と、派閥を離脱した石破氏との関係修復が出来ていると言わんばかりの風情だった。ちなみに、青木氏と、菅官房長官とは100%相容れない。一方、竹下氏は番記者とのオフ懇で「木曜クラブ(旧田中派)と宏池会(旧大平派)は田中角栄と大平正芳の両元首相が盟友だったことからも分かるが、政策面で最も近かった」と昔を回顧している。あたかも岸田氏を支持するような口ぶりだ。二人ともおそらく総裁選ぎりぎりまで態度を明かすことはしない。ただ「石破」「岸田」の両カードを掌中にしているのは、安倍、麻生ら主流派に対する牽制材料となる。

 総裁候補を抱えない志帥会(二階派・44人)の動きも要注意だ。老獪な寝業師、二階俊博幹事長の最終判断は「勝ち馬に乗る」である。同派は冷や飯を食べているわけにはいかない。平成研と志帥会は、反主流派にならないという点で共通する。二階氏は安倍3選支持を表明しているものの、最後まで本心を明かさず、判断を先延ばしする。これが一番高く買ってもらえる手段だからだ。

 机上の数合わせをしてみたい。石破氏が総裁選で勝つケースを考えると、石破派20人+竹下派55人+二階派44人=119人(票)が結束して石破を推すのが必須条件となる。総裁選は国会議員票405と地方党員・党友405の合計810票で争われる。地方党員・党友の6割(243票)は石破支持とされるので、議員票と合わせトータルすると、362票に達する。石原派(12人)の最高顧問である山崎拓元副総裁は大の安倍嫌いだ。同派も石破支持に回る可能性がある。さらに衆参合わせて73人いる無派閥からも石破氏に票を投じる者が出てくる。石破氏が第1回投票で過半数の406票を獲得するには、先の362票に石原派の12票を加え、無派閥から32人が石破支持に回れば達成できることになる。

 安倍氏は何がなんでも石破氏の総理・総裁だけはブロックしたい。仮に岸田氏で勝てないと判断すれば、河野太郎外相を擁立し、石破氏と対峙させるカードも手に持っておきたい。この場合、総裁選は石破、岸田、野田聖子総務相、河野の四つ巴の戦いに持ち込み、本選で石破対河野の一騎打ちを狙う。安倍氏は、天敵だった保守リベラルの河野洋平元衆院議長のことが頭をよぎっても、息子、太郎氏の方が石破氏よりベターだと考えるに違いない。

 以上、安倍が総裁選不出馬のケース・スタディしたが、もちろん安倍3選の芽は消滅したわけでない。連休後の政局で、安倍氏が徳俵で踏みとどまれるかどうかは、まずは麻生氏の辞任問題をどう処理するかにかかる。麻生続投で強行突破すれば院内外の抗議行動に、火に油を注ぐことになる。辞任させて麻生氏がへそを曲げれば、3選戦略は根底から狂う。行くも地獄、退くも地獄が待ち構えている。

(2018年4月27日)