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「安倍1強」に死角はないのか??

 自民党大勝の衆院選結果について、すでにメディアが書きつくした感がある。小欄では多くを語らないことにしたい。保守合同以来、3回連続衆院過半数を制した自民党総裁は安倍晋三氏だけだ。野球評論家、張本勲氏にならい「あっぱれ」と言うしかないか。もっとも麻生太郎副総理兼財務相は「自民大勝は北朝鮮のおかげ」と広言した。麻生流自虐も混じるが、半分は得心する。立憲民主、共産、社民のリベラル系野党の議席が2割を切ったのも55年体制以降初めて。これは「喝」と言うしかない。情けないのは、小池百合子都知事率いる「希望の党」である。希望転じて絶望へ暗転した。小池の「排除」発言が流れを変えたと言われている。排除には、ナチスの民族浄化、ホロコーストを連想させる語感がある。人々が嫌う言葉だ。「クール・ビズ」や「アイ・シャル・リターン」(防衛相退任のあいさつ)などワーディングにひときわ敏感な小池が、不用意な言葉でずっこけた。人は得意分野でコケる、の典型例と言える。

 ただ、筆者は希望失速の最大要因は言葉遣いのミスだけではなく、小池の戦い方の間違いだと思っている。前回の小欄でも触れたが、大将が先頭に立ち「私に続け」と旗を振らなければ戦いにならないのである。東京都民には悪いが、あの場面、都政をほっぽり出して立候補しなければならない。ブーイングの嵐は覚悟の上だ。政権選択選挙で「安倍1強政治の阻止」を訴えるからには、首相指名選挙に自ら出馬しないと本気度が疑われる。戦場の後衛でどんなパフォーマンスを演じても有権者の心に響かない。取り返しのつかない判断ミスだ。小池の政治生命が終焉し、希望が解党して与党に飲み込まれるかは今後の推移を見守るしかない。だが小池自身はあまりめげていないようだ。都政で話題づくりのネタがつき、マスコミの露出度が減った時こそ「小池劇場」は正真正銘のジ・エンドを迎えるのだろう。

 目を転じる。ドナルド・トランプ米大統領が11月5日午前初来日する。北朝鮮軍事オプション問題、対日貿易赤字解消のための3点セット(自動車、牛肉、薬価)要求など首脳会談の行方は気になるところだが、ここではサウジの王様ほど豪華絢爛ではないものの「大名行列」の楽屋話にスポット・ライトを当ててみたい。

 先遣隊のシークレットサービスの合同チームが10月第4週の週末に来日し、警備演習を行っている。その行程表によると、横田米空軍基地に降り立ったトランプは、大統領専用ヘリ(マリーンワン)で埼玉県川越市のゴルフ場・霞ヶ関カンツリー倶楽部へ直行する。クラブハウスで待ち受ける安倍とあいさつ後、松山英樹プロを伴いプレーする。霞ヶ関カンツリー倶楽部は理事会を開いて日米両首脳のプレー日といえども「特別扱いしない」ことを決議している。当日予約の入っているメンバーのプレーを認めた。付和雷同しない名門ゴルフ場の矜持を見せた。

 事前に先遣隊が日本に持ち込んだ警備に関わる機材・車両は航空機を除いて4dトラック20台分に及ぶ。大統領専用車(キャデラックワン)やゼネラル・モーターズ製の特別仕様警護車が主たるものだ。大統領専用車は100bの至近距離からバズーカ砲の直撃を受けても致命的な破損にならない装甲仕様となっている。大統領警護車が負けずにすさまじい。後部ドアを左右に開くと、台座に据えられた重機関銃が自動で飛び出す仕掛けだ。「007」の世界である。

 7月のG20首脳会議で、トランプの前を横切ろうとした某途上国の元首がシークレットサービスに突き飛ばされる「事件」が起き、外交問題になりかけたことがある。全員が自動小銃か軽機関銃を携行しているシークレットサービスは日ごろの訓練で「大統領守護ファースト」が叩き込まれている。好きな大統領、嫌いな大統領、は警護に関係ない。

 トランプは内幸町の帝国ホテル8階全フロアを借り切り宿泊する。ただホテル側は、大統領のホテル内移動経路で先遣隊の要求が厳しすぎて頭を抱えている。もう一人、頭を抱えている人がいる。安倍は5日夜、首相官邸で大統領歓迎の非公式夕食会を催す。ところが、食にほとんど関心を示さないトランプに何を供したらいいのか、メニュー選定に困り果てているそうだ。

 11月1日から首相を決める特別国会が始まる。選挙後に実施された世論調査で、読売新聞が内閣支持率前回比11ポイント増の52%、不支持率9ポイント減の37%、朝日新聞が支持率同4ポイント増の42%、不支持率1ポイント減の39%で、衆院選前の支持・不支持の逆転をひっくり返した。「安倍1強」の継続か否かが問われた選挙で、安倍はツキも味方して乗り越えた。国会で首相指名を受けて第4次安倍内閣が発足する。閣僚・党役員は全員再任の「居抜き」である。

 振り返れば、衆院選公示前、希望の党が風に乗って躍進が伝えられた。あおりを受けた自民党は単独過半数233議席も割れかねない、というのが選挙通の皮算用だった。その当時、首相指名選挙後に大幅な内閣改造・党人事が行われるとのうわさが一部でアナウンスされた。プロの手になるもっともらしい人事構想も流れ、情報の出所を手繰っていくと麻生周辺に行きつく。面白半分にどんな人事構想だったか、紹介したい。

 大島理森衆院議長(当選12回)に代わって額賀福志郎元財務相(同)を起用する。ちなみに、引退した川端達夫副議長(当時10回)の後任に菅直人元首相(13回)、郡司彰参院副議長(参院4回)の後任に希望の党の中山恭子元特命担当相(同2回)が就く。衆院副議長が超リベラルの元首相、参院副議長が超保守の女性という異様な組み合わせである。

 官邸内の人事はもっとサプライスだ。安倍が最も信頼を寄せている今井尚哉首相秘書官(政務)との間で大きな亀裂が生じた菅義偉官房長官を自民党総務会長へ放出する。後任には加藤勝信厚生労働相を抜擢して官邸内の風通しを良くする。経産官僚出身の今井は、元同僚も「最近の彼の活躍は凄い。政治家相手に政局まで手掛けている」と舌を巻くほどだ。安倍の一挙手一投足に至る振り付けを任されている。

 幹事長は、麻生が強く推す甘利明元経済再生相。二階俊博幹事長は総括副総裁、岸田文雄政調会長は留任、という枝ぶりだ。こうした人事構想の背景には、党内第3派閥の平成研究会(額賀派)メンバーである加藤を、額賀を棚上げして後釜の会長にすることで、第1派閥の清和会(細田派)、第2派閥の志公会(麻生派)に次いで平成研も安倍、麻生の支配下に置けるとの狙いがある。

 このデッサンを見てつくづく思うのは、麻生と菅の溝は抜き差しならぬ、との感慨である。政治家を動かすのは情念である。理念やイデオロギーで動く政治家がいたらお目にかかりたい。麻生はいまだに菅を許せないのだ。自分が首相・総裁だった時、衆院解散・総選挙に打って出たかったのを、党側で断固反対したのが当時選対副委員長だった菅である。その恨みがまだ消えていない。政界は怨念の海である、と言ったのは小泉純一郎元首相だ。

 閑話休題。安倍の今の胸中を推し量りたい。来年9月の自民党総裁選での3選は確定だ。ポスト安倍をうかがう者は小池を含めて舞台から消えた。安倍は憲法改正と「デフレ脱却」宣言に向けた行程表作りにスイッチが入った。

 10月26日、官邸で開かれた経済財政諮問会議で、安倍は「賃上げは企業への社会的要請だ。3%の賃上げが実現するよう期待する」と初めて具体的な数字を挙げた。働く人への利益配分を強化すること自体は経済界も賛同する。安倍は単なる賃上げだけでなく、成果重視の働き方に変えていくなど労働市場改革とセットで進めることを狙っている。言い換えれば、賃上げと解雇が働き方改革の両輪になる。来年の通常国会前半で、春闘での賃上げを実現し、それをテコに中盤で高度プロフェッショナル制度を導入した労働基準法改正案を成立させ、タイミングを見計らって「脱デフレ」を宣言する腹づもりだ。通常国会終盤には憲法改正案の国会発議を図り、総裁選無投票3選を経て国民投票に諮るシナリオを描いている。ただ思惑通りに運ぶ保証はない。

(2017年10月30日)