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予想外高支持率のトランプ大統領と対峙する安倍首相の正念場

 9月29日〜10月7日まで7泊9日の日程で米ワシントンとニューヨークを訪れた。目的は、9月26日の日米首脳会談の検証と、11月6日に控えた米中間選挙の最新選挙情勢を取材することだった。筆者にとって久しぶりの米国だったので、センチメンタル・ジャーニーの要素も加わる。日米首脳会談の検証については色々な媒体で既報なので、小欄では米中間選挙についてリポートしたい。

 そもそも米中間選挙など日本国民は関心がないのかもしれない。最新情勢がほとんど報道されたことがない。ところが、行ってみればわかる。どの国でも選挙は血沸き肉踊らせるお祭りなのである。ドナルド・トランプ米大統領も、安倍晋三首相とのゴルフプレーを断念し、選挙遊説日程を優先させたほど熱を入れている。

 英誌「エコノミスト」の数カ月前の記事に面白い指摘があった。大意は次のようなことだ。「民意を権力に転換するシステムには欠陥がつきものだ。英国は政府が強すぎ、イタリアは弱すぎる。そして米国は少数派の専制だ。背景には、地方と都市の有権者に乖離がある。選挙制度は地方に有利にできている。共和党は地方政党、民主党は都市政党だから1票の重みが違う。結果として共和党は上下両院と行政府を握っている。2016年大統領選でも得票は49%に過ぎなかった」

 この指摘は当たっている。米国では、少数得票が多数派を占めることがある、というのは以前から言われていた。全体の多数票を得た党が下野する二大政党制は他の国では例がない。11月の中間選挙は、メディアの予想では、民主党が5割以上の確率で下院を獲得すると言われる。得票数では1割近く上回るらしい。逆に共和党が総得票数で上回るチャンスはほとんどないのに、下院を維持する確率がそれでも三分一あるそうだ。

 米国で聞いた情報では、9月時点で下院435議席中、予想獲得議席が民主党206、共和党189とされていた。それが直近では、民主党205、共和党198にまで大幅に差が縮小していた。接戦区は32で、そのうち30選挙区が共和党現職である。下院は現職不利がセオリーなので、民主党優勢に変わりがない。だが、その差が縮まった要因は何なのか。

 それを探る前に、トランプ米大統領の支持率がここに来て上昇していたのも驚きだった。平気で「ちゃぶ台返し」をやるなど他国の指導者から付き合うのが厄介な人物とみられているが、米国の地方都市有権者から依然根強い人気を誇っている。

 米調査会社「リアル・クリア・ポリティクス」は10月23日、主要メディアの世論調査結果を集計、その平均値を発表した。それによると、昨年1月のトランプ政権発足後、6月4日に次いで高い44.3%まで跳ね上がっていた。保守系メディアのFOXテレビは最高値の47%、トランプ大統領に厳しい報道姿勢のCBSテレビですら42%あった。

 支持率様変わりの要因は、二つの「カ」にある。一番目の「カ」は、先にトランプ大統領から米連邦最高裁判事に指名され、10月6日の米連邦会議上院本会議で、賛成50票、反対48票の僅差で承認されたブレット・カバノー氏の「カ」である。

 知人女性への性的暴行疑惑や最高裁判事としての適性を巡り、野党民主党だけでなく一部メディアから批判の集中砲火を浴びたカバノー氏は、外交・安保政策だけでなく銃規制、妊娠中絶問題を含む宗教政策から環境問題に至るまでトランプ大統領好みの超保守派である。

 反トランプを明確にしているCNNテレビなどは上院採決当日、キャピトル・ヒル(米議会)周辺が「Shame on you」(恥を知れ)を連呼し、承認反対のプラカードを掲げた女性たちによって包囲される映像を繰り返し流していた。

 こうした抗議行動の盛り上がりに危機感を抱いたのがホワイトハウスと与党共和党執行部だ。米議会勢力図が覆されてもいいのかと喧伝、運動員らの活動にネジを巻いた。カバノー氏の指名が承認されない可能性が高まったことも、それまで眠っていた保守系有権者のスイッチがONに切り替わった。トランプ大統領の扇情的ともいえる民主党批判によって覚醒し、中間選挙の行方に関心を向けるようになった。

 二番目の「カ」は、これまた繰り返しニュース映像で報じられている「カラバン問題」の「カ」である。「カラバン」とはペルシャ語の「カールヴァーン(隊商)」が由来で、大量の移民(長い列)を意味する。強圧政治の中米ホンジュラスからグアテマラを経てメキシコ南部を北上する移民集団1万人の映像が流されている。12月1日に就任するメキシコのロペスオブラドール次期大統領が移民に寛大な姿勢を示していることもあり、北上する移民集団は日を追うごとに増え続けている。メキシコからさらに北上すれば、そこは米国カルフォルニア州である。

 「亡命希望の大量移民が米国に向けて行進している」――。トランプ大統領は「カラバン」の中には、犯罪者、テロリスト、中東からの亡命者も含まれていると煽り立て、軍隊を派遣し断固として国境を守るとアピールしている。「カラバン」で「米国の危機」が訪れている、と目いっぱいアナウンスしているのだ。民主党支持層が多い西海岸の有権者たちは、トランプ大統領が16年大統領選で掲げた公約「メキシコとの国境に壁を作る」を思い出したに違いない。そして、自分たちがばかげた公約だ、と反対したことも。

 つまり、二つの「カ」のパンチがヒットし、中間選挙の下院予想は民主、共和両党の差が縮まったのである。一方、上院の予想獲得議席数は共和党50、民主党44だが、接戦州6議席のうち現職は民主党4、共和党2だ。ミズーリ、ノースダコタ、インディアナ州の民主党現職が苦戦している。この3州で民主党が敗れると、共和党は最大55対45で大勝することになる。冷徹にみると、一部が望んでいるトランプ大統領弾劾など夢であることが分かる。

 紙幅が少なくなったが、国内政治についても少し触れたい。24日から12月10日までの日程で臨時国会が開かれている。かなり荒れた国会になりそうだ。政権にとって優先順位が高い入国管理法改正案の取り扱いもさることながら、新閣僚のスキャンダル続きで審議は停滞する可能性が高い。『週刊文春』がスクープした片山さつき地方創生相「国税口利きで100万円」は、本人が全否定して名誉棄損で訴えると息巻いているが、完全に「黒」である。100万円が片山氏に渡っている証拠や、電話を掛けたとされる関東信越国税局長の実名なども野党の追及で明らかになるだろう。早々に退場願わないと収拾がつかなくなる。片山氏以外にも、初入閣組の柴山昌彦文部科学相、宮腰光寛沖縄・北方相兼1億総活躍相、平井卓也科技担当相も中身はともかく早晩スキャンダルが出てくると永田町スズメの間ではささやかれている。なぜ、こういう粗悪な組閣になったのか。適材適所、「身体検査」による身ぎれい人材よりも滞貨一掃、派閥優先の基準を優先したためである。臨時国会は会期延長が避けられそうもない。そうした中で、28日に実施された新潟市長選で敗北が確実視されていた自民党支持の中原八一氏(元参院議員)が野党統一候補の小柳聡氏(元市議)に辛勝した。沖縄県の首長選挙で3連敗した自民党執行部は一息ついたところだ。

(2018年10月29日)