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二階俊博自民党幹事長の去就が焦点

 今夏はセミの鳴く期間が短かった。雨が多く、東京の猛暑日も例年と比べると少なかった気がする。ネット上のニュースは「小泉進次郎氏と滝川クリステルの出来ちゃった婚」「吉本興業のごたごた」「あおり運転殴打事件」で占められ、これでもかと流し続けた。筆者には食傷気味だった。メディアニュースの「ワイドショー化」を感じる。

 この夏は日本を含めて世界経済、株式・為替市場が大荒れだった。ロイターは8月7日、経済指標が軒並み悪化しており世界経済はすでにリセッション(景気後退)入りしている、との署名コラムを掲げた。株がジェットコースター相場になっている。ブルームバーグは27日「言葉を失うウォール街。金融危機より異様なトランプ・マーケット」の記事を載せた。トランプ米大統領のツイート一本で株価が右往左往する。同日のウォール・ストリート・ジャーナル日本版は「関税の脅迫・報復合戦・米中経済の鈍化というサイクルが少なくとも20年11月の米大統領選まで長引く可能性がある」との観測記事をトップで扱っている。

 15日のニューヨーク株式市場は前日比800ドル安で今年最大の下げ幅となった。23日にも600ドル下げた。26日の東京市場日経平均も一時500超円下げ、終値は450円安、為替も一時1ドル=104円台に突入した。日経新聞は「米中対立の長期化懸念で世界的に株安が続いている」と定型的な分析記事を載せているが、何もリスク要因は米中貿易戦争だけではない。景気の「気」は気分の「気」である。少しでも不安材料があると、投資家はリスク回避の行動に走る。

 米中対立以外、思いつくままリスク要因を挙げてみる。@中国経済の成長鈍化、20年は節目の成長率6%を維持できるかA6月から続く香港のデモ、近くに駐屯する人民武装警察部隊が介入すると「第2の天安門事件」の恐れB米国の国債市場でイールドカーブ(利回り曲線)が右肩下がりになる逆イールドになった。つまり「短期金利>長期金利」の状態で、景気後退に入る前兆とされるCアルゼンチンのペソ急落、トルコ・リラ問題やイタリアの政情不安DBrexit、英国のボリス・ジョンソン政権下で10月31日に「合意なきEU離脱」となる確率が高いEホルムズ海峡危機。トランプ政権が軍事介入に踏み切る可能性は少なくない。ポンペオ国務長官も対イラン強硬派だ。あの地域が炎上すれば、中東から日本への石油やLNG供給が難しくなるだけでなく、油価が暴騰して世界経済に甚大な損害を与える――などが浮かぶ。このほか、来年の米大統領選への懸念を挙げる人もいよう。リスク要因がダブル、トリプルで襲い掛かると「株価2万円割れ・対ドル円レートの100円突破」も絶対にないとは断言できない。

 日本の地政学リスクでは日韓対立がある。「政冷経冷」の極地、こじれにこじれ収拾の見通しがない。韓国での反日運動の高まり、日本でも反韓ムードのボルテージが上がりっぱなしで、修復不能に陥りつつある。文在寅韓国大統領は日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄に踏み切った。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、の振舞いに映る。読売新聞社の世論調査(23〜25日実施)によると、韓国政府が「GSOMIA破棄」を決めたことを「理解できない」とした人は83%に上った。日韓両国が安全保障面で連携する「必要がある」は72%で「必要はない」の19%を大きく上回った。国民の多くは事態を冷静に見ている。互いのリーダーが遺恨を収めてテーブルに着くには、双方ともトップを変えるしかないのか、といささか自虐的な気持ちにも襲われる。

 国内的なリスク要因として、10月から実施される消費増税は外せない。筆者はかねてから消費増税の再々延期を予想し、色々な機会に書いてきた。その理由を簡単に言うと、円高・株安が今秋から20年初めにかけて進むと、わが国の経済・景気に深刻な事態を引き起こす。「経済ファースト」の安倍政権が何もこんな時期に、と思っていたが、予想は見事に外れた。

 最近、財務省幹部と面談する機会があった。幹部は「安倍首相が消費増税を最後までやりたくなかったのはその通りだが、最後は決断していただいた」と明かしたうえで「消費増税が揺らぐことはない」と言い切った。もちろん消費増税が経済・景気の下振れ要因であることは財務省も先刻承知だ。「そのため昨年の予算編成時から考えられるマイナスシナリオを想定し取り組んできた。増税分を超える2兆3000億円弱の消費増税対策を盛り込み、今秋の臨時国会でも最大限の財政出動による補正予算を用意する。それでもダメだと言われてしまえば、返す言葉がない。増税実施によって不都合なことが出来しないように万全な準備をしておく。それ以外に手だてはない」と悲壮な決意を開陳した。

 安倍晋三首相や菅義偉官房長官は財務省に対して根強い不信感を抱いてきた。それが手に取るようにわかるから、財務官僚も萎縮して省内に閉塞感が漂っている。幹部は「先日の全英女子オープンで渋野(日向子)さんが優勝したが、あのような閉塞感を吹き飛ばす、誇らしくなるような話を私らも聞きたい。他力本願ですが…」と、力なく笑った。

 さて拙稿の締めは、被写体の焦点を絞り込んで国内外経済から国内政局へと移したい。

 9月10日の自民党役員人事、12日の内閣改造の日程が確定的とされてきたが、ここにきて16日からの翌週にずれ込む可能性が強まった。安倍首相は8月27日、G7サミット開催のフランス南西部ビアリッツで記者会見し、9月実施を明言したうえで「安定と挑戦の強力な布陣としたい」と述べた。

 焦点は、就任3年を超えた二階俊博幹事長の処遇である。二階氏本人と周辺は当然ながら再任を望んでいる。8月22日夜、二階派(志帥会)幹部の林幹雄幹事長代理、今村雅弘政調会長代理ら4人が赤坂の料亭に集まり、人事について意見交換した。4人は、二階氏が幹事長交代を余儀なくされるようなことになれば、二階氏は「反乱」を起こしかねないとの認識で一致したという。この密談には二つの意味がある。一つは、志帥会が二階氏の続投に危機感を抱いている証左となった点だ。もう一つは、内輪の会合の中身が外に漏れるのは、意図して流した人がいるからで、人事権者(=安倍首相)に対する間接的ブラフになると思い込んでいる点だ。

 筆者の見立ては、二階幹事長続投の確率が高い。国内外が騒々しい時に、自民党内まで「波風」を立てたくない、と安倍氏は思っているだろう。それを踏まえていただいた上で、あえて幹事長交代のケース・スタディを試みたい。こういう「頭の体操」は政治ジャーナリストの「業」のようなものだ。考えられる後任幹事長候補を網羅する。この名前が首相の頭の中をかすめるかどうかは別問題だ。

 岸田文雄政調会長▽加藤勝信総務会長▽甘利明選対委員長▽茂木敏充経済財政・再生相▽世耕弘成経産相▽小泉進次郎厚生労働部会長

 簡単にコメントをつけたい。「岸田幹事長」は事実上ポスト安倍が岸田氏で確定と党内で受け止められる。菅義偉官房長官に対する牽制にもなる。「加藤幹事長」なら、ポスト安倍の菅、岸田、加藤、茂木4候補の中で加藤氏が頭一つ抜け出すことになる。「甘利幹事長」は、実務能力は高いが政権与党トップとしてのマネジメントに欠けるとの指摘が優勢だ。「茂木幹事長」よりは「茂木外相」と霞が関で予想されている。「世耕幹事長」は、日韓対立の最中、経産相は余人をもって代えがたいので続投と思う。「小泉幹事長」ではなく、常識的には官房副長官だろう。仮に年内解散を断行したければ、れいわ新選組の「山本太郎フィーバー」が再燃しても小泉幹事長で対抗できる。

 従って、幹事長交代なら、本命・岸田、対抗・加藤、穴・茂木、サプライズ・小泉、となる。衆院当選5回以上、参院当選3回以上の「入閣待機組」も約70人控えている。この扱いも安倍氏の頭痛の種に違いない。

(2019年8月30日)