6月5日号 「五輪は『やるしかない』菅首相の苦境ー支持率30%台で政権運営に『黄色信号』が点滅。ワクチンと五輪問題で眠れぬ日が続く。」

最近、「早寝、早起き」で知られる菅義偉首相は寝付きが悪く、これまでのように安眠できないという。 日本は主要7カ国首脳会議(G7サミット)メンバーの中で新型コロナウイルスのワクチン接種率が最も低い。菅氏は3度目の緊急事態宣言を6都府県に拡大した上で5月末までの延長を決めた5月7日の記者会見で、「私自身が先頭に立ち、接種の加速化を実行する」と大見得を切った。だが遅々として進まないワクチン接種に痺れを切らし、首相官邸主導接種体制の再構築に乗り出して7月末までに3600万人の高齢者への接種を終えると宣言した。しかし現状は厳しく、8月末までずれ込みそうだ。
 そうした中、NHKの世論調査(5月7~9日実施)の結果が判明するや永田町に衝撃が走った。ワクチン接種進捗について「順調だ」が9%、「遅い」は82%に達し、国民の強い不安・不満が露わになった。 事実、内閣支持率は前回比9ポイント減の35%、不支持率が5P増の43%となり、支持、不支持が再逆転した。時事通信調査(7~10日)でも内閣支持率が前月比4.4P減の32.2%、不支持率は6.9P増の44.6%だった。調査実施中の9日時点で、65歳以上の高齢者のうち1回目の接種が終わった割合は全国で0.9%、東京都が0.6%にとどまり対象者の1%に満たず、82%が「遅い」としたのもうなずける。 その1週間後に朝日新聞と共同通信の世論調査が実施された。ワクチン接種についての朝日調査は「あまり評価しない」39%、「全く評価しない」13%、共同調査が「順調だと思う」12.9%、「遅いと思う」85.0%。そして内閣支持率についての朝日調査が「支持する」33%(前月比7P減)、「支持しない」47%(同8P増)で、共同調査は「支持する」41.1%(前回比2.9P減)、「支持しない」47.3%(同11.2P増)となった。 国民の多くがコロナ不安からワクチン不満に転じ、内閣支持率の大幅下落と不支持率の急騰を招来した。
 支持率30%台は菅氏の政権運営に「黄色信号」が灯ったことを意味する。さらに20%台まで急落すると、永田町では「危険水域」に達したと見なされる。 それでも高齢者対象の接種率は16日時点で、全国が2.9%、東京都は2.3%と、多少の進展があった。 そこで接種の加速化のために菅官邸は17日、遅れが顕著な大都市圏対策として東京・大手町の合同庁舎3号館と大阪・中之島の大阪府立国際会議場に大規模接種センターを設置し、接種要員に自衛隊の医官と看護官を充てることを決定した。眠れぬ日が続くという菅氏はもはやなりふり構わぬ“何でもあり”状態だというのである。 「官房長官時代の菅さんの頭の中はいろいろなアジェンダ(政策課題)で稠密状態でしたが、今やワクチン対応であっぷあっぷです」と語る某経済官庁幹部は次のように続ける。「ジョー・バイデン米大統領とのトップ会談が一応の成功を収めたことで、難題も自らが乗り出せば何とかなるとの自信を得ただけにワクチンショックは大きかったでしょう」。▶︎

▶︎ここで4月16日の日米首脳会談を振り返ってみたい。 そもそも菅氏には事前に懸念していたことがあった。①日米安全保障条約第5条の尖閣諸島への適用再確認の見返りに「台湾有事」で日本が果たし得る役割を明確にする、②中国による香港・新疆ウイグル自治区の人権侵害への批判戦列に日本も横並びで参加する、③先鋭化する米中対立の中で米国が今後発動する対中金融制裁と共同歩調を取る、④インド太平洋地域進出を企図する中国の海上覇権活動に対抗するため日米豪印4カ国連携のうえで日本は防衛力を強化する――などをバイデン氏から求められるのではないかという心配だ。 
 いざふたを開けてみると、バイデン氏は日米両首脳の記者会見で注目された「台湾海峡」という固有名詞すら挙げなかった。菅氏は拍子抜けしたに違いない。しかし、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と書き込まれた共同声明には、以下のような件がきちんと盛り込まれていた。すなわち、「日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した」の文言である。 
 この「自らの防衛力」が肝である。米国は対中軍事戦略における海上ライン「第1列島線」(沖縄~尖閣諸島~台湾~フィリピン~南シナ海)確保のため在日米軍基地への対空迎撃中距離ミサイル配備を検討している。他方、航空自衛隊は来年3月に離島防衛対地・対艦ミサイル(JSM)を導入、2024年から配備する最新鋭ステルス戦闘機F-35B(米ロッキード・マーチン社製)に搭載する。 要するにバイデン氏は菅氏に対し、日本は米国にとって最も重要な同盟国であるが現下の中国の脅威に対処するため防衛予算増額はもとより防衛力整備に傾注すべきだ、それが日米同盟の証しであると言っているのだ。 これが日米首脳会談で菅氏に与えられた「宿題」である。そして岸信夫防衛相は19日の日本経済新聞とのインタビューで、「防衛費の国内総生産(GDP)比1%の枠にこだわらない」と言明した。 菅氏は今、ワクチン問題と表裏一体の関係にある東京五輪・パラリンピック開催の是非を巡る判断で頭がいっぱいの状態。共同通信調査でも「中止」を求める回答が59.7%だった。だが、菅氏には「中止」の選択肢はない。親しい人物に「やるしかない」と繰り返し語っている。 万が一、感染力が強いインド型変異ウイルスの感染拡大によって中止に追い込まれたらどうなるのか。今秋の衆議院解散・総選挙どころではなくなる。安倍晋三前首相の辞任前総裁残余任期までの首相に終わり、「しょせん安倍さんの番頭でしかなかった」と言われる。それこそ菅氏にとっての悪夢である。やるしかないのだ。 

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