「トランプ氏にとって大きな痛手となる討論会だった」——。
9月29日夜、11月3日の米大統領選までカウントダウンに入ったなか行われた第1回テレビ討論会について、国際協力銀行(JBIC)ワシントン事務所の田中勇人氏(財務省から出向)のコメントである。 「トランプ大統領のパフォーマンスは事前の期待を大きく下回り、バイデン前副大統領は期待より多少良かった」とする同氏の分析は次のようなものである。トランプ氏が必要とする票について、㈰自らの支持基盤の繋ぎ留めはやり過ぎなほど十分やった。㈪前回クリントン氏(元国務長官)に投票した人の一部切り崩し(無党派層を獲得)は失敗。㈫前回トランプ氏に投票した人の取りこぼし抑制(白人女性票の繋ぎ留め)は失敗。㈬前回クリントン氏に失望して棄権した人に今回も投票させない(サンダース上院議員支持層の急進左派をバイデン氏から離反させる)は一定程度成功、というのである。
米憲政史上、前代未聞の共和、民主党大統領候補によるテレビ討論会であったことだけは間違いない。 ▶︎
▶︎トランプ氏はあらゆる手段を使ってバイデン氏を貶めようとする作戦で臨み、バイデン氏も有権者に向けてテレビカメラに直接話すことでトランプ氏の暴言を無視しようとしたが、結局は誘惑に抗えず度々大統領を侮辱した。 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの見出し「Trump, Biden Trade Insults In Debate Full of Crosstalk」(トランプとバイデンが討論会で侮辱の応酬)と書いたように、バイデン氏も最後は同じ土俵に上がってしまったのだ。 ただ、「反トランプ」を隠さない米CNNや米紙ニューヨーク・タイムズなどに依拠する日本のマスコミに接するしかない読者のために非報道のバイデン発言を紹介する。 明らかに大失点となったのが、トランプ氏の挑発に乗って「増税」を認めてしまったことだ。
「I’m going to make the corporate tax 28%. It shouldn’t be 21%.」 この発言を受けて米株先物の下落が加速し、バイデン氏の増税政策に強い懸念を抱いていた市場関係者は落胆した。
さらに「法と秩序」問題でも、トランプ氏の突っ込みを受けて、「I’m in favor of law. You…」と、law(法)の次のorder(秩序)という言葉が出て来なかった。警察、消防、軍隊票を失った瞬間である。トランプ大逆転はまだあり得る。
トランプ氏が、新型コロナウイルス感染から完全復活すれば、大逆転はまだあり得る。