厳戒態勢下の首都ワシントンで1月20日、第46代アメリカ合衆国大統領にジョー・バイデン氏(78歳)が就任した。 昨秋の米大統領選後、3カ月に渡って上演された「トランプ寸劇」は、米憲政史上前代未聞の「米議会占拠事件」を引き起こしたことで呆気ない幕切れで終わった。
そもそもシナリオ不在で緞帳が上がったうえに、主役のドナルド・トランプ前大統領がセリフすら覚束ない状態で舞台に立ったことで端からカーテンコールなど期待できるものではなかった。
この「寸劇」上演の強行が米国の分断をさらに加速させたことは確かだ。 それはともかく、バイデン政権がスタートした。 本稿では先週に続き、ホワイトハウスの米国家安全保障会議(NSC)に新設されたインド太平洋調整官に就いたカート・キャンベル大統領副補佐官(国家安全保障担当・64歳)について言及する。 「知日派」の同氏がバイデン外交の焦点である米中技術覇権を巡り、従来の対中強硬姿勢を堅持しているとして、日本では外交当局を含めメディアは一様に歓迎している。 本当にキャンベル氏は「反中・親日」なのか。 先ず、バイデン政権内で外交・安保政策の分担がどうなっているのか。▶︎
▶︎ アントニー・ブリンケン国務長官(58歳)の当面の関心は、トランプ時代に悪化した欧州連合(EU)との関係修復である。キャンベル氏の直属の上司となるジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当・44歳)はイラン核合意復帰など新たな中東政策に専念する。
ウェンディ・シャーマン国務副長官(71歳)はクリントン政権時代に北朝鮮特使として当時の金正日総書記と会談するなどアジア通であるが、オバマ政権の国務次官(政治担当)時代の直属の部下だったキャンベル氏との“棲み分け”がハッキリしない。 加えて、財務長官が有力視されたキャンベル氏夫人のラエル・ブレイナード元財務次官(国際担当)が民主党内左派の反対で外れたことから、その代償として新設のインド太平洋調整官に据えたとの見方もある。
さて、肝心のキャンベル氏である。外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」(1月12日配信)に寄稿した論文で、アジアの新秩序確立のため①再均衡への修復、②正統性の回復、③連携の促進――を挙げた。 だが、総じて対中融和路線の印象が拭えず、オバマ政権の「戦略的忍耐」のDNAを継承しているのではないか。不安だ。