No.626 2月25日号 「バイデン演説」の肝と日本の安保

ジョー・バイデン米大統領初の国際会議デビューである。2月19日午後3時(英ロンドン時間・日本時間午後11時)から開催された先進7カ国(G7)首脳テレビ会議と,同5時15分からオンライン形式で開かれたミュンヘン安全保障会議特別会合で発言したのだ。
新聞各紙は「バイデン外交 協調前面,G7・安保会議―中国念頭 欧州と連携」(『読売新聞』21日付朝刊の見出し。以下同じ),「対中国が試す米欧同盟―バイデン氏,再結束呼びかけ―<戦略的な競争準備>,独首相らと温度差」(『日本経済新聞』),「多国間主義 中国に対抗―G7・安保会議,米大統領<長期戦に備え>」(『産経新聞』)――などと報じた(因みに『朝日』と『毎日』は国際面での報道のみ)。
先ず本誌の指摘は,20分間のバイデン演説の肝が,果たして報道にあるように米欧が連携して「中国との長期的な戦略的競争の準備をしなければならない」というものだったのかどうか,疑問があるということである。ロシア批判も行ったバイデンは,「プーチン」と「クレムリン」と名指ししたものの中国については「中国政府」という表現にとどめて「習近平」,「共産党」の固有名詞を避けたのである。領土・人権問題については,ロシアのウクライナ併合問題に言及したが,中国の香港・ウイグル自治区における人権侵害について全く触れなかった。▶︎

▶︎要するに,安全保障の観点から対中,対露批判に関するスタンスに大きな違いがあるのだ。「The challenges with Russia may be different than the ones with China, but they’re just as real.」要は,経済的利益に関わる中国への配慮であり,オバマ政権時の反露・親中政策を引きずっている可能性である。即ち,バイデン政権がトランプ時代同様に対中強硬姿勢であると決めてかかることはミスリードになる懸念だ。バイデンが「米欧同盟連携の回復と強化」を謳ったのは間違いない。ただ,当日の日程を具に見れば分かるが,明らかにバイデンは外交より内政(コロナ対策)を重視している。
 午後5時15分過ぎから20分演説し,同55分(米東部時間午前11時55分)にアンゲラ・メルケル独首相とエマニュエル・マクロン仏大統領の演説が終わるやホワイトハウスを発ち,大統領専用機エアフォースワンでミシガン州遊説に向かった。G7議長国のボリス・ジョンソン英首相の午後7時からの演説を聴かずにコロナワクチンを製造する製薬最大手ファイザーの同州カラマズー工場視察を優先したのだ。視察後にテレビ中継を通じて同行記者団との会見で全米に向けて「ワクチン確保」を成果として誇示したのである…(以下は本誌掲載)申込はこちら