菅義偉政権は5月7日夕に開いた新型コロナウイルス感染症対策本部で11日までの緊急事態宣言を6都府県に拡大した上で31日まで延長することを決めた。と同時に,菅首相は同日夜の記者会見で,新型コロナウイルスのワクチンについて「私自身が先頭に立ち,接種の加速化を実行する。
24日から東京,大阪の大規模接種センターで接種が始まり,その後は1日100万回の接種を目標とする」と表明した。だが,国民がいま抱く強いコロナ禍不安はワクチン接種が遅々として進まない現状に根ざすものである。そのコロナ禍不安が現状のワクチン対応への不満に直結し,それが途端に政権批判に結び付いているのだ。
その証の一つが与野党ガチンコ対決となった4月25日の参院広島選挙区の再選挙であった。「政治とカネ」問題という逆風下であったものの,公明党の全面支援を得た自民党公認候補は事実上の野党統一候補に終盤戦で肉薄し,投開票前日の世論調査では大接戦となったが3万4000票差で敗北した。そして「政治とカネ」よりも「コロナ対策」が主たる敗因とされた。要するに菅首相は今,ワクチン問題で頭の中がアップアップ状態にあるということである。▶︎
▶︎医療従事者を優先したワクチン接種について,首相は次の対象者である高齢者向けを「6月中をメドに終わった市町村から,基礎疾患がある方々を含め広く一般にも開始したい」と会見で述べた。しかし別稿で詳述しているように,肝心な医療従事者480万人ですら2回目を打ち終えたのは僅か2割である(4月末時点)。本誌編集長も対象である約3600万人高齢者で接種できた者は5日時点で1%に満たない。
その理由は一に懸かってワクチン接種ロジスティックの未整備と,所管の厚生労働省の「通達行政」にある。ワクチンの調達・確保から接種会場・要員の確保までがロジである。極論すれば,厚労省は各地方自治体に対し何々を何時までに実施しろと通達する――これが己の仕事と思っているのだ。1年前の今頃の「マスク騒動」を教訓化していない。口約束や売り込みを真に受けて,確保できた(る)とそのまま丸投げするだけだ。
なぜ,このような事態となったのか。これまた理由がある。事ワクチンに関しては「官邸の重石」とされた杉田和博官房副長官(事務)の存在感が希薄なのだ。全てが後手に回り,遅々として進まぬワクチン接種体制の再構築で,新たに自衛隊(医務官と看護官)の投入と接種会場に東京・大手町の合同庁舎を充てる決定だけは杉田案だったとされる…(以下は本誌掲載)申込はこちら