菅義偉首相はほぼ1カ月前、非常に大きな政治決断を行った――。
ジョー・バイデン米大統領が主催したオンライン形式による気候変動サミットで、温室効果ガス排出量の削減目標「2030年までに13年度比46%減」を国内外に表明した。 先立つ日米首脳会談でも「日米気候パートナーシップ」の設置で合意している。 菅首相が昨年10月に打ち出した公約「2050年カーボンニュートラル」はホンモノである。
その本気度を推し測る幾つかの事実を紹介する。 いま経済産業省=資源エネルギー庁が策定しつつあるアジアを主とした新興国向け「脱炭素化」構想にそれは見て取れる。 世界のカーボンニュートラル化(CN化)の実現にはエネルギー需要の増大著しいアジア諸国の脱炭素化が不可欠という認識がその根底にある。 アジアの主要国として日本は、欧米諸国の化石燃料に対する厳しいスタンスを伝達し、CN化に向けた工程表を策定しなければ、海外投資の引き揚げに加え、今後3000兆円とされる「ESG(環境・社会・企業統治)投資」を呼び込むことが出来なくなるリスクを共有する必要があるからだ。 ▶︎
▶︎平たく言えば、日本の脱炭素化技術の海外市場獲得ということだ。そのためのキーワードが「トランジション(移行期)」である。欧米諸国的な「グリーン」か「グリーンでないか」の二択論でなく、その間に「トランジション」という概念が東南アジア諸国連合(ASEAN)など新興国には必要である。 水素、燃料アンモニア、洋上風力、カーボンリサイクル、自動車・蓄電池、省エネ機器などグリーン成長戦略の重点分野で新興国市場を獲得するには日本が差し伸べる手助けが絶対に不可欠なのだ。
そしてカーボンニュートラルに向けたトランジションを進めることで、海外のESG投資や資金を呼び込み、新たな産業や雇用の創出につないでいく。日本イニシアティブ基本戦略を通じてアジア新興国とのウィンウィン関係を目指すというものだ。それがまさに「グリーン成長」である。
もちろん、各国の事情を反映したものにしなければならない。アジア版ファイナンスの普及、制度整備や人材育成の支援なども重要だ。 JETRO(日本貿易振興機構。佐々木伸彦理事長)やADB(アジア開発銀行。浅川雅嗣総裁)の果たす役割も少なくない。 だが、世界レベルのCN化を主導するには資源エネルギー庁の拡大再編も視野に入れるべきだ。