遅れていた財務省の幹部人事が7月8日付で発令された。矢野康治主計局長(85年旧大蔵省)が財務事務次官に昇格した。 主税畑が長い矢野氏は、主税局総務課長、官房審議官、大臣官房長、主税局長を経て昨夏人事で主計局長に就任した。主税、主計両局長を歴任後の次官就任は旧大蔵省時代を含めて極めて異例である。
異例人事もそうだが、筆者の関心はそこにはない。霞が関では「異色の財務官僚」として知られる矢野氏自身にある。 霞が関の官僚群は「心あるもの言う犬の集団であるべき」とする人物が財務次官になったのだ。 筆者の印象を一言で表せば、まさに「硬骨漢」である。「矢野さんみたいな闘う人が次官になるというのはうちの役所もまだまだ希望があると感じる」と、省内の中堅・若手から期待の声が多い。「闘う人」とは何を意味するのか。
同氏は、菅義偉首相が2012年12月に発足した第2次安倍内閣の官房長官就任から2年半秘書官(事務)を務めた。 首相側近グループは官房長官秘書官経験者で固められており、その中核にいるのが矢野氏である。 だが、普通の「犬」ではない。最近、霞が関で話題となった事件があった。官邸に呼ばれた矢野氏は、首相直々に「ワクチン確保にもっと予算を付けろ」と指示されたが、強く反論したという。 ▶︎
▶︎同席した他省トップの面前で叱責されても怯むことなく「財政規律」の持論を繰り返したのだ。キャインキャインと泣いて擦り寄る「ポチ」ではなく、危険を察知すれば大声で吠えて伝える「忠犬」なのである。ややもすれば、その過激な発言から誤解を招くこともある。菅首相は「敵と味方」を峻別するタイプと批判されることが少なくない。
だが、今人事で耳が痛いことを直言する矢野氏の次官昇格を承認したことで度量の大きさを示したことになる。 財務省人事でもう一つ。神田眞人国際局長(87年)の次官級の財務官昇格である。国際局長に就いて1年で昇格という、こちらも異例の人事だ。「異色」の矢野氏に対して、神田氏は「異能の財務官僚」だ。博覧強記であり、抜群のプレゼン能力に定評がある。官房総括審議官→国際局長→財務官のコースは、浅川雅嗣アジア開発銀行(ADB)総裁(81年)以来である。
筆者の経験では、尋ねたことに「知らない」と言われたことは皆無だ。必ず答えがある。「異色」と「異能」のツートップの財務省は期待できそうだ。