No.636 7月25日号 菅首相は「天皇より国家」なのか?

新型コロナウイルス禍の中,第32回夏季五輪東京大会は7月23日,開催された。同日午後8時に東京・国立競技場で,「非常に控え目なセレモニー」(英紙ガーディアン)と報じられた開会式が始まった。アトラクションを含めセレモニーそのものが冗漫であると感じながらもテレビ中継を観ていた多くの国民が「あれっ,おかしいな」と思ったのは,同午後11時13分に行われた天皇陛下の開会宣言の時だ。
 それは陛下の「私は,ここに,第32回近代オリンピアードを記念する,東京大会の開会を宣言します。」ではなく,天皇が起立されてお言葉を述べられ始めて瞬時気が付いたに違いない小池百合子東京都知事の目配せで天皇の左隣の菅義偉首相と,その左に着席していた小池が立ち上がった映像を目の当たりにしたからだ。天皇臨席・お言葉など皇室プロトコル(一般皇室行事を含む)に関する所作については必ず事前レクを受ける。今般,五輪組織委員会の当該部局が天皇の開会宣言に関わるセレモニー「式次第」について説明していなかったはずがない。しかし結果的には,「みっともない恥」を全世界に晒したことになった。開会式直前に出来した演出チームを巡る一連のドタバタ劇のために説明・確認をしていなかった可能性はゼロではない。▶︎

▶︎だが,首相以下,都知事,組織委員会会長,五輪担当相等が天皇の起立と共に立ち上がることは「常識の範囲」である。となると,官房長官時代の菅が皇室を観光資源という側面で実利的に捉えがちであったことから推測できるが,ある意味で胸中に「天皇より国家」という想いがあって,それがそのまま“同時に起立せず”の所作になったのではないかとの見方もできる。そこに至る背景を詳細に過ぎるかも知れないが探ってみる。 メガバンクの本支店が建ち並ぶ金融街,東京・大手町の「永代通り」を抜けた皇居のお濠端にある大手門。江戸時代,諸大名が登城した正門として使われていた。敵の侵入を防ぐために枡形に配置された高麗門と櫓門をくぐるとすぐ目に入ってくるのが三の丸尚蔵館だ。上皇ご夫妻から寄贈された昭和天皇・香淳皇后の遺品などを収蔵し,その一部を常時一般に無料で公開している。
 その後,高松宮家や三笠宮家からの寄贈もあり,現在は9682点の美術工芸品などを保有している。「国宝指定は,特別嬉しいとかの気持ちがある訳ではない」。尚蔵館に勤務したことがある宮内庁OBは言う。7月16日,文科相・文化庁長官の諮問機関である文化審議会が尚蔵館所蔵の伊藤若冲の「絹本著色動植物綵絵」や元寇を描いた「紙本著色蒙古襲来絵詞」など同館所蔵の5点を国宝に指定するよう文科相に答申した…(以下は本誌掲載)申込はこちら