No.638 9月10日号 総裁選の裏で「菅vs安倍・麻生」

自民党総裁選(9月17日告示・29日投開票)は党内各派閥(各候補者陣営)間の熾烈な情報戦の真只中にある。8月26日に出馬会見を開いた岸田文雄前政調会長(衆院当選9回・岸田派=64歳),9月8日に出馬表明した高市早苗前総務相(8回・無派閥=60歳),10日午後に正式表明する河野太郎行政・規制改革相(8回・麻生派=58歳)の3人が次期衆院選に向けた「選挙の顔」争いをする様相を帯びている。先ず,今回の総裁選は地方の党員・党友票が多大な影響を及ぼす事実上の「人気コンテスト」になったことを認識する必要がある。
 現時点で前年比5万147人増の113万6445人の一般党員のうち2年連続党費(4000円/年)を納めている党員が総裁選の有権者である。20年9月14日の前回総裁選でその権利を行使できなかった党員が「今度こそ総裁選び(=首相選出)に参加する」と身構えているだけに,マスコミ各社が実施する世論調査の「次の首相」支持率ランキングに影響を受けやすいということは論を待たない。
すなわち,最新の『読売新聞』調査(4~5日実施)では河野23%,石破茂元幹事長21%,岸田12%,小泉進次郎環境相11%,安倍晋三前首相5%,高市3%,野田聖子幹事長代行2%。そして共同通信社調査(同)でも河野31.9%,石破26.6%,岸田18.8%,野田4.4%,高市4.0%という順位だった。石破が出馬見送りを余儀なくされたことで,この「石破人気」がどの候補にシフトするのかが現下の永田町の最大関心事であり,テレビや週刊誌を巻き込んだ激しい情報戦の勃発理由である。現状では河野の断トツ首位は揺らがない。ポイントは概ね以下の通りだ。▶︎

▶︎①安倍の高市支援の本気度と,その決め手は何だったのか。②「河野首相」を前提にした後見人を巡る菅義偉首相と麻生太郎副総理・財務相との確執の先鋭化。③河野サイドが石破を支援者として受け容れる損得勘定で態度を決めかねている。④先手必勝が結果的に裏目となった岸田の次の攻め手――。
①から見ていく。8月30日に「菅不出馬」あり得ると見た安倍は当初,河野と岸田の一騎打ちを前提に党内保守グループ「日本の尊厳と国益を護る会」(登録67人)など保守勢力を取り込むため,憲法改正,女系天皇,夫婦別姓,靖国参拝,原発容認問題などで河野と対立する高市を担ぎ,決選投票に持ち込んでその高市票を岸田票に上積みして河野を破るという選挙戦術を描いていた。
 ところが,9月2日のテレビ番組で岸田が「森友問題」の再調査に言及したことに強く反発,高市支援を加速することになった。今やノーリターンで注力している。慌てた岸田は安倍に擦り寄るべく軌道修正を図っている(因みに河野も8日の会見で「安全な原発は再稼働」と発言・容認姿勢を示している)。
②についてだが,麻生は自派の7割近くが河野支持の現状に加えて09年総選挙時の菅との遺恨もあり,菅が二階俊博幹事長とタッグを組んで「河野・石破連合」を画策しているとの疑心暗鬼も手伝って河野周りの人材不足を衝いて麻生派回帰を働きかけている。
 一方の菅は河野に対し改革路線遂行と安倍・麻生連合とは相容れない,石破まで取り込んだ政権樹立を目指すべきと助言しているとされる。事実,退陣する菅が総裁選只中に1泊3日(23~25日)の強行軍で訪米,ワシントン郊外のキャンプデービッド(大統領別荘)での日米豪印(QUAD)首脳会議に出席,ジョー・バイデン米大統領と会談するのも,自らの影響力を残して「河野後見人」の座を狙っている証しとの見方もある。平たく言えば,今総裁選の河野vs岸田(高市)の対決は菅(二階)vs安倍・麻生の代理戦争とも言える…(以下は本誌掲載)申込はこちら