岸田文雄政権は11月19日、新たな経済対策と2021年度補正予算55.7兆円を閣議決定した。事業規模では78.9兆円と、事前予想を上回る巨額な財政支出となる。与党・自民党側から総額で約30兆円超の補正予算を求める声が上がっていたが、市場関係者も仰天した前代未聞の「大バラマキ」である。今回の大規模経済対策を詳しく見てみたい。
日本では政府が財政出動による大型経済対策を打ち出す時、政・経・官界(市場関係者を含む)が注目するのは何よりも「金額」(数字)である。55.7兆円(国費43.7兆円に財政投融資・地方分担費12兆円の合計)が、過去最高だった20年4月の経済対策48.4兆円を上回ったと、その規模に関心が集中するのだ。したがって、民間の支出含めた事業規模78.9兆円に「やった感」を覚える関係者が少なくない。在米金融アナリスト、齋藤ジン氏の指摘を借りると、そもそも経済対策では①事業規模、②財政支出(財政措置)の規模、③補正予算の規模の3つの数字が混同して語られることが多い。その伝で言えば、55.7兆円は財政支出の数字である。▶︎
▶︎財政当局の財務省には一般会計予算と財政投融資予算という2種類の予算がある。国民にはもちろん、日本国債と財投債の区別がつかない。財投債は通常の国債とは別勘定なのだ。平たく言えば、財政当局は「2つの財布」を持っているということである。そして3つ目の数字は、財務省が予算に歳出を計上する規模を意味する。要するに、補正予算を使った新規マネーである。問題は、それが効果的に経済成長を促すことに繋がるのかということだ。
岸田首相は「成長と分配の好循環」を繰り返してきた。だが、55.7兆円という巨額な数字は、そのうちの相当額が年収960万円の所得制限を設けて、18歳以下への10万円給付金(現金5万円を年内に、子育て関連に使途を限定したクーポン5万円分を来春までに支給)に充当される。
それだけではない。ガソリン価格の上昇が止まらない中で、政府は1㍑あたり5円を上限に石油元売りに補助金支給を決めた。どうも岸田首相の目は「成長」より「分配」に向いているようだ。 やはり、19日の東京株式市場の日経平均株価の終値は2万9745円に留まった。それはともかく、「このままでは国家財政は破綻する」とモノ申した、財政規律派の矢野康治財務事務次官は今、何を思うのか。