岸田文雄政権が誕生したのは10月4日。50日余が過ぎた現在,岸田首相はこれまで心を砕いてきた政権運営を安定低空飛行から巡航速度へ移行しつつあるかに見える。何といっても,第49回衆院選(10月19日公示・31日投開票)で事実上の自民党圧勝(衆院絶対安定多数261議席獲得)を掌中に収めたことが決定的に大きかった。そして11月19日の臨時閣議で政府は過去最大の55.7兆円(事業規模78.9兆円)の「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」を決定した。事業規模で国内総生産(GDP)の約15%に相当する巨額なものだった。A4版56枚の経済対策文書の「第1章はじめに」以下のように記述されている。《……直面する危機を国民の皆様と共に乗り越え,「成長と分配の好循環」を実現する。このため,まずは,経済社会全体の豊かさを高め,そして,その果実をしっかり分配する。「新しい資本主義を」起動し,「成長か,分配か」ではなく,「成長も,分配も」実現し,経済を自律的な成長軌道に乗せることで,経済対策の暖かい風を,全国津々浦々まで行き渡らせていく》。
だが,岸田の目は「成長」ではなく「分配」に向かい過ぎている。55.7兆円大型経済対策の「第3章取り組む施策」(Ⅰ項2の③エネルギー価格急騰への対応)として《燃油の卸売価格の抑制のための手当てを行うことで,小売価格の急騰を抑制する時限的措置を講じる》とし,ガソリンの平均価格が1㍑あたり170円を超えた場合,1㍑あたり5円を上限に石油元売りに補助金を出すというのだ。▶︎
▶︎あるいは同章(Ⅲ項2<分配戦略>の②「こども・子育て支援の推進」)には《年収が960万円以上の世帯を除き,0歳から高校3年生までの子供たちに1人当たり10万円相当の給付を行う。具体的には,子供1人当たり5万円の現金を迅速に支給する。
これに加えて,来春卒業・入学・新学期に向けて子育てに係る商品やサービスに利用できる5万円相当のクーポンの給付を行う》と記述している。要するに,新型コロナウイルス感染症拡大防止のための財政支出22.1兆円のうち上述2つの「分配」だけで相当額が充当されるのだ。しかし「成長」の具体策が描かれていない。それ故に19日の東京株式市場は巨額な経済対策と補正予算案の閣議決定にもかかわらず好感しなかった。
それでも,「政高党高」を掲げる岸田は1週間に3回(16,18,22日)も自民党の麻生太郎副総裁,茂木敏充幹事長と会談,脱「政高党低」による政府・与党の緊密さの演出に腐心している。党内第2派閥の麻生派(志公会)と第3派閥茂木派(平成研)の領袖である麻生,茂木両氏との良好な関係をアピールしているのだ。
一方で岸田は17日夕に安倍晋三元首相の国会事務所を訪問,2人は差しで30分余意見交換したが,それは逆に,岸田,安倍の関係が微妙であるとの憶測を招くことになった…(以下は本誌掲載)申込はこちら