12月13日付「中国の脅威に対抗『EUとの共同戦線』構築が不可欠」

12月8日、ドイツにオラフ・ショルツ政権が誕生した。 9月の独連邦議会(下院)選挙で第1党になった中道左派・社会民主党(SPD)が11月24日、環境政党・緑の党、中道右派・自由民主党(FDP)と連立政権樹立で合意したことを受けてのショルツ政権の発足である。 3党合意の政策文書によれば、SPDが一翼を担ったキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)を中核としたメルケル前政権の内政、外交路線を概ね継承するとされる。
 それでも、当然ながらメルケル前政権との違いはショルツ人事や、その政治手法から窺い知ることができる。メルケル首相下で財務相を務めたショルツ新首相は、政権ナンバー2の財務相に経済界と緊密な関係にあり、財政規律を重んじるFDPのクリスティアン・リントナー党首を、そして外相には中国を専制主義国家と批判する緑の党のアンナレーナ・ベーアボック共同党首を起用した。岸田文雄政権が注目するショルツ政権の対中国政策は、「親中」のリントナー氏と、「反中」のベーアボック両氏の閣内綱引きになりそうだ。日米連携を軸とする対中戦略を描く外務省にとって、ベーアボック外相は本音では大歓迎だ。▶︎ 

▶︎ドイツ新政権の連立合意には欧州連合(EU)統合を強く推進する姿勢が盛り込まれている。自由主義的な中道政党であるFDPはこれまでCDUの保守系議員に近いとされていただけに独政界で驚きを以って迎えられた。来年4月の仏大統領選で右派・国民連合のマリーヌ・ルペン党首のサプライズ勝利が起こらない限り、EU主要国政権はEU統合を強く志向する政党の手に委ねられる。
 加えて、この連立合意ではEUの積み木細工のように複雑な財政ルールの改革も支持していることから、オランダ、オーストリア、その他東欧・北欧の小国などが同ルールの緩和に反対しているが、ドイツが改革に踏み切れば阻止できない。そこで耳目を集めるのが今後の独仏関係だ。ショルツ、リントナー両氏はエマニュエル・マクロン仏大統領が提唱する「戦略的自律性」に賛同の意向から、EU共通の防衛・安全保障政策の推進が期待される。ジョー・バイデン米政権が内政で混迷を深めている一方で、EUの存在感を強めるべきとの考えが域内で高まっているのだ。中国の脅威に対抗するには“米国頼み”だけでなくEUとの共同戦線構築が不可欠である。