1月9日付「中国が『極超音速兵器』配備ー日本のミサイル防衛は無力に等しい」

年が明けてから新聞各紙に「極超音速兵器」という見出しが増えたことに気付かれた読者は多いのではないか。全ては、昨年10月16日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)電子版の大スクープが発端だった。中国が昨年8月に内陸部の砂漠地帯で、低周回軌道を使った核弾頭搭載可能な極超音速兵器の発射実験を実施していたと報じたのだ。だが、読者は「極超音速兵器」という用語を目にしても耳にしても、得心できないと思う。筆者とて同じだ。平たく言えば、極超音速兵器は音速の5倍超・変則軌道で飛ぶうえに速度を上げながら滑空飛行し、標的に着弾する。要するに、精密誘導ウルトラ兵器なのだ。それでも、目標から約24マイル(約39キロ)離れた地点に着弾した(FT報道)。
 ところが、年初の産経新聞(3日付)を読んで驚いた。同紙1面トップに「中国、標的近くに着弾―極超音速兵器 昨年8月実験―日米分析、誘導技術が向上」の大見出しが躍っていたのだ。産経報道によると、《標的に近接した地点に着弾していたと日米両政府が分析していることが2日、分かった。これまで標的から約40キロ離れた地点に着弾したとされていたが、中国の精密誘導技術の向上で脅威レベルが高まっていることになる》。 ▶︎

その中国は、2019年10月に北京で行った建国70周年の軍事パレードで極超音速兵器を搭載できる新型弾道ミサイル「東風17」を初めて披露したが、すでに配備・運用しているというのだ。もちろん、同国は極超音速兵器実験を「ミサイルではなく宇宙船の再利用技術を検証する日常的な試験だ」と説明する。
 さらに言えば、5日午前に短距離型弾道ミサイルを発射した北朝鮮は「人工衛星」と称して発射実験を繰り返してきた。いずれにしても、中国が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を使わず宇宙空間(大気圏内)から世界のどの国・地域でも攻撃できる軍事力を手にしたことを意味する。米国防総省が中国の技術力の驚異的進歩に衝撃を受けた。事実、米軍制服組トップのM・ミリー統合参謀本部議長(陸軍大将)が、この発射実験を1957年に旧ソ連の史上初の人工衛星打ち上げが米国にショックを与えた「スプートニク・モーメント」に近いと語ったほどだ。ミサイル防衛(MD)システムで迎撃できないとなれば、日経新聞(1月5日付)が報じた次世代技術「レールガン」(電磁力で迎撃弾を高速発射)頼みということになるが、遥か先のことだ。