2月5日付 経済安保推進法をめぐる新聞各紙の報道…「朝日」だけが抜きん出た理由

 昨年11月に発足した経済安全保障法制に関する有識者会議(座長・青木節子慶應義塾大学大学院法務研究科教授)は2月1日、政府が今通常国会に提出する経済安全保障推進法案(仮称)をめぐる提言をまとめ、小林鷹之経済安全保障相に手渡した。
同有識者会議委員は座長の青木教授以下、阿部克則学習院大学法学部教授、大橋弘東京大学公共政策大学院教授、土屋大洋慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授、松本洋一郎東京大学名誉教授、三村優美子青山学院大学名誉教授、渡井理佳子慶應義塾大学大学院法務研究科教授、渡部俊也東京大学未来ビジョン研究センタ―教授、久貝卓日本商工会議所常務理事、小柴満信経済同友会副代表幹事、原一郎日本経済団体連合会常務理事、長澤健一キヤノン専務執行役員・知的財産法務本部長、羽藤秀雄住友電気工業専務取締役、小林いずみANAホールディングス社外取締役、上山隆大総合科学技術・イノベーション会議常勤議員、角南篤笹川平和財団理事長である。
この他に注目すべき人物が2人いる。北村滋前国家安全保障局長・元内閣情報官(現北村エコノミックセキュリティ代表)と兼原信克元内閣官房副長官補・国家安全保障局次長(現同志社大学特別客員教授)である。改めて指摘するまでもなく、北村、兼原両氏は安倍晋三元首相の下で要職を占めた。警察庁OBの北村氏(1980年同庁入庁)は、第1次安倍内閣の首相事務秘書官も務めた安倍首相時代の腹心である。一方、外務省OBの兼原氏(81年外務省入省)は、2015年8月15日に安倍首相が発表した「戦後70年談話」のスピーチライターとして知られるが、外交・安保政策の助言者でもあった。両氏は共に「安倍人脈」なのだ。
最近、永田町や霞が関で岸田文雄首相の“安倍離れ”が取り沙汰されるだけでなく、各メディアでもその真相に迫る記事を多く散見する。かくいう筆者もその一翼を担っているわけだ。▶︎ 

▶︎首相側近の一人は筆者に「岸田・安倍不仲説」を一蹴してみせた。一方、安倍氏に近い政治記者はこの兼原氏の有識者会議委員人事を以って「岸田氏の安倍氏への配慮」と解説する。それこそ真相は藪の中である。それはともかく本題に入る。先の有識者会議提言手渡しの翌日の2日午前、東京・永田町の自民党本部9階901号室で経済安全保障対策本部の会合が開かれた。議題は「政府有識者会議の議論に関する報告」だった。当日、経済安全保障対策本部長の高市早苗政調会長と同座長の甘利明前幹事長の挨拶で始まった会合で出席者に配布されたのが、「経済安全保障法制に関する提言 2022年2月1日」(A4版54頁)である。
そして同提言を基に新聞各紙(2日付朝刊)が有識者会議提言を報じたのだ。その中でも朝日新聞は1面トップに「経済安保 事業者に罰則案―有識者提言、月内にも法案提出」、さらに2面では「経済安保 難しいかじ取り―官邸内『ざる法では意味ない』―公明『罰則重い』の声も」の見出しを掲げて大きく、且つ詳細に報道している。
《……だが、とにかく対中牽制で米国と一体化すればよいというものではない。<中略>今後、政府が提出する経済安保推進法案に、こうした視点があるか、また、罰則など政府による民間への規制強化や介入で、民主主義を構成する「自由な経済活動」を阻害する恐れがないか、注視していきたい。》(佐藤武嗣編集委員の署名記事)に象徴されるように、同紙の論調は疑問を呈するものだ。提言のポイントは4つある。①サプライチェーン強靭化、②基幹インフラの事前審査、③官民の先端技術協力、④特許出願の非公開化である。各々の概要に目を通しても「罰則」についての言及はない。つまり、朝日記事は1面のリードに「ただ、法案には事業者への罰則規定も検討されており」とあることから、独自取材でその可能性が高いと判断したに違いない。他紙は一切触れていない。「さすがに朝日だ」ということなのか。