ここに来て永田町の住人たちは菅義偉前首相の最近の言動に注目している――。実際、新聞各紙でも同氏の動静を伝える記事が増えてきた。産経新聞(2月13日付朝刊)は、菅氏が12日に石川県加賀市を訪れて石川県知事選(2月24日告示・3月13日投開票)に出馬する自民党安倍派の馳浩前衆院議員(衆院当選7回・元文部科学相)への支持を呼び掛けたと報じた。多くの永田町ウォッチャーは、なぜ菅氏が馳浩氏の応援をと訝しく感じたに違いない。
さらに同紙は15日付朝刊で、佐藤勉前総務会長(同9回)が、所属する麻生派から離脱し、衆院初当選同期で近い関係にある菅氏とともに行動するとの観測も出ていると報じた。その見出し「麻生派離脱を佐藤勉氏検討―菅前首相と行動も」はインパクトがあった。 そもそもは、自民党関係者が固唾を飲んで見守る2つの知事選と関係する。先の石川県知事選と長崎県知事選(2月3日告示・同20日投開票)はともに自民党(保守)分裂選挙となっている。長崎県知事選は現職の中村法道氏と新人の大石賢吾氏の争いだが、中村氏支持が北村誠吾元地方創生相(岸田派・衆院当選8回)であり、大石氏支持は金子原二郎農林水産相(岸田派=参院当選2回・衆院5回)である。同じ派閥の元・現閣僚が異なる候補を支援しているのだ。
長崎県連幹事長(県議)が大石氏支持は県連の機関決定だと言えば、県連会長(古賀友一郎参院議員・参院当選2回=岸田派)は無効だと主張する。県連だけでなく総裁派閥が分裂している。県内の主要経済人はテレビ通販で有名なジャパネットたかたの創業者・高田明氏らが中村氏支持。複雑なのは日本維新の会が大石氏を推薦していることである。▶︎
▶︎保守分裂がより深刻なのが石川県知事選だ。7期28年も長期に及んだ谷本正憲知事の引退によるものだが、真っ先に名乗りを上げたのは馳浩氏、次いで山田修路前参院議員(安倍派・参院2回)、そして山野之義前金沢市長。「保守王国の3分裂」となった背景には石川県政界に君臨してきた森喜朗元首相と、“アンチ森”を貫いた谷本知事系列県議との確執や、今や昔である90年代初頭の森氏と故・奥田敬和元運輸相(当時の竹下派)の骨肉の争い「奥森戦争」の残滓もあるという。複雑怪奇なのは、農水省ナンバー2の農水審議官を務めた山田氏を県内の水産業界が推すだけでなく、野党の立憲民主党と社民党が推薦し、前知事系保守県議も支援していることだ。因みに維新は馳氏を推薦である。加えて、地元メディアの情勢調査では山野氏がお膝元の金沢市で大きくリードしていることもあり、三つ巴状態である。 こうして見ると、菅前首相が森、安倍両元首相が支援する馳氏支持表明のために出向いた理由が分かる。
そう、菅氏と日本維新の会との密接な関係に起因するのだ。「菅前首相、存在感じわり―公明・維新とパイプ、派閥結成の臆測も」の見出しを掲げた読売新聞(16日付朝刊)は、本記のリードで次のように書いている。《自民党の菅前首相が、党内でじわりと存在感を高めている。新型コロナウイルスワクチンの接種を進めたことなど、首相在任中の成果が再評価されているためだ。公明党や日本維新の会とのパイプも健在で、党内では自らに近い議員らと「菅派」を結成し、政局に備えるとの見方もくすぶっている》。「くすぶっている」どころか、確かにそうなのだ。最近、筆者が会った菅氏のインナーグループの一人が語った言葉「公明と維新との緊密な関係は菅さんの強力な政治アセット(財産)である」が頭から離れない。夏の参院選を控えた今、「自公連携」に隙間風が吹き始めたとされるだけに看過できない指摘である。まさしく、今後の菅義偉氏の言動から目が離せない―ということであろう。