一触即発だったウクライナ情勢の「Xデー」は予想した3日遅れの2月24日に戦端が開かれた。 他方、きな臭さが日を追うごとに増す永田町でも菅義偉前首相の動向に耳目が集まっている。「菅派」結成へ虚々実々の駆け引きが、自民党内勢力図に異変を招来させる可能性が出てきたのである。「戦う気力がなくなった」と退陣した菅氏だが、昨年末からメディア露出を増やし、存在感をアピールし始めたのだ。
そして「政策実現のための議員集団は必要だ」と言い、首相在任中に推進したデジタル化や不妊治療の保険適用、地球温暖化危機への脱炭素社会=カーボンニュートラルの実現、さらには縦割り行政打破など「まだまだやるべき仕事はある」とも言う。22日の衆院本会議で2022年度政府予算案が賛成多数で可決され、参院に送付された。年度内の予算成立が確定した。衆院予算委員会での与野党審議入り前に菅氏は周辺に対し、「動くのは、3月下旬に予算が成立してから」と漏らしていた。事はほぼその予言通りに推移している。引き金(トリガー)を引いたのは麻生派会長代理を務めた佐藤勉前総務会長だった。8日に菅氏と会い、麻生太郎副総裁と袂を分かつことを報告した。▶︎
▶︎15日には菅政権を支えた森山裕前国対委員長と林幹雄前幹事長代理と会食、改めて麻生派(53人)離脱の意向を伝えた。
看過できないのは、佐藤氏に従い同派から御法川信英国対委員長代理、阿部俊子元外務副大臣ら退会議員が増えそうなことである。これは岸田氏を支える党内力学が変化することを意味する。茂木敏充幹事長が領袖の茂木派(53人)と並んで第2派閥だったが、第3派閥に転落するからだ。周知の通り、麻生氏だけでなく岸田派(45人)会長の岸田氏も「大宏池会」(麻生派・岸田派・谷垣グループ=26人の大同団結する構想)実現の野心を秘めている。仮に菅氏を支えてきた無派閥衆院議員のグループ「ガネーシャの会」(15人)や二階派の一部(37人)、森山派(7人)、石破グループ(10人)などが合流し50人程度になれば、岸田派を上回る。
さらに二階派(42人)を継承する形で発足すると最大70人規模となる。最大派閥の安倍派(95人)と手を握れば、「大宏池会」をも抜くことになる。安倍晋三元首相はこの間、菅氏に派閥結成を促す発言を繰り返している。永田町は「一寸先は闇」だ。「岸田・麻生・茂木vs安倍・菅」の対立構図もあり得るのである。