No.650 3月25日号 「ウクライナ戦争」と「岸田外交」 「プーチンの戦争」の根幹と盲点 

少々センチメンタルなイントロとなるが,ご寛容頂きたい。抜けるような青空の下,地平線まで続くひまわり畑。バックグラウンドにヘンリー・マンシーニの哀愁に満ちた曲が流れる。ソフィア・ローレン,マルチェロ・マストロヤンニが共演,ヴィットリオ・デ・シーカ監督の映画「ひまわり」の冒頭とラストシーンである。この場面はウクライナの首都キエフから南へ500㌔のヘルソン州で撮影されたという(朝のテレビワイドショーでこの事を知った)。ウクライナの国旗は上が青,下が黄の2色のみ。一般的には青い空と実り豊かな小麦を表すとされるが,筆者にはひまわりの色と思えて仕方ない。
ロシア国防省は2014年に併合したクリミア半島に隣接するヘルソン州全域を制圧したと発表した。ひまわり畑は地上軍の装甲車で踏みつぶされたのだろうか。「プーチンの戦争」が始まって1カ月になる。戦況は膠着状態だ。数日間の先制攻撃で陥落するとみられていたキエフが持ちこたえている。なぜ「プーチンの戦争」は軍事作戦上,想定通りに進まずウクライナの果敢な反撃に苦しんでいるのか。理由は幾つか指摘できる。1831年に創立された世界最古のシンクタンクの英王立防衛安全保障研究所(RUSI)の最新分析によると,ロシアの致命的且つ戦略的な過ちとしてウクライナ領空の制空権を今なお確保できていないことだ。
それは侵攻の初期段階でロシア航空宇宙軍(VKS)の戦闘機・爆撃機編隊が制空権を確保できず,戦闘能力の低い地上軍を支援できなかったことだという。その理由として,VKSには大規模で複雑な航空作戦を計画・準備・実行する能力が欠けていると指摘する。具体的には①指揮官の経験不足,②パイロットの練度不足の2点を挙げた上で次のように分析する。▶︎

▶︎前者が《作戦指揮官は,脅威を孕む空域で数十から数百の部隊が参加する複雑な航空作戦を計画・調整する手法について,実践的な経験を殆ど持っていない》からであり,後者は《北大西洋条約機構(NATO)軍の飛行時間と比べると,著しく低いレベルに留まる。ロシアのパイロットの殆どが,複雑でダイナミックな任務を遂行する大規模な混合編隊の一員として効果的に活動するための熟練度を欠いている》からであるという。
一方,米ワシントンの名高いシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)はこれまでに勃発した「戦争・紛争収束の道筋」に理由を求める。直近の同研究所分析では,《ウクライナで激化する戦闘行為を止め,危機からの脱出路を見つけるためのチャンスは最初の30日間を過ぎると小さくなっていく》とした上で,1946年以降の戦争・紛争終結に関するデータを基に危機管理外交のチャンス到来時期を探っている。CSISによると,国家間の武力紛争については26%が1カ月以内に終結し,うち44%が最終的な停戦または和平合意に至っている。次に,25%が1カ月から1年以内に終結し,うち24%が最終的な停戦に至る。
だが,戦闘が長引けば長引くほど紛争がエスカレートすると指摘する。その中でもロシアの場合,歴史的にみて2日~3カ月で終わる懲罰的な作戦が多く,事例として①1939年の旧ソ連とフィンランドとの冬戦争(3カ月),②56年のソ連によるハンガリーへの軍事介入(7日間),③68年の「プラハの春」(2日間),④2008年のロシア・グルジア戦争(13日間),⑤14年のクリミア半島併合(1カ月余),などである。共通するのは,相手から譲歩を引き出すために,侵攻したロシア(ソ連)軍が残虐な戦闘を厭わないことである――と指摘している。
そう遠くない時期に停戦が実現するとしても,現在の戦況からして長期化は不可避である。懸念されるキエフ制圧に向けてロシア軍の総攻撃が始まれば,苛烈な首都攻防戦となり,青と黄2色の国旗がウクライナ人の鮮血で染まる殺戮光景を目の当たりにすることになる…(以下は本誌掲載)申込はこちら