3月26日号「自民で露呈した『核共有』めぐる対立ーウクライナ侵攻を受けた安倍元首相が火をつけた『核共有』論。岸田首相との路線対立もあらわに」

 ロシアのウクライナ軍事侵攻によって国際秩序の根幹が揺らぐ今、自由民主党内で主要政策について路線対立があらわになっている。それは「核共有(ニュークリア・シェアリング)」論を巡るものだ。発端は、ウクライナ東部2州での「特別軍事作戦」の実施を宣言した2月24日のウラジーミル・プーチン大統領緊急演説にあった。
そこで、「現代のロシアは世界で最大の核保有国である。この点で、わが国への直接攻撃は、どんな潜在的な侵略者に対しても、壊滅と悲惨な結果をもたらすであろうことに、疑いの余地はない」と警告した。ウクライナ制圧に難渋する28日、ロシア国防省は露軍の核戦力部隊が大統領命令で「戦闘態勢」に入ったと発表し、「戦術核使用」の可能性を事実上、示唆したのである。このような状況下で、「核共有」の是非が国会で取り上げられた。論議の引き金を引いたのは安倍晋三元首相である。安倍氏は27日午前のフジテレビの報道番組で、「日本は核拡散防止条約(NPT)の加盟国で非核三原則(核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず)があるが、世界ではどのように安全が守られているかという現実について議論していくことをタブー視してはならない」と発言した。 
一方、岸田文雄首相は同28日の参議院予算委員会で立憲民主党の田島麻衣子氏の質問に「自国の防衛のために、米国の抑止力を共有するといった枠組みを想定しているものであるならば、非核三原則を堅持するというわが国の立場から考えて認められない」と答弁した。これを機に自民党内と与野党間で「容認論」と「慎重論」の攻防が始まった。3月1日「安倍元首相の発言は聞いていないので評価は控えたい。非核三原則の姿勢は貫いていくことが大事だ」(山口那津男公明党代表)、「わが国は唯一の(戦争)被爆国だ。このことを踏まえたうえで議論は回避すべきではない」(福田達夫自民党総務会長)、「国防上の問題は常に議論し、ベストな選択ができるよう構えておくのが当然のことではないか」(世耕弘成参院自民党幹事長)、「核はお互い持つべきでない兵器だ。とくに日本は(戦争)被爆国なので、われわれが持つ、持ち込ませるという態度ではいけない」(泉健太立憲民主党代表)、「(持ち込ませずは)何を意味し、どこまで型どおり順守するのか、議論すべきだ」(玉木雄一郎国民民主党代表)。2日「核兵器による威嚇も、ましてや使用も、万が一にも許されるものではない」(岸田首相)、「おかしい。超党派で議論し、国民に判断してもらえばいい」(松井一郎日本維新の会代表)、「危機的状況になった時に核を搭載した米艦船の寄港もさせないのか。おかしい」(高市早苗自民党政務調査会長)、「日本は非核三原則を決めているが議論はしてもおかしくない。時代によって情勢をみながらいろんな議論をしていくことは必要だ」(菅義偉前首相)――。 ▶︎

▶︎岸田氏は7日の参院予算委員会でも改めて「少なくとも『持ち込ませず』とは相容れない。政府として核共有は考えない。この結論は変わらない」と答弁した。非核三原則について国是として堅持する意思を強調したのである。だが、首相発言へのフォローは「政策上の方針として非核三原則を堅持していくとの考えは変わらない」(林芳正外相)以外にほとんどなかった。池田勇人元首相が宏池会を創設した1957年9月以降、その基本指針「軽武装・経済重視」の遺伝子(DNA)を継承してきたはずだが、岸田政権および派内から同調する声が聞こえてこない。「容認派」の先頭に立つ高市氏らの声の大きさに負けている。党内の現状から岸田氏が少数派である感は否めない。それ故なのか、岸田氏は9日夕、マレーシアとの外交関係樹立65周年式典に首相特使として翌10日に首都クアラルンプールを訪れた安倍氏と会っている。ウクライナ情勢だけでなく、「核共有」問題についても話し合ったはずだ。 
さて、旧ソ連領だったウクライナは1991年8月に独立し、ソビエト社会主義共和国連邦は崩壊した。あろうことかそのウクライナが北大西洋条約機構(NATO)加盟の意向を明らかにしたのである。「大ロシア」再興を自らの使命とするプーチン氏は安全保障上の理由を挙げて、手段を選ばず元の版図に組み入れようとしているのだ。ウクライナ侵攻は「プーチンの戦争」といわれるゆえんである。表向きは否定したが、バイデン米政権がひそかに検討しているポーランドを介したウクライナへの戦闘機供与は、ロシアにとって越えてはならない「レッドライン」となる。すなわち、ポーランド空軍のMiG-29戦闘機を在独米空軍基地経由でウクライナに供与、その見返りに米海軍のF-16 戦闘機を供与するものだ。この「三角トレード」はプーチン氏に、米国がNATOに加盟するポーランドを緩衝国として米国がロシアと直接対決するものとプーチン氏には映る。同氏には絶対受け入れ難いことだ。
ここで危惧されるのが、先述したロシア国防省の「戦術核使用示唆」発表である。ロシア情勢に通じる軍事専門家は、ウクライナの制空権奪取に不可欠な最新鋭戦闘機MiG-29供与阻止のため、プーチン氏が“最後の手段”に踏み切る可能性があるという。軍事オプションとして、英国領海外の北海油田を標的にロシア空軍爆撃機が核弾頭ミサイル一発を発射することが想定されるというのだ。ウクライナ支援国に対し「核戦争前夜」を想起させる脅迫である。最後に、勝海舟、山岡鉄舟に並んで「幕末の三舟」といわれた高橋泥舟の狂歌「欲深き人の心と降る雪は 積もるにつけて道を忘るる」が、今のプーチン氏であると指摘したい。

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