筆者が編集・発行するニュースレター『インサイドライン』(3月25日号)は少なからぬ反応があった。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がこれまでに欧州連合(EU)を含む10カ国の議会向けに行った演説の「ゼレンスキー演説、 スピーチライターは明らかに米国人(機関)である」と書いたのだ。
なぜ、米国人スピーチライターなのか。日本向け演説を例に説明する。①「核物質の処理場を戦場に変えた。4カ所の原発と15の原子炉が危険な状況にある」、②「(ロシアによる軍事侵略で)国際機関が機能してくれなかった。新しい予防的ツールを作らなければならない。日本のリーダーシップが役割を果たせる」、③「侵略の津波を止めるためにはロシアとの貿易禁止を導入しなければならない」――。
先ず、①である。2011年3月11日の東日本大震災による福島第一原発事故を想起させることで、ロシアの原発攻撃の非人道性をアピールする。②は、国連安保理事会常任理事国5カ国は決議の反対・棄権行使で“無力”であることから岸田文雄首相が主張する国連改革を念頭に置いた発言。③では、日本は米欧主要国との連帯を強化、対露制裁戦線から離脱してはならないと釘を刺したのだ。日本の国内事情をきちんと把握した上での「注文」であった。そして英・加・米・独・伊・仏・豪・イスラエル各国のポイントを的確に衝いていた。▶︎
▶︎要するに、各国事情に通じた演説にはゼレンスキー氏がウクライナの直面する国家危機を全世界にアピールすると同時に、自らが国際秩序の守護神であるイメージを重ねる狙いがあったのだ。
まさに国際法の裏表を熟知した米国流PR会社の手法である。弁護士資格を持つロビイストの発想に近いと言ってもいい。筆者へのアプローチも「そのスピーチライターって、誰ですか?」と単刀直入だった。その一人ひとりには答えなかったが、本稿で明かす。ほぼ間違いなく、以下に記す人物(事務所)であり、ウクライナ政府と契約を交わしているプロフェッショナルなのだ。ⓐ首都ワシントンの弁護士・ロビイストのアンドリュー・マック氏、ⓑ同じワシントンのヨークタウン・ソリューションズ社のダニエル・ヴァディッチ氏、ⓒニューヨークのKARVコミュニケーションズ社のアンドリュー・フランク氏。3氏ともにロシア、ウクライナに深く関与してきた凄腕コンサルタントである。嫌な言い方だが、ビジネスとしての演説請負人なのだ。