最近,対ロシア経済・金融制裁の効果に限界があるとの指摘が目に付くようになった。双日総合研究所チーフエコノミストの吉崎達彦が主宰する「溜池通信」(4月8日付)や『日本経済新聞』の名物コラム「大機小機」(9日付朝刊)では,欧米主導でロシア中央銀行を標的とする制裁が実施されたにもかかわらずルーブルが反転上昇し,ロシアは通貨危機を免れる可能性が高いというのだ。
吉崎はロシア向けエネルギー制裁の難しさに言及する中で,BRICS(ブラジル,ロシア,インド,中国,南アフリカ)5カ国の結束が意外と固いと指摘している。奇しくも『日経』(9日付朝刊)に寄稿したカナダ・アジア太平洋財団のルパ・スブラマニャ特別研究員(インド系カナダ人)が「バイデン氏(米大統領)とモディ氏(印首相)が思い描く国際秩序が根本的に異なることは間違いない」と断じた前段で,インドが「米ドルではなくルーブル建てにより,大幅な割引価格で原油を購入する交渉をロシアとしている」「戦時下においては,基幹部門の戦略的自立は必要かもしれない」と指摘している。
いずれにしても「プーチンの戦争」は長期・泥沼化が必至だ。そうした中で『文藝春秋』(5月号)に掲載された古川英治(在ウクライナジャーナリスト)の「プーチンが心酔するロシアの怪僧―無謀な戦争を仕掛けた裏にはロシア正教会の“闇”があった」は出色だった。▶︎
▶︎ウクライナ人妻,子供と共に現在も首都キーウ(キエフ)に住む『日経新聞』元国際部次長兼編集委員の古川はモスクワ特派員を2回務め,その間に英オックスフォード大学大学院ロシア・東欧研究科を修了したロシア・東欧問題のプロである。
古川は2020年12月に刊行した『破壊戦―新冷戦時代の秘密工作』(角川新書)でロシアを「マフィア国家」と看破し,「ダークパワー」とも呼べる秘密工作で自由・民主社会を壊そうとしている,と指摘していた。今回の寄稿では,18年12月にウクライナ正教会がロシア正教会傘下から独立したことが,ウラジーミル・プーチン大統領にとって,ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟に等しい衝撃だったとする。そしてウクライナにあるロシア正教会傘下の正教会の離反がゼレンスキー政権下で加速していけば,ロシアは東方正教会の最大勢力という地位からも滑り落ちかねないと。
そしてプーチンは,ロシア正教会トップである総主教キリル一世とタッグを組み,ウクライナ侵攻に踏み切ったと言う。古川は最後に《プーチンの侵略の背景には、政治的にも宗教的にもウクライナを力ずくで支配するしかなくなった追い詰められた姿も浮かび上がってくる。ウクライナ奪取に取りつかれたプーチンの「聖戦」の行方は見通せない》と記し,秀逸の寄稿文を終えている…(以下は本誌掲載)申込はこちら