4月23日付 1ドル=129円の衝撃…「円=安全通貨」神話の崩壊が招く重大事態

4月20日、東京外国為替市場で終に対ドル円レートは1㌦=129円台となった。2002年5月以来、約20年ぶりの円安・ドル高の水準である。メディア各社はこぞって「円の実力低下」を報じた。
 この間、外国為替市場関係者の間では「リスクオフは円買い」が常識であった。ところが、2月24日のロシアによるウクライナ軍事侵攻以降、取り分け3月に入ってから対ドルで円買いが鳴りを潜め、中国人民元や資源国通貨に資金を移す動きが顕著となった。もちろん、その背景にはエネルギー価格の高騰があった。平たく言えば、かつては紛争など地政学リスクが高まると円は対ドルで上昇し、運用リスクを回避する世界の投資マネーが円に集中したということだ。それが「リスクオフの円買い」ということである。だが、その通説はあっけなく終焉を迎え、今や円は「安全通貨」と見なされない。4月に入ると、主要通貨の中で円の下落率は5.7%まで落ち込み、ロシア中央銀行が米欧主導の金融・経済対象となったことで急落したルーブルの11.7%に次ぐ下落となった。そのルーブルは現在、ウクライナ危機前の水準に戻している。こうした中で今、日本が直面する厳しい経済状況をチェックする。もちろん、急速な円安を許容できない岸田文雄政権はそれまでに反応していた。鈴木俊一財務相は15日、閣議後の記者会見で価格転換や賃上げが不十分な状況での円安進行について「悪い円安と言えるのではないか」と発言したのだ。通貨当局の責任者が為替水準の善し悪しに言及するのは異例なことである。
 一方、金融政策の責任者である黒田東彦日本銀行総裁は、為替に関する管轄は日銀ではなく財務省にあるとして「悪い円安」を認めることはなかった。だが、背に腹はかえられないのであろうか、黒田総裁は18日の衆院決算行政監視委員会で「大きな円安や急速な円安はマイナスが大きくなる」と発言し、これまでの「円安は日本経済にプラス」との見解を事実上修正したのだ。そして財務省は20日、2021年度の貿易統計速報を発表した。貿易収支は5兆3749億円の赤字となったことが明らかになったのだ。▶︎

▶︎要するに、過度の円安と輸入コスト(原油価格の急騰などエネルギー高)増大のダブルパンチとなって「経常赤字・円安同時進行」の泥沼化が起こりつつあるということである。それだけではない。
 日米の実質金利差の拡大である。米国の中央銀行である米連邦準備理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は既に金融引き締めを迅速に行うために政策金利を0.25%引き上げて0.5%にする意向を明らかにしている。FRBは金融政策を量的緩和から量的引き締めへ急旋回しつつある。言うまでもなく、実質金利の急上昇はドル高を招来する。換言すると、さらなる円安を誘発する「負の円安スパイラル」ということだ。日本経済新聞(21日付朝刊)で金融政策・市場エディターの大塚節雄氏は、次のように指摘している。「……だが、ウクライナ危機で輸入インフレは日銀の想定を超えて進む。円安は実質マイナス金利が持つ効果の一つだが、現状では輸入インフレに拍車をかけ、経済を痛めつけかねない。
 かといって経済のもろさが目立つ現状では、円安への批判が強まっても軽々に金融政策の正常化に動くわけにもいかない」。まさに黒田=日銀は飽くまでも緩和政策を続ける方針である。ここで問題視すべきは、財務省と日銀は思考回路が異なるということである。物価安定という明確な組織命題を持つ日銀に対し、財務省は時の政権とそれを選択した有権者全体の利害を念頭に置く必要があるのだ。より政治的な判断をするということである。7月10日の参院選を控えて政府・与党は円安対策よりも財政出動により熱心となっているのが現状だ。それは22年度補正予算案編成の必要を声高に主張する公明党や財政積極派の国会議員をみるまでもなく分かる。そして岸田首相は21日午後、2.5兆円規模の補正予算案編成に応じたのである。
 最後に、果たして財務省は日銀がこれ以上の円安を阻止するために政策を調整すべきだと黒田総裁を説得する意思を持っているのだろうか。容易ではない。与党政治家はよく「緊急経済対策の実行には政府と日銀一体の総力戦でやるべきです」と口にする。岸田首相は総力戦の先頭に立つつもりがあるのかどうか。今なお「新しい資本主義」の中身を提示できていない現状からすると、甚だ疑問である。