5月7日付 ウクライナ戦争は他人事ではない…日本国民が「改憲必要派」に転じている背景

 憲法記念日の5月3日、新聞各紙(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞、日本経済新聞の朝刊)を読み比べた――。
想像通りの紙面づくりと言えば詮無いが、それでも各紙の立ち位置が際立ったものだった.。「朝・毎・読」3紙は憲法改正問題に関する世論調査を実施、その結果を掲載している。先ずはこの世論調査から始めたい。3紙調査の「質問」と「回答」を比較したが、本稿では憲法改正そのものの賛否と、戦力不保持などを定めた憲法9条2項改正の肯否についてのみ紹介する。朝日新聞:質問「現行憲法を改正する必要があるか」、回答「変える必要がある」前回比11ポイント増の56%、「変える必要はない」前回比7P減の37%。質問「憲法9条については?」、回答「変えないほうがよい」前回比2P減の59%、「変えるほうがよい」前回比3P増の33%。毎日新聞:質問「岸田文雄首相在任中に憲法改正を行うことに賛成ですか」、回答「賛成」44%、「反対」31%。質問「憲法9条を改正して自衛隊の存在を明記することに賛成ですか」、回答「賛成」58%、「反対」26%。読売新聞:質問「いまの憲法を、改正する方がよいと思いますか、改正しない方がよいと思いますか」、回答「改正する方がよい」60%、「改正しない方がよい」38%。質問「戦力を持たないことを定めた憲法9条2項を改正する必要があると思うか」、回答「ある」50%、「ない」47%。質問文が各紙異なる上に調査方法にも違いがあり、上述の調査結果から断定するには躊躇があるが、この2、3年で改憲必要派が不要派を上回る傾向が国民に定着したと言っていい。これは、ロシアによるウクライナ軍事侵攻2カ月を経て、国民が連日連夜のテレビ映像を通じて戦争の残虐さを改めて認識し、ウクライナ戦争は他人事ではないと自覚したことと決して無縁ではない。
何時の日か「台湾有事」が「日本有事」に転じる危険を視覚的に且つ本能的に察知したのである。次に、『産経』と『日経』を含め各紙の紙面そのものを検証する(各紙社説は含まない)。断トツに多く紙幅を割いたのは『朝日』である。1、3、5、6、7、15面の6頁を割いた上に「改憲反対」の全面意見広告2頁の大特集だ。記事を一瞥すれば分かるが、「朝日らしい」のが5面である。「世界史の中の憲法9条」と題した解説と、「9条の『平和主義』国際社会のパスポート」の見出しを付けた江藤祥平一橋大学准教授インタビューが掲載されている。▶︎

▶︎さらに15面のオピニオン欄には、「憲法9条の統制力、戦後の自由を形成、平和主義を支えに」と題した石川健治東京大学教授インタビューもある。9条オンパレードの感が強い。『読売』もまた「読売らしさ」の記事構成である。頁数は1、3、8、9面の4頁である。世論調査の質問そのものが具体的且つ幅広い。そして際立つのは現実政治と密接に関係する紙面にしていることだ。3面の総合欄では社説と世論調査の解説とは別に、「施行75年、改憲日程 参院選カギ―与党勝利なら本格議論へ」と大見出しを掲げた記事で、《参院選で自公両党が過半数を制し、憲法改正に意欲を示す岸田首相が安定政権を確立すれば初の改憲が射程に入ってくる可能性がある》と書いている。加えて8面の特別欄には世論調査分析が詳述されており、ウクライナ情勢や中国・北朝鮮の軍事的脅威を挙げて9条2項の改正賛成派が増えた理由に言及した岩間陽子政策研究大学院大学教授インタビューも掲載されている。同欄9面では憲法論戦の最前線に立つ衆院憲法審査会の6党メンバーのインタビューを大きく紹介している。
さて、分量的に少なかった『産経』である。1面左肩に「憲法施行75年、自衛隊『違憲論争に終止符』―首相、改憲を参院選公約」との見出しで岸田首相の単独インタビューを紹介、4面の特集欄で政治部長による一問一答を大きく詳報した。他には5面に憲法記念日に合わせた各党の談話を紹介しただけである。筆者が刮目したのは、『産経』と同じ3頁の『日経』だ。2面の総合1で「憲法施行75年、緊急事態条項参院選争点に―コロナ・ウクライナで関心」の見出しを取った記事と、10面に4人の識者インタビュー、11面の「憲法が厳しい安全保障環境にどこまで対応できるかという論点を浮き彫りにした」として「緊急事態や平時のサイバー攻撃」についての詳細な解説がある。インタビューでは手塚悟慶大教授が積極的な防衛体制(アクティブ・ディフェンス)との関連で「憲法上のサイバー攻撃の定義を新たに考えるべきだ」と述べ、解説は憲法21条「通信の秘密は、これを侵してはならない」がサイバー空間への対処を遅らせていると断じている。他紙ではこの「サイバー攻撃」と「緊急事態条項」についての言及がほぼ皆無だっただけに『日経』の独自性が印象に残った。新聞も量ではなく質なのだ。