岸田文雄首相は5月23日午前、東京・赤坂の迎賓館でジョー・バイデン米大統領と対面で会談する。翌日はクアッド(日米豪印4カ国)首脳会合が官邸で開催される。
さらに6月10~12日、シンガポールで英国際戦略研究所(IISS)主催の第19回アジア安全保障会議に参加する。そして同26~28日にドイツ南部エルマウで開かれる主要7カ国(G7)首脳会合が控えている。参院選(6月22日公示・7月10日投開票)を前にして岸田首相は、キャッチフレーズの「外交の岸田」の真骨頂披瀝に全力投球の構えである。膠着化するウクライナ戦争の先行きが不透明なだけに、2国間の首脳会議や権威ある国際会議を通じて存在感をアピールしたいに違いない。
正直言って、これまでの岸田外交を検証すれば分かることだが、及第点をあげて良いだろう。具体例を挙げる。岸田・バイデン会談ではロシアのウクライナ侵略が引き起こした様々な問題について協議される。主要テーマのひとつが、対中を念頭にした日米の経済安全保障分野での連携問題である。その中でも先に成立した経済安全保障推進法に盛り込まれている「技術の育成」(宇宙・量子・AI・半導体・先端素材・原子力・バイオ・海洋等)がキー・イシューである。半導体と量子コンピューターにおける日米連携が課題なのだ。▶︎
▶︎岸田氏は13日午後、官邸で行われた「次世代半導体に関する有識者との意見交換会」に出席した。新聞各紙の「首相動静」にその有識者の名前は記述されていない。政府側の岸田首相、萩生田光一経産相を除くと、ダリオ・ギルIBMシニア・バイス・プレジデント、五神真・理化学研究所理事長(前東大総長)、小柴満信経済同友会副代表幹事(JSR会長)、東哲郎元日本半導体製造装置協会会長(元東京エレクトロン会長)、西川徹プリファードネットワークス社長兼CEOである。注目すべきは、米ニューヨークから来日したギル氏だ。IBMの最新半導体研究所の実務責任者であり、大型連休中に訪米した萩生田氏が最先端分野での日米協力を取り付けた相手である。
さらに言えば、IBMの商用量子コンピューターを導入した東大は昨年7月、その稼働を発表した。同社との協業に尽力したのが五神氏である。産学連携の加速が「技術の育成」の肝なのだ。見栄えに派手さはないが、これこそが日米首脳会談の「成果」となる。