No.654 5月25日号 「岸田外交」全面展開に死角はないか」

5月23日に念願のジョー・バイデン米大統領との対面且つ長時間の日米首脳会談を終えた岸田文雄首相は今,充足感に浸っているに違いない。ロシアへの断固たる姿勢,新型コロナ感染者減少,野党の非力でベタ凪の政界,岸田外交の成果,参院選の勝利以後の「黄金の3年」が保証され,岸田内閣の支持率は高止まっている(21~22日実施の共同通信調査:前月比2.8ポイント増の61.5%,朝日新聞調査:同4P増の59%)。
ところで花鳥風月を写実で詠む短歌は本来政治の世界とは無縁のものだが,何事も例外がある。遥か昔の平安時代,藤原摂関政治の全盛期を築いた藤原道長が詠んだとされる有名な短歌が思い浮かぶ。「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月のかけたることも なしと思へば」である。この世は自分のためにあるようなものだ,満月のように何も足りないものはない,とあっけからんと絶頂の心境を謳っている。まさに岸田の胸中は案外これに近いかもしれない。先ずは,バイデンが来日前の20~22日に訪れた韓国の対応を検証する。
報道にあるように,韓国の尹錫悦大統領は米韓首脳会談で文在寅前政権の「南北融和」「中国傾斜」から「米国重視」に大きくカジを切った。分かり易い事例を挙げる。それは尹が主催した21日の公式晩餐会のメニューから見て取れる。前菜はともかく,メインは旬の野菜(ナムル)を唐辛子味噌ソースに混ぜた山菜ビビンバ(襄陽のチャムソンイ茸,錦山の高麗人参,横城のツルニンジン,利川米など),米国産牛肉を醤油で熟成させたカルビ味付け焼き,韓国産松茸のお粥などであった。注目すべきは飲み物である。▶︎

▶︎乾杯酒こそ赤い果実「五味子」を原料とした韓国産スパークリングワイン「オミロゼ」だったが,特筆すべきは赤ワインが米カリフォルニア州ナパ・ヴァレーのダナ・エステーツの「VASO」(同ワイナリー保有者は故・全斗煥元大統領一族だった)であり,白ワインも同じナパ・ヴァレー産の「シャトー・モンテレーナ・シャルドネ」(有名な1976年の「パリの審判」で名だたるフランス・ワインを破って優勝したス―パー・カルトワイン)を選定したことだ。「VASO」がサード・ラベルとの指摘もあるが,設営した韓国側の“米国配慮”が窺える。
では,岸田接待はどうだったのか。23日午前からのワーキングランチを含め2時間20分余に及んだ日米首脳会談(東京・元赤坂の迎賓館)と同日夕の首相主催の1時間30分の非公式夕食会(東京・白金台の八芳園)だ。日本側は早くからの探りでバイデンが酒類を嗜まない,食事で大好物はサーモンとチキン,そして取り分けチョコアイスクリームに目がないことを把握していた。ランチメニューには岸田の地元・広島産の神石牛フィレ肉のグリル,広島産各野菜に加えてデザートをいちごのミルフィーユとバニラアイスクリームにさくらんぼソース添えで決めたのだ。
一方の夕食会では,広島産レモンソーダの乾杯に始まり,盛り沢山の前菜に信州サーモンのムニエルと徳島野菜,東京シャモの鉄板焼き,自然栽培野菜とフルーツトマトのフォンデュ,そしてデザートが宮城県名取市(副大統領時代,3.11東日本大震災後に同市を慰問・激励で訪れている)からのジェラートだった。それより何よりもの“バイデン配慮”があった。スパーリングワインやワインなど食前・食中酒なしだけでなく,裏千家の茶名「宗裕」を持つ着物姿の裕子首相夫人が庭園内に設営した茶席(床の間に「千里同風」の掛け軸)で自らの茶器を持ち込み,お点前を披露したことと,そもそも夕食会場に八芳園の料亭「壺中庵」を選定したことである…(以下は本誌掲載)申込はこちら