6月4日付 岸田首相の「資産所得倍増プラン」今一つ“迫力”と“具体性”に欠けるワケ

 東京・六本木の国立新美術館で開催された「メトロポリタン美術館展―西洋絵画の500年」が終了する直前の5月末に足を運んだ。19世紀の印象派の画家オーギュスト・ルノワールの「海辺にて」を至近距離で観たかったからだ。もちろん、「ヒナギクを持つ少女」も鑑賞した。
筆者は1970年代半ばから80年代前半にかけてニューヨークを訪問する機会が少なくなく、取材の合間を利用して同市内にある美術館、博物館巡りをした。ニューヨーク近代美術館(MoMA)で印象派のセザンヌ、ゴッホ、ゴーギャン、キュビスムのピカソ、シュルレアリスムのダリやミロ、グッゲンハイム美術館ではシャガールやカンディンスキー、そしてリニューアル前のホイットニー美術館でジャクソン・ポロックを愛でている。平たく言えば、「観光コース」に乗ったのである。ところが、なぜだかニューヨークのど真中マンハッタン5番街1000番地「Met」の愛称で知られるメトロポリタン美術館と、かのフェルメールの「中断された音楽の稽古」と「士官と笑う娘」が展示されているフリック・コレクションに足を向ける機会が無かった。ルノワールに拘ったのには、理由がある。
やはり取材で行く機会が多かったワシントンDCのフィリップス・コレクションで観た「舟遊びをする人々の昼食」の印象が強く残っていたからだ。妻アリーヌを含め女性を多く描いたルノワ-ルは、この「…昼食」を1880-81年に描き、「海辺にて」を83年、そして「…少女」を89年に描いている。10年の月日が流れて、描き方がどう変わったのかをこの目で確かめたかったのだ。こう書くと、何か絵画フリークぶりを自賛しているようで嫌なのだが、実際にそうなのだから仕方がない。そんなわけでメトロポリタン美術館展に出向いたのである。正直言うと、動機はほかにもあった。
こちらはジャーナリストの性と関係がある。米金融最大手のJPモルガン・チェース(本社ニューヨーク)のジェームズ・“ジェイミー”・ダイモン最高経営責任者(CEO)が、フランス印象派が大好きのようだと、小耳に挟んだからである。米金融界の超大物であるギリシャ系のダイモン氏は、ハーバード大学ビジネススクール卒業後、当時のアメリカン・エキスプレス社長で、後に米銀行大手シティーグループCEOを歴任した金融帝国トラヴェラーズ・グループ総帥のサンフォード・“サンディ”・ワイル氏の下で修業したという。ワイル氏はユダヤ系である。▶︎ 

▶︎実は、このワイル氏とも浅からぬ因縁がある。90年代前半に当時の大手都銀・旧富士銀行の橋本徹頭取(当時)と提携交渉するため極秘裏に来日したワイル氏をインタビューする機会があった。親しくしていた某証券会社トップの紹介であり、しかも同席までして頂いたのだ。媒体は何と「月刊プレイボーイ」(日本版)。旧ホテルオークラ本館8階のスイートルームで実物を見せながら了解を取った。曰く、俺はこの種の雑誌が大好きさ。硬派の記事もあるしね。ウィンクしての了承を覚えている。
そして朝食を交えて約1時間半のインタビューを物にできたのである。四半世紀も前のことだ。話を戻す。JPモルガンのダイモン会長である。5月18日に米NYダウ平均の下げ幅は今年最大となり、米株大幅安をトリガーとした世界同時株安が進む中で、ダイモン氏は23日に開催した投資家向け説明会で、「強い米経済に、嵐を呼ぶ雲が浮かんでいる。しかし、あくまでも雲であり、霧散する可能性もある」と述べた。金融引き締めによる景気後退が指摘されるなか、個人消費は依然として強いと言ったのだ。相前後してそのダイモン氏が今秋に来日し、東京でJPモルガン・チェース主催のイベントを催すという情報が筆者の元に入った。奇しくも、Met美術館展を訪れた前日の日本経済新聞(24日付朝刊)最終ページ(文化面)に「実りある将来へJ.P.モルガンの厳選投資-JPモルガン・アメリカ成長株ファンド(愛称:アメリカの星)」と謳った広告が掲載されていたのだ。
そして、岸田文雄首相である。首相は5月31日夕、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(A4版37枚)を発表した。この計画のコアを「資産所得倍増プラン」と名付けているが、具体性に欠けると市場関係者の評判は今一つである。今年後半の米国株高を企図する米資産運用会社に倣い、岸田官邸も日本株の2万8000円の壁を超えたいと願っているのであれば、少なくとも同計画に記述した「少額投資非課税制度(NISA)の抜本的拡充」について具体的な投資上限額などを示すべきであった。成長に向けて投資を促すと言うのであれば、まさに今一つ迫力がないのである。 

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