6月11日号「『黄金の3年』へ岸田外交の面目躍如ー想定外の高い内閣支持率を維持する岸田首相。日米首脳会談でも際立った成果があった」

年初来、当連載で高浜虚子の俳句と高橋泥舟の狂歌を引用したが、今回は藤原道長の短歌を引き、岸田文雄首相の現在の胸中を表したい。「この世をば我が世とぞ思ふ望月のかけたることもなしと思へば」。 
改めて指摘するまでもないが、遥か昔の平安時代に太政大臣に上り詰めて藤原摂関政治の絶頂期を築いた道長が詠んだものだ。道長は、この世は私の思いどおり、ウハウハの世の中だ、満月に欠けたところがないように、とあっけらかんと心境を歌っている。花鳥風月を写実で詠む短歌は本来政治と無縁のものであるはずだが、何事も例外がある。岸田氏イコール藤原道長とまでいうつもりは毛頭ないが、岸田氏の胸中は案外これに近いのではないか。なすことすべてがうまくいっているように見える。それは岸田内閣の支持率が高止まっていることからもわかる。
メディア3社の最新世論調査(5月21~22日実施)の結果は、以下のとおりだ。共同通信社調査:前月比2.8ポイント増の61.5%、朝日新聞調査:同4P増の59%、産経新聞・FNN(フジニュースネットワーク)合同調査:同3.0P増の68.9%。日本経済新聞社・テレビ東京合同調査:同2ポイント増の66%で、昨年10月の政権発足後最高となった。 参議院議員選挙(6月22日公示7月10日投開票)の比例代表投票先の調査は、共同:自民党44.0%、立憲民主党10.0%、朝日:自民42%、立民10%、産経・FNN:自民39.2%、立民7.1%、日経・テレ東:自民50%、立民7%だ。岸田氏は、ウクライナを侵略したロシアへの断固たる姿勢、新型コロナ感染者数の減少、野党の非力でベタ凪の内政、
そして「外交の岸田」の真骨頂披瀝などで想定外の高い内閣支持率を維持している。中でも特筆すべきは外交である。取り分け、5月22日にジョー・バイデン米大統領が大統領就任後初めて来日、23日に東京・元赤坂の迎賓館で行われた日米首脳会談だ。日米首脳会談とは、ごく少人数会合約30分(逐次通訳)、少人数会合約50分(同時通訳)、拡大会合・ワーキングランチ約60分(同時通訳)の計2時間20分を指す。
ごく少人数会合には日本側から岸田首相、林芳正外相、木原誠二官房副長官、秋葉剛男国家安全保障局長、米側からバイデン大統領、アントニー・ブリンケン国務長官、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)、ラーム・エマニュエル駐日米大使が参加した。では、長期化するウクライナ危機と米中対立激化のなかの日米首脳会談の「肝」はいったい何だったのか。「自由で開かれた国際秩序の強化」という日米共同声明の表題のとおり、インド太平洋がグローバルな平和、案全及び繁栄にとって極めて重要な地域であるとして、バイデン氏が提唱した新経済圏構想・インド太平洋経済枠組み(IPEF)が正式に発足した。大々的に報じられた、日米を含め13カ国が参加するIPEF発足が本当に「成果」なのか。答えは否である。▶︎

▶︎バイデン氏の本懐は、関税引き下げを含む貿易協定の環太平洋経済連携協定(TPP)復帰なのだ。
ところが米議会の承認が得られないので代替案として打ち出したにすぎない。今回際立った「成果」はほかにある。先ず挙げるべきは、台湾問題に関して両首脳が、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定の重要性で一致したことである。昨年4月の日米首脳会談共同声明に「不可欠な要素である」の文言はなかった。対中国を念頭に一歩踏み込んだのだ。この一致こそが、岸田氏の「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する」発言となったのである。
そしてこの岸田発言が、事実上ロシアと中国を名指しての「いかなる方法による威圧であれ、ルールに基づく国際秩序に整合しない継続的な行動は認められないという共同声明につながった」(政府高官)。すなわち、今回の日米首脳会談では様々なテーマについて協議されたが、最大の成果は台湾問題で完全な日米連携を確認したことである。
まさにそれゆえに、「バイデン失言」が出来したとみるべきなのだ。日米首脳会談後の共同記者会見で、バイデン氏は米記者の「台湾を防衛するために軍事的に関与する用意がありますか?」との質問に、「はい。それが我々の約束だ」と答えた。これは断じて失言ではない。従来の台湾政策「曖昧戦略」から「明確戦略」へ転じると表明したのである。
一方で「1つの中国政策」に変化はないと、ホワイトハウス当局者は繰り返しコメントしている。これこそ「よい警官」と「悪い警官」の役割分担である。大統領が米国の関与を明言し、事務方が政策に変更はないとして、中国への不必要な挑発を回避したのだ。これは同時に、日本側が首相主催の非公式夕食会の会場に東京・白金台の八芳園を選定したことに通底する。八芳園は「中国革命の父」であり、台湾(国名・中華民国)の国父である孫文と浅からぬ縁がある。 さらにその八芳園は、1915年に亡命中の孫文をかくまった明治・大正時代の大物政財界人だった久原房之助の別邸だった。
極めて巧妙な選定といえる。岸田外交の面目躍如である。
さて、最後は焦点の参院選だが、現時点での筆者の見立ては自民党の58議席(選挙区40、比例18)獲得が有力だ。自民単独で改選議席125の過半数63に届かない。選挙後の波乱要因は、積極財政派(安倍晋三元首相が最高顧問の財政政策検討本部)と財政健全派(麻生太郎副総裁が最高顧問の財政健全化推進本部)の財政政策をめぐる党内対立である。それでも岸田氏は「黄金の3年」を迎えることになりそうだ。