7月16日付「第1子に1000万円支給」5兆円の予算で少子化問題は止められる…「大型経済対策」よりよほど重要ではないか

自民党の“1人勝ち”の第26回参院選。当連載(7月2日付)で筆者が予測した同党の改選過半数「63議席」がドンピシャだった。だが、馬券の予想屋ではないのでここで止め置く。参院選は政権選択選挙である衆院選とは違う。それでも昨年10月に発足した岸田文雄政権にとって言わば「中間選挙」である。
 すなわち、これまでに打ち出した「新しい資本主義」を含む主要政策について有権者の審判を受けるものだ。と同時に、野党は「岸田政策」を批判するのであれば、その代替策を提示しなければならない。ウクライナ戦争を引き金とする円安、資源・食料高によって現下の物価高対策はもとより、多くの指標が示すように国力の圧倒的な低下に向けて日本の将来ビジョンについて、与野党が現実性のある政策競争を有権者に提示すべきであった。 
 実際はどうだったのか。筆者の手元に、6月21日に日本記者クラブが主催した9党首討論会で配布された各党の参院選マニフェスト(小冊子)が残っている。「決断と実行。日本を守る。未来を創る。」(自民党)、「日本を、前へ。」(公明党)、「いまこそ生活安全保障が必要です。」(立憲民主党)、「平和でも、くらしでも、希望がもてる日本に」(共産党)、「給料を上げる。国を守る。」(国民民主党)――。さて、指摘したいことは唯ひとつである。深刻な人口減対策についての言及がどの党にも殆ど無かったことだ。小冊子では唯一公明党のそれには《超高齢化・人口減少が本格化する2040年に向けて、現行の社会保障制度の持続可能性を高めつつ、……皆で支え合う全世代型社会保障の構築を進めます。》の件があった。 
 一方、選挙の争点を取材し、有権者に提示するジャーナリズム側はどうだったのか。1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が21年は1.30だったと厚生労働省が6月3日に発表後、同22日の参院選公示を経て7月10日の投開票まで、新聞各紙も争点として人口減少問題に触れることはほぼゼロであった。筆者の記憶によれば、日本経済新聞(7月7日付朝刊)のみがシリーズ「参院選私の視点・社会保障」で鈴木亘学習院大学教授のコメント「第2子以降の出産支援を」を掲載している。▶︎

▶︎それだけではなかった。投開票翌日の朝刊に掲載された吉野直也政治部長の署名記事「民主主義 応える政治を」は《政治の無策で1人の女性が生涯に産む子どもの数を表す合計特殊出生率は21年に1.30まで落ち込んだ。これ以上の放置は社会保障制度の崩壊を招く。政策を総動員して立ち向かうテーマだ》と書いている。そう、まさに政策総動員で立ち向かうテーマなのだ。
 ここで想起するのは、本連載(2015年11月14日付)の「『第1子に1000万円支給』少子化問題はこれで解決する!~予算的には問題なし。問われるのは総理の本気度だ」である。この記事を書く契機となったのは、当時の安倍晋三首相が『文藝春秋』(同年12月号)のインタビュー記事「アベノミクスの成否を問う『一億総活躍』わが真意」で《第二の矢の的は2020年代半ばまでの「希望出生率1.8の実現」です》と語ったことだった。
 そして筆者は、荒っぽい試算ではあるがと断ったうえで、日本でも仮に第1子に対する子育て支援として1000万円を供与すれば、5兆円の予算で新生児が約50万人増えることになる。……向こう3年間5兆円の少子化対策予算をつけて、毎年新生児50万人、3年間で150万人の人口増加を促せば「第3次ベビーブーム」到来は確実である――と書いた。想像を絶する反響があった。100万を超えるアクセスがあり、現代ビジネス編集部や筆者の元に問い合わせが殺到し、翌年1月にNHKの特別番組にインタビュー出演したほどだった。
 ここで何を言いたいのか、である。コロナ対策から始まり、ロシアによるウクライナ軍事侵攻がもたらした物価高対策に至るまで、数多の大型経済対策、巨額補正予算を通じて毎回“うん兆円”の巨額予算(税金)投入が繰り返されることを見るにつけ、こちらの5兆円は新生児50万人を確保できるのだ、従来型の大型公共事業予算よりよほど重要ではないか、と。昔日の想いだが、故・安倍元首相は高く掲げたアベノミクス「新三本の矢」について、《その矢の狙う的が戦後最大となる「GDP(国内総生産)600兆円」を2020年頃までに達成することです》と述べていた。6年8カ月前のことだ。そして21年の実質GDP実額は537.4兆円であった。