7月30日付 中国の「大ブーイング」は必至…岸田首相と米下院議長との会談がもたらす「緊急事態」

 現在、バイデン米政権にとって最大の頭痛の種はナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問である。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)がペロシ氏の8月訪台計画を報じたのは7月18日だった。ジョー・バイデン大統領は直後の20日に記者団に対し、「(ペロシ氏訪台について)米軍はいい考えだとは思っていない(the military thinks it’s not a good idea right now.)」と述べた。 バイデン氏が言う「米軍」とはマーク・ミリー統合参謀本部議長(陸軍大将)を指すが、ミリー議長だけではなく大統領側近のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)もこのタイミングでのペロシ氏の台湾訪問に反対なのだ。下院議長は大統領継承順位が副大統領に次ぐ第2位であり、現職下院議長の訪台が実現すればクリントン政権下の1997年のニュート・キングリッチ氏以来となる。サリバン氏からすれば、バイデン大統領と中国の習近平国家主席のリモート形式での米中首脳会談が7月28日に長時間予定されていたこともあり、不必要な摩擦は回避したかったのである。 
 一方の米制服組のトップであるミリー氏からすると、8月1日は中国の人民解放軍建軍節(記念日)であり、加えて8月上旬は習氏が主宰する恒例の「北戴河会議」もあるので、敢えて中国側を挑発する必要はないというのだ。こうしたことを承知の上で、対中強硬姿勢が米議会民主、共和両党のコンセンサスであることからペロシ下院議長はFTに自らの訪台計画をリークしたのは間違いない。老獪な政治家らしい“環境整備”である。 
 ところが中国側の反発は想定外の激しいものだった。中国国防省の報道官は26日、「米国側が独断で強行すれば、中国軍は決して座視せず、必ず強力な措置を講じる。国家主権と領土を断固として守る」と強く反発したのだ。「軍」が看過しないと言い切ったのである。▶︎

▶︎それでもペロシ下院議長は訪台の意向を変えていない。米国防総省(ペンタゴン)が護衛を含む軍用機などセキュリティ関連ロジスティックを担当するが、ワシントン情報によると、ペンタゴンは28日時点でその準備に入ったという。筆者が入手した情報によれば、ペロシ氏は8月4日にフィリピンのクラーク空軍基地経由で台湾を訪れて、台北で蔡英文総統と会談する。
 そして翌日午後、東京都下の横田米空軍基地に降り立つ。米国序列ナンバー3である下院議長の来日となれば、岸田文雄首相と会談するのがプロトコルでは当然だ。猛反発した訪台後に訪日するペロシ氏と会談する岸田氏に対し、中国はどのような反応を示すのだろうか。容易に想像できる。岸田氏批判のオンパレードであろう。現在、我が国では「台湾有事」イコール「日本有事」と捉える保守派国会議員が党派を超えて増えているのは事実である。一例を挙げれば、7月27~30日に「日本の安全保障を考える議員の会」の石破茂元自民党幹事長、浜田靖一元防衛相、長島昭久衆院議員(野田佳彦民主党政権時の防衛副大臣)、清水貴之参院総務会副会長(日本維新の会)の4人が台湾を訪れた(当初訪問メンバーの前原誠司国民民主党代表代行ら3人が出発直前に新型コロナウイルスの影響のため訪台しなかった)。 
 契機となったのは、政府が22日に公表した「防衛白書」である。岸信夫防衛相は同日の記者会見で、改めて「中国は台湾統一に武力行使も辞さない考えを示しており、地域の緊張が高まりつつある」と言明した。政府の公式文書に台湾有事のシナリオが明記されたのは初めてである。同白書の公表前に会った首相官邸幹部も筆者に対し「ウクライナ戦争の真っ只中にある今、現実味を帯びる次なる地学的リスクは台湾だ」と語っていた。仮に台湾の蔡英文総統が9月27日の安倍晋三元首相国葬儀に参列の意向を示せば、岸田首相は断る大義名分がない。その前振りとなるのがペロシ米下院議長との会談となるのだ。果たして岸田氏は覚悟を固めたのだろうか。