8月6日付「核説兵器のない世界」へ…岸田首相が表明した「信念」は「理想論」に過ぎないのか

 正直言って、岸田文雄首相が8月1日午前(米国東部時間)にニューヨークの国連本部で開催された核拡散防止条約(NPT)再検討会議で行った英語による演説は、もう少し評価されても良かったのではないか――。異論があるのは承知している。 
 確かに、新聞各紙は大きく報道した。読売新聞(2日付朝刊)は1面左肩に「核軍縮へ行動計画表明―首相、透明性向上訴え―NPT会議」の見出し、3面では「『NPTの守護者』強調―首相演説、核軍縮機運低下を危惧」のヨコ大見出しを掲げて詳報した。6面には首相演説の全文を掲載している。朝日新聞(同)も1面左肩に「NPT 首相『守り抜く』―核兵器の不使用・減少など提示、最終文書の採択焦点」の見出し、2面でも「核廃絶の『理想』どこまで―意気込む首相 厳しい安保環境―核禁条約には触れず」の見出しを掲げて、「読売」同様に詳しく報じた。両紙報道の違いを一点だけ挙げる。「朝日」が、2015年の前回再検討会議で軍縮が進まない状況から核保有国と非保有国が対立し、合意文書が採択できなかったこともあり、失望した非保有国が中心となり17年に「核兵器禁止条約」が成立したものの、核保有国は参加していない上に米国の「核の傘」の下にある日本も批准しなかった点を、指摘していることだ。核禁条約問題に言及するには紙幅が足りないので、本稿では筆者の現時点での関心事に傾注したい。
 先ず指摘すべきは岸田演説の冒頭である。少々長いが引用する。《私は、今回のNPT再検討会議に強い危機感を持って、やって参りました。外相として参加した2015年会議の決裂以降、国際社会の分断は更に深まっています。特に、ロシアによるウクライナ侵攻の中で核による威嚇が行われ、核兵器の惨禍が再び繰り返されるのではないかと世界が深刻に懸念しています。「核兵器のない世界」への道のりは一層厳しくなっていると言わざるを得ません。しかし、諦めるわけにはいきません。被爆地広島出身の首相として、いかに道のりが厳しいものであったとしても、「核兵器のない世界」に向け、現実的な歩みを一歩ずつ進めていかなくてはならないと考えます。
 そして、その原点こそがNPTなのです》このパラグラフに岸田氏の想いが凝縮されてる。言うまでもなくキーワードは「核説兵器のない世界」であり、NPTの守護者足らんとする気概も十分に伺える。▶︎ 

▶︎さらに演説最後に《また、23年には被爆地である広島でG7サミット(先進7カ国首脳会議)を開催します。広島の地から、核兵器の惨禍を二度と起こさないとの力強いコミットメント(関与)を世界に示したいと思います》と述べたのも、今後の政権維持に強い自信を抱いていることをアピールしたものだ。そして岸田氏は一羽の折り鶴を手に持ち、《志を同じくする世界中の皆様と共に「核兵器のない世界」に向けて歩みを進めてまいります。ありがとうございました》と、締め括くった。情緒的に過ぎるとの指摘もあろう。
 だが、政治家・岸田文雄の胸中には端から「核兵器のない世界」という強い信念があるのだ。従って演台にあるプロンプターに殆ど目線を向けず、且つ棒読みすることもなく、岸田氏が流暢な英語で演説したのは語るべき内容がすべて頭に入っているからに他ならない。核兵器廃絶は「理想論」であると一蹴する向きもあるが、要するに岸田氏は本気なのだ。政治家の「本気」は「強さ」と同義語である。その本気度は、5日午前に岸田首相が前夜来日したナンシー・ペロシ米下院議長を首相公邸に招き、朝食を交えて会談した際の発言からも伺える。中国がペロシ氏アジア歴訪中の4日から始めた軍事演習について強く非難し、断固たる抗議をしたと語った。中国の習近平指導部は現在、来春の全国人民代表大会(全人代)で台湾併合のプロセスを促進するための新法「祖国統一法」の制定を準備している。一方、米国ではロバート・メネンデス上院外交委員長(民主党)とリンゼー・グラム上院議員(共和党)の2人は台湾に軍事的圧力を強める中国抑止のための「台湾政策法案」を共同提出したが、成立が確実視される。
 いよいよ24年春を過ぎると“米中ガチンコ衝突”が出来するのだ。9月29日に日中国交正常化50周年記念の節目を迎える。その前に岸田首相は旗幟を鮮明にするべく舵を切る腹を固めたようだ。ちなみに先述の手にした折り鶴は首相自身のアイディアである。どうせならもう少し上に掲げて、しかと聴衆に見てもらうべきだった。