8月20日付 自衛隊統合幕僚監部も震撼した中国「弾道ミサイル」その驚愕の“実力”

 仕事が趣味だとは間違っても言わないが、世間様がお盆休み中に、筆者が信を置く外務省と経済産業省の幹部其々別個に昼食を交えた意見交換の機会があった。そして驚いた。両氏ともに台湾有事がそう遠くない時期に出来するとの見立てだった。中国共産党の習近平総書記(国家主席)が今秋の第20回党大会で3期目を掌中に収めてからほぼ3年の間に台湾軍事侵攻に踏み切るのではないかと言ったのだ。飽くまでも個人的見解と断りながらであったが。
 ナンシー・ペロシ米下院議長が台湾訪問を終えた8月3日夕、次の訪問国・韓国へ向け発った。まさにその翌日だ。中国は台湾本島への侵攻を念頭に置き、台湾を取り囲む6カ所の海空域で弾道ミサイルDF15(最大射程距離約900㎞)などの発射を含む軍事演習を実施した。発射された弾道ミサイルは11発で、そのうち5発が初めて日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。問題視すべきはその5発よりも、EEZ外であったが沖縄県・与那国島から僅か80㎞に着弾した1発の方である。先の外務省幹部によれば、かくも精度が高い精密誘導システムによる弾道ミサイル発射を見せつけられた自衛隊統合幕僚監部の関係者は驚愕し、震撼したというのだ。
 奇しくも日本戦略研究フォーラム(屋山太郎会長)は8月6~7日、東京・市ヶ谷のホテルで台湾有事を想定した第2回政策シミュレーションを開催した。この机上演習(米国防総省関係者の間では「ウォーゲーム」と呼ばれる)は、昨年8月に続く2回目である。参加者は安全保障政策に関わった元政府高官、自衛隊の陸・海上幕僚長経験者がそれぞれ首相役、防衛相役、外相役、国家安全保障局長役、陸・海自幹部役を務め国家安全保障会議(NSC)9大臣会合で議論する形式で行う。昨年8月の机上演習では首相役・浜田靖一防衛相、外相役・石井正文元外務省国際法局長、防衛相役・長島昭久元防衛副大臣、幕僚長役・住田和明元陸上総隊司令官らが務めた。▶︎ 

▶︎今年の首相役は小野寺五典元防衛相(自民党安全保障調査会長)であった。想定として①「グレーゾーン事態」から沖縄県・尖閣諸島での不測の事態発生②邦人退避や台湾からの避難民対応③中国の核による脅迫への対処――の3つのシナリオに基づく課題が協議された。
 際立ったのは、中国の海上民兵が乗船した大量の漁船が日本領海に押し寄せ、海上保安庁の巡視船と衝突、その間隙を衝いて尖閣諸島に武装漁民が上陸するシナリオにリアリティがあったことだ。憲法改正問題にリンクする「存立危機事態」と「武力攻撃事態」と認定されたシナリオも机上演習で想定された。もちろん、こうした台湾有事への対応は飽くまでも議論のレベルである。第1回政策シミュレーション演習部でホワイトセル(米側)のリーダーを務めたのが、故・安倍晋三元首相の外交ブレーンだった兼原信克元官房副長官補・国家安全保障局次長である。今回は防衛省出身の高見澤將林元官房副長官補兼国家安全保障局次長である。
 「頭の体操」と言えば、それまでだ。筆者は80年代半ばに米ワシントンを訪れた際に盟友の安全保障ジャーナリスト、ピーター・エニス氏(故人)から紹介されたパトリック・クローニン米ハドソン研究所太平洋安全保障議長に会った際に初めて「ウォーゲーム」という言葉を知った。同氏は当時、米国防大学(NDU)研究員であり、そのNDUこそが「ウォーゲーム」の家元なのだ。米中覇権抗争はコリジョンコース(激突)に向けて突き進んでいるかに見える一方で、11月にインドネシア・バリ島で開催される主要20カ国・地域(G20)首脳会合を利用してジョー・バイデン米大統領は習近平国家主席と対面会談を行う。
 この米中首脳会談を念頭に置く日本も遅ればせながら日中高官協議を実現した。秋葉剛男国家安全保障局長は17日、天津で中国外交のトップである楊潔篪共産党政治局員と夕食を交えて7時間のロング会談を行った。秋葉氏は2カ月前から水面下で楊氏と接触、8月上旬に楊氏から招請を受け取ったという。バリ島で岸田文雄首相は習氏と会談することになるのか、先行きは不透明である。