9月3日付 亡き安倍晋三元首相の悲願「防衛予算額7兆円」がいよいよ現実味を帯びてきた…!

 財務省は8月31日、2023年度予算の概算要求を締め切った。一般会計予算の総額は約110兆円となり、過去最高だった22年度の111兆6559億円に次ぐ規模となる。焦点の防衛省の要求額は5兆5947億円であり、前年度当初予算比3.6%増となり過去最高である。年末までの予算編成の過程で6兆円超えの7兆円に限りなく近づくのは間違いない。
まさに故・安倍晋三元首相が言及していた防衛予算額である。防衛予算の概算要求がここまで膨れ上がったのは、岸田文雄首相の公約「5年以内の防衛費GDP(国内総生産)比2%超を目指す」と決して無縁ではない。確かに日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している。ロシアのウクライナ侵略の長期化・膠着化の中で、中国による台湾軍事侵攻の可能性が現実味を帯び、北朝鮮の核・ミサイル開発が進展していることも懸念材料である。岸田首相は6月29日午後、訪問先のスペインの首都マドリードで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会合に、日本の首相として初めて出席した。並みいる各国首脳を前にしてイェンス・ストルテンベルグ事務総長に指名されて最初に登壇した岸田氏はスピーチで「日本の防衛力を5年以内に抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意であります」と述べている。国際公約でもあるのだ。
それから約1カ月余の後、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル電子版(8月4日付)は次のように報じた。《歴史家の米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)のハル・ブランズ教授と政治学の米タフツ大学のマイケル・ベックリー准教授は「5年、いや18カ月のうちに中国は台湾の武力統一に踏み切る」と語った》。この「18カ月」の起点は、言うまでもなく8月2日のナンシー・ペロシ米下院議長訪台を意味する。その18カ月以内とは2022年8月から24年2月までということになる。台湾軍事侵攻説には、ジェイムズ・スタヴリディス元海軍提督の著書『2034米中戦争(2034: A Novel of the Next World War)』(翻訳は二見文庫)の2034年説を始め、2030年説、2027年説、2025年説、そして2024年説などがある。先の22年夏~24年初頭説はこれまでの最短である。▶︎ 

▶︎ブランズ、ベックリー両氏は昨年秋、米外交専門誌『Foreign Policy』(21年9 月24 日号)に「ピーキングパワーの罠(peaking power trap)」というワーディングを以って、急速に台頭する大国がもたらすのではなく、ピークに達した大国の罠に留意しなければならないと指摘している。
想起されるのは「ツキディデスの罠」を提唱した米政治学者のグレアム・アリソン氏の『米中戦争前夜(Destined for War : Can America and China Escape Thucydides’s Trap?)』(翻訳はダイヤモンド社)であり、それは5年前の2017年のことだった。この4、5年の間に中国の経済・金融力、宇宙探査・軍事力、先端技術開発力など国力全般が飛躍的に発達した。たとえ専制主義下のもとであれ、それは否定できない事実である。その中国が既にピークに達した大国であるとすれば、焦りはなおさら大きいはずである。それだけに「台湾有事」に目を向けざるを得なくなるのだ。リアリティがあるが故に、防衛力の強化=防衛費の増額が不可欠である。「軍事費過去最大5.6兆円」「沖縄を再び『戦場(いくさば)』にする計画」(共に『赤旗』9月1日付)などの表記・記述にいささかの疑問を覚えるのは筆者だけではあるまい。とはいえ重要なことは、防衛費総額の多寡ではなく、対処しなければならない有事対応のために絶対必須な防衛装備品の選定である。それがロッキード・マーティンやレイセオン・テクノロジーなど米軍需産業特需との指摘・批判があるにしても、である。政府は9月1日、外交・安全保障政策の基本方針「国家安全保障戦略」など安保3文書の改定に向けて年初から7月まで17回にわたり計52人の有識者と意見交換を行い、その概要(要旨47頁)を発表した。
そこには次期中期防衛力整備計画が終わる2027年度末までに「GDP比3%に増額すべき」との主張もあったというのだ。やはり「数字、在りき」である。非公開の意見交換であるにしても、発言者名を公表すべきではないか。岸田官邸は防衛費の増額や財源問題についての有識者会議を今月末に設置する。須くこちらも有識者名はもとより討議内容及び発言者名を、一定期間後には公表して欲しい。