9月23日、国連総会出席・一般討論演説、包括的核実験禁止条約(CTBT)促進首脳級会合主催、ニューヨーク証券取引所(NYSE)講演、そしてジョー・バイデン米大統領との会談を終えて岸田文雄首相は帰国した。米側発表は「国連総会の合間に会った」とあるが、実態は約5分の立ち話だった。
そもそも19日出発予定が超大型台風14号の日本直撃による被害状況の確認を優先して1日出発を延期せざるを得なかったことから、出端を挫かれた首相訪米だった。10月3日には第210回臨時国会が召集される。会期中の衆参院予算委員会では岸田首相を「物価高対策」、「旧統一教会」、「安倍晋三国葬儀」などが待ち受けている。報道各社の世論調査の中で政権・与党に低い数字が出る傾向が強い毎日新聞調査(17~18日実施)では、岸田内閣支持率が前回比7ポイント減の29%、不支持率は10P増の64%となり支持率が初めて30%割れの「危険水域」となった。
筆者は正直言えば、『毎日』と時事通信社調査が他社と比較して低すぎる数字を出すことにいささかの疑問を持つ。それはともかく、同紙調査の内閣支持率29%と自民党支持率23%(前回比6P減)を足した「52」という数字は、永田町で有名な「青木の法則」(かつて青木幹雄元官房長官が内閣支持率と自民党支持率を足して50を下回るとその政権は程なく崩壊すると言ったことに基づく)からも岸田政権が相当“ヤバい“状況にあることを示している。因みに筆者の相場観に従えば、共同通信社調査(同)の内閣支持率前月比13.9P減の40.2%、不支持率18.3P増の46.5%というのが実状に近い。それでも昨年10月の政権発足以降最低の支持率であり、最高の不支持率である。岸田政権の先行きに暗雲が垂れこめ始めているのは間違いない。そうした中で、岸田首相の所信表明演説を皮切りに国会論議がスタートする。先月末に各省の2023年度予算案の概算要求が締め切られ、今まさに財務省(茶谷栄治事務次官)は予算編成の真っ只中にある。仕切るのは主計畑のエース、新川浩嗣主計局長だ。▶︎
▶︎筆者が特段の関心を抱いて注目するのは岸田首相が国内外に公約した「防衛力強化」を担保する防衛予算の増額、即ち防衛費のGDP(国内総生産)比2%超の財源問題である。岸田氏は8日の記者会見で、防衛費増額や財源について議論する「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」を設置し、9月下旬に初会合を開くと言明した。
そして同会合で年末までに国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定に向けた提言を取りまとめる。同会議メンバーは30日の初会合前日に公表されるが、筆者が得ている情報によると、議長に就く元外務事務次官の佐々江賢一郎日本国際問題研究所理事長、元防衛事務次官の黒江哲郎三井住友海上火災保険顧問、前日本経済新聞会長の喜多恒雄日本経済研究センター会長、國部毅三井住友フィナンシャルグループ会長ら10人が指名される。奇しくもバイデン大統領はエリザベス英女王の国葬出席のためロンドンに発つ前日の18日、米CBSの看板番組「60ミニッツ」(毎日曜日午後6時)に出演し、中国の軍事侵攻があれば米軍は台湾を守るのかとの質問に「イエスだ。もし実際に前例のない攻撃があった場合は」と明言したのだ。このバイデン発言は決定的だ。「一つの中国政策」など従来の台湾政策に変更はないとの前提付きだが、米軍最高司令官として必要があれば軍事介入するとの姿勢を示したのだ。5月の来日時に同行記者団からの同趣旨の質問に「イエス」発言をして物議を醸したのは記憶に新しい。だが今回、明確に違うのは司会から「ウクライナと異なり、中国の軍事侵攻があった場合には米軍の兵士が台湾を守るのか」とダメ押しされても「イエス」と答えたのだ。
昨年末から年初にかけてのバイデン発言「米国はウクライナに軍事介入しない」がウラジーミル・プーチン露大統領に誤解を与えたとの反省からの“姿勢修正”なのだ。明らかに中国の習近平国家主席へのメッセージである。
こうした台湾有事の可能性を踏まえた議論を先の有識者会議で進めてもらいたいものである。これは決して“無いものねだり”ではない。現下の厳しい現実に即した論議を深めて年末の有識者提言に期待するのは筆者だけではあるまい。