No.662 10月10日号 「聞く力」より「語る力」ではないか 

『平家物語』の冒頭「祇園精舎の鐘の声,諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色,盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず,ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ,ひとへに風の前の塵に同じ。」を引用するのは,岸田文雄政権にきつ過ぎるだろうか。岸田首相を「風」(逆風)の前の「塵」に例えるのはいささか失礼かもしれない。ただ,「諸行無常の響き」と言わざるを得ないのが直近の報道各社の世論調査の結果である。本誌は常々,内閣支持率は共同通信社,『朝日新聞』,NHK3社の支持率を足して3で割った数字が相場観であると言ってきた。
『朝日』調査(10月1~2日実施):内閣支持率前回比1P減の40%,不支持率同3P増の50%,共同調査(8~9日):支持率同5.2P減の35.0%,不支持率1.8P増の48.3%,NHK調査(8~10日):支持率同4P減の36%(10日夜時点での傾向値。発表は11日夜の「ニュース7」)である。支持率を見てみると,40+35.0+36=111÷3=37%が世上の岸田内閣への支持率となる。40%を割り込み,危険水域に達した。支持率は3社共に昨年10月の政権発足以降,過去最低を更新した。
理由は言うまでもなく,「安倍国葬」「旧統一教会」「物価高」の3点セットに関する岸田の国民への説明が不十分であり,対応が後手に回ったことだ。▶︎

▶︎事実,共同調査では,9月27日に執り行われた故・安倍晋三元首相の「国葬儀」について「評価しない」と「どちらかといえば評価しない」が計61.9%で,「評価する」と「どちらかといえば評価する」が計36.9%を大きく上回った。
さらに自民党が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と党所属議員の関係を公表した調査を巡り,党の対応が「十分ではない」との回答が83.1%に達した。こうした中で,自民党の世耕弘成参院幹事長は6日,首相の所信表明演説に対する参院代表質問の冒頭で次のように質した。「岸田首相の就任から1年。国民はそろそろ『聞く力』に加えて『語る力』を熱烈に求めているように思う。国民の声に耳を傾け,政策として形にしたら,力強く国民に語ることになる。難局におけるリーダーシップの役割はそういうものだと思う」。岸田への異例の注文だった。
そして『日本経済新聞』(10日付朝刊)オピニオン欄に論説主幹・原田亮介が「首相に欲しい『話す力』」と題したコラムで《……だからこそ首相は決断への率直な思いや信念を語った方がいい。「聞く力」より「話す力」なのだ》と結んでいる。この際,「語る力」「話す力」のいずれでも良いが,要するに発信力が欠如しているということである…(以下は本誌掲載)申込はこちら