No.664 11月10日号 「外交の岸田」の再浮上はあるのか

岸田文雄首相は11月11日,東南アジア3カ国歴訪のため政府専用機で羽田空港を発つ。東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議(同11~13日にカンボジアの首都プノンペン),主要20カ国・地域(G20)首脳会合(15~16日にインドネシアのバリ島),アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議(18~19日にタイの首都バンコク)に出席する。帰国は19日深夜であり,臨時国会会期中に8日間,日本を留守にする。
 もちろん岸田首相には勝算がある。岸田はプノンペンで日米首脳会談と日米韓首脳会談を実現した上でバリ島での日中首脳会談に臨む腹積りだ。習近平国家主席(共産党総書記)とのトップ会談が実現すれば,2019年12月に北京で行われた当時の安倍晋三首相と習主席との会談以来3年ぶりの日中首脳会談となる。第20回中国共産党大会で習総書記が政治報告で「台湾との平和的な統一の取組をできる限り誠実に継続していくが,武力行使の放棄は約束せず,あらゆる必要な措置を講じる選択肢を保留すると」断じたことからも中国による台湾侵攻の可能性が現実味を帯びてきている。
 そうした中で,「チーム岸田」内には早期の日中首脳会談に固執すべきではないとの慎重論もあったが,岸田は持論の「建設的で安定的な日中関係の構築」を貫き,今回の岸田・習近平会談に漕ぎ着けた。そもそもは秋葉剛男国家安全保障局長が8月17日に中国・天津で外交トップの楊潔篪共産党政治局員(当時)と7時間行った会談が起点となった。▶︎

▶︎秋葉は事前に安倍元首相の了解も得て水面下で楊サイドにアプローチしていた。楊潔篪の弟・潔勉(元上海国際問題研究院主任)は秋葉の留学先だった米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院で同級生である。加えて第1次安倍内閣時の06年10月の安倍首相電撃訪中を担った当時の谷内正太郎外務次官と秋葉中国課長のカウンターパートが当時外相の楊潔篪だった。
 そして秋葉・楊協議が日中首脳会談の萌芽となったのだ。本稿執筆時点で11月8日の米中間選挙では政権与党の民主党が大方の予想を覆して米議会上下院共に大健闘しているのだ。ジョー・バイデン大統領の求心力が回復するかも知れない。「外交の岸田」を自任する首相はそのバイデンから対中・対露政策で共同歩調を求められる。2年後のドナルド・トランプ復活が無いとなれば,例えばウクライナ戦争を巡る日本の立ち位置についてさらに日米一体の外交・安保政策を強いられるのだ。
 いずれにしても外交に拘る岸田は12月末にはインドを訪れる。安倍の遺産であるクアッド(日米豪印の枠組み)の継承・発展のためにもナレンドラ・モディ首相との緊密な関係維持が必要との判断からだ。第211回通常国会召集前の来年初めにもスポット外遊を検討している…(以下は本誌掲載)申込はこちら