11月14日付「40年超権勢を誇った『ペンタゴンのヨーダ』ーONAの故アンドリュー・マーシャル氏」

前回、米国防総省のネットアセスメント局(ONA)について言及した。ただし、そうした組織が存在すると触れただけだ。今回は詳述する。ONAと言えば、故アンドリュー・マーシャル氏を抜きに語ることはできない。
 時代は遡る。ニクソン政権下の1973年、シュレシンジャー国防長官は米ソ冷戦における米国の軍事的優位を目指し軍事戦略の企画立案組織ONAを創設し、国防官僚のマーシャル氏を初代局長に任命した。マーシャル氏はその後、フォード、カーター、レーガン、ブッシュ(父)、クリントン、ブッシュ(子)、オバマ政権の歴代政権で同職に居た。政治任命職が2015年1月まで40年超にわたり共和、民主党両政権で権勢を誇ったのだ。何と退任時は93歳!因みに亡くなったのは19年3月26日、享年97歳。在任中は表舞台に殆ど顔を出さなかったため「伝説の軍略家」と称され、映画の「スターウォーズ」シリーズの登場人物になぞらえて「ペンタゴンのヨーダ」の異名を取った。
筆者の手元に『帝国の参謀―アンドリュー・マーシャルと米国の軍事戦略』(16年4月刊)がある。同書を基に紹介したい。軍事力総合評価(ネットアセスメント)という概念を生み出したマーシャル氏の政権入りは、69年9月のキッシンジャー大統領補佐官(国家安全保障担当)からの電話が契機となった。▶︎ 

▶︎米ソ冷戦当時、ソ連の核戦略に関する米中央情報局(CIA)、国防情報局(DIA)など情報機関の分析に強い不信感を抱いていたのだ。
 そして同氏はホワイトハウスへの情報の流れや質を半年間評価した後、70年5月にキッシンジャー氏に報告書を提出した。それがONA創設の原点となった。その報告書には、既存機関による政治的・官僚的抵抗が予想されるため、組織改革の必要が言及されていた。翻って、我が国のインテリジェンス・コミュニティ(情報を扱う行政組織や機関)の実態はどうなのか。日本大学危機管理学部の小谷賢教授が詳述しているように、安倍晋三政権下の14年1月に、国家安全保障会議(NSC)の事務局である国家安全保障局(NSS)が設置された。8年前である。マーシャル氏をインタビューした日本人は2人。安倍氏のスピーチライターの谷口智彦氏が日経ビジネス在籍時代と、日経新聞の秋田浩之氏のみだ。