『日本経済新聞』の1面コラム「春秋」(11月22日付朝刊)が紹介した相場の格言「見切り千両,損切り万両」を以って,岸田文雄首相が後手に回った3閣僚更迭についての批判に得心した。
同紙コラムニストはこう書いた。《なぜ,もっとはやく損切りできなかったのか。首相の決断力,言い換えれば,政治家としての相場観が問われているのだ。》まさにその通りである。岸田の優柔不断が混乱に拍車をかけたのは疑いの余地がない。自民党内から岸田政権の機能不全との声まで上がった。寺田稔前総務相(宏池会・岸田派)の政治資金を巡る疑惑が次々と明らかになっていた中,9日の参院政治倫理確立・公職選挙法改正特別委員会で領収書偽造・借入金不記載などについての野党議員追及に対し「確認中」を繰り返した大臣答弁が決定打となった。11日に東南アジア3カ国歴訪でカンボジアに向け発つ当初予定からも10日中の総務相交代が不可欠だった。
ではなぜ,損切りできなかったのかについての“謎”を解くヒントが『神奈川新聞』(電子版21日22:00配信)に掲載されている。概要は次のようなものだ。その前週末から首相官邸と岸田派幹部周辺で後任総務相の人選が始まり,何と菅義偉前首相を副総理兼務で起用する案があったというのである。▶︎
▶︎しかし,打診して断られた事が漏れたら首相の求心力がますます低下する,断られたら菅側近の坂井学前官房副長官に後任を打診するなど堂々巡りが続く中で時間切れとなった等々である。実際にはリアリティがなかったというのが本誌の見立てであるが,そのサプライズ案の張本人とされる同派事務総長の根本匠衆院予算委員長の政局観のなさからすると,そうしたアプローチを行った可能性は排除できない。
いずれにしても,一に懸かって岸田に決断力がなかった,換言すれば,「失敗に気づいたら,潔く損切りすべし」(「春秋」)ができなかったことに尽きる。岸田内閣の支持率の低迷は続く。最新の『朝日新聞』とNHKの世論調査(共に11月11~13日実施)は,朝日調査:支持率前回比3P減の37%,不支持率1P増の51%,NHK調査:支持率同4.5P減の33%,不支持率同3P増の46%である。朝日の不支持率51%とNHKの支持率33%が要注目だ。
因みに自民党支持率は朝日33%だが,NHKは前回比0.2P増の37.1%である。岸田内閣が内包する問題点はNHK調査の質問とその回答に窺える。支持・不支持理由の質問は①「政策に期待が持てるから(―持てないから)」②「支持する政党の内閣だから(―内閣でないから)」③「人柄が信頼できるから(―信頼できないから)」④「実行力があるから(―実行力がないから)」⑤「他の内閣より良さそうだから(他の内閣の方が良さそうだから)」…(以下は本誌掲載)申込はこちら