11月23日、カンボジアのシエムレアプで第9回拡大東南アジア諸国連合(ASEAN)国防相会議が開催された。 前日に同地でロイド・オースティン米国防長官と中国の魏鳳和国務委員兼国防相が5カ月ぶりに会談した。10日前の12~13日には首都プノンペンでASEAN+日中韓首脳会議、米ASEAN首脳会議、日ASEAN首脳会議の他に日・米・中・露も加えた東アジア首脳会議(EAS)などが開かれている。ジョー・バイデン米大統領は今年5月に米ワシントンにASEAN諸国首脳を招き、すでに両者の関係を「包括的パートナーシップ」に格上げの意向を示していた。東南アジア・シフトである。
一方、岸田文雄首相はプノンペン滞在中の13日にバイデン大統領、韓国の尹錫悦大統領と会談するなど、17日夜のタイ・バンコクで中国の習近平国家主席との会談に備えていたのは記憶に新しい。正直言って、ワシントンのシンクタンク客員研究員から事前に知らされるまでホスト国で国防相会議(ADMM)が東南アジア諸国連合首脳会議後に開催されることを承知していなかった。旧知の同研究員がメールしてくれたADMMの年間日程表で初めて知った。▶︎
▶︎注目されたバイデン・習近平会談は14日にG20(主要20カ国・地域)首脳会議が開かれたインドネシアのバリ島で3時間超行われた。両国出席者名簿に国防関係者が記載されていなかったことは米側の中国に対する軍事衝突回避シグナルとの指摘があった。だが、それは正しくない。米中国防相など軍高官は毎年6月にシンガポールで英国際戦略研究所主催のアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)で対話する。ではなぜ、この時期にカンボジアで会談したのか――。
中国を競争相手とみなすが、軍事衝突は回避したいバイデン米政権は安保対話を維持したいというのが本音である。中国共産党のヒエラルキーは習総書記を頂点に政治局常務委員7人と政治局員17人で構成される。同政治局員の張又侠、何衛東の両軍最高幹部が党中央軍事委員会副主席(習氏が軍事委主席)。米側は先に軍事委副主席に昇格した習氏最側近の何氏とのチャネルを拓きたいのだ。台湾を標的とする東部管区司令官を歴任した何氏が台湾侵攻のカギを握るとされる。だが、中国側は反応を示さない。習氏はバイデン氏の焦りを横目に涼しげな顔付きだ。「憎たらしいにも程がある」と外務省幹部が漏らした。