11月26日に実施された台湾の統一地方選で、蔡英文総統率いる対中強硬派の与党・民進党が大敗を喫した。蔡氏は敗北の責任を取って党主席を辞任した。
一方、親中路線の野党・国民党では首都機能を持つ台北市の市長選で初代総統・蔣介石のひ孫にあたる蔣万安・元立法委員(国会議員)が当選するなど主要6市(直轄市)中の4市でも勝利した。 こうした「反中の民進党大敗・親中の国民党勝利」を受けて、中国政府の国務院台湾事務弁公室は同日夜、報道官談話を発表した。「平和と安定を求める主流の民意の表れ」とした上で、「台湾独立と外部勢力の干渉に断固反対し、中華民族の偉大な復興という明るい未来を共に創造する」とのコメントである。 想定内の選挙結果とはいえ、中国の習近平指導部の喜びは隠し切れず、2024年1月に予定される総統選への揺さぶり、硬軟両様のハイブリッド作戦は今後ますます強化されることに疑いの余地はない。
こうした中、我が国では台湾統一地方選を挟んで岸田文雄政権の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」報告書、防衛省防衛研究所の『中国安全保障レポート2023』が発表され、一方で国家安全保障関連3文書の年末改定に向けて与党・自民、公明両党の実務者協議が行われた。同22日発表の『有識者会議報告書』(A4版23頁)の(2)<防衛力の抜本的強化の必要性>に次のような記述がある。《……まず、具体的な脅威となる能力に着目し、5年後や10年後における戦い方を見据えて、他国による侵攻の抑止や阻止、排除を行い得る防衛力を構築するという戦略性が求められる。
防衛省は、防衛力の抜本的強化の7つの柱として、①スタンド・オフ防衛能力、②総合ミサイル防空能力、③無人アセット防衛能力、④領域横断作戦能力、⑤指揮統制・情報関連機能、⑥機動展開能力、⑦持続性・強靱性を掲げており、上記の戦略性の観点も踏まえつつ、これらを速やかに実行することが不可欠である……》。▶︎
▶︎「中国軍、台湾に心理的圧力―有害情報も偽装発信、サイバー攻撃年14億回」(日本経済新聞26日朝刊の見出し)と報じられた25日発表の『中国安保レポート―認知領域とグレーゾーン事態の掌握を目指す中国』(A4版87頁)には、以下のように書かれている。《中国は認知戦で相手の意思決定を乱す「影響力工作」と呼ばれる方法を多用する国であり、「三戦」(世論戦、心理戦、法律戦)を作戦・戦略レベルで実施し、軍事力を併用する発想がある》ので《台湾にとって大きな脅威だ》と断じた。
これまでに与野党で論議を重ねてきた敵基地攻撃能力(反撃能力)の政府案が25日午後、衆院第2議員会館内与党政策会議室で行われた実務者協議で示されたことで、公明党が懸念する国際法違反の「先制攻撃」に対する歯止めについて一応の合意を得た。
そして12月2日には正式合意に達した。事実、27日のNHK「日曜討論」で公明党の佐藤茂樹外交安全保障調査会長は反撃能力について「日本と密接な関係にある他国への攻撃で日本の存立が脅かされる『存立危機事態』でも行使が可能」との認識を示した。自民党は「台湾有事」が現実味を帯びてきた今夏頃から政務調査会国防部会(國場幸之助部会長)と安全保障調査会(小野寺五典会長)の合同会議を繰り返す中で、安保関連3文書改定の焦点の一つを「存立危機事態」の認定問題に絞ってきた。具体的に政府は25日の会合で、米国を想定する同盟国などが武力攻撃を受けて我が国の存立が脅かされる「存立危機事態」も反撃能力の行使対象から除外しない可能性を与党側に伝えたのである。
こうして中国や北朝鮮を抑止する目的で反撃能力の保有を企図する岸田政権は、本コラムで既報したように、国産ミサイルの長射程化や米国製巡航ミサイル「トマホーク」の導入に踏み切る意向を固めている。
事実、「2027年度までをメドに最大500発の購入を検討している」(読売新聞30日付朝刊)のだ。岸田首相は11月28日、防衛費を27年度に国内総生産(GDP)比2%に増額するための安定財源確保の年内政治決着を決断した。その額は財務省案を退けて5年間で防衛費は40兆円超規模に膨れ上がる見込みだ。財源は所得税・法人税の増税、タバコ税引き上げ、赤字国債発行などで充当するとされる。もちろん、来年4月の統一地方選が控えている自民党内では法人税増税について反対論が根強い。「決断力がない」とされる岸田首相が不退転で政治決断したのである。果たして「吉」と出るのか、それとも「凶」と出るのかは神のみぞ知るだ。