12月17日付「増税」は財務省のシナリオ通り…「日本の軍事力増強の費用は誰が負担するのか?」海外メディアも注目

12月11日午前、東京・紀尾井町のホテルニューオータニ「悠の間」で自民党税制調査会(会長・宮沢洋一元経済産業相・岸田派)の非公式幹部会合(通称「インナー」、メンバーは8人)が開かれた。 そこで政府・与党が防衛費増額に法人税、たばこ税、東日本大震災の復興特別所得税を充当する旨、16日に取りまとめる2023年度与党税制改正大綱に盛り込む方針を了承したのである。翌12日の新聞報道を見てみよう。読売新聞(12日付夕刊)は1面トップに「防衛増税3税目で―法人税、中小の負担配慮―復興・たばこ税も―24年度から段階実施」の見出しを掲げた。日本経済新聞(同)の見出しは「防衛費増額の財源、法人・たばこ・復興税で―政府・与党調整、24年度以降、段階的に増税」である。
 ちなみに筆者は12月3日アップで、「岸田首相は11月28日、防衛費を27年度に国内総生産(GDP)比2%に増額するための安定財源確保の年内政治決着を決断した。その額は財務省案を退けて5年間で防衛費は40兆円超規模に膨れ上がる見込みだ。財源は所得税・法人税の増税、タバコ税引き上げ、赤字国債発行などで充当するとされる」と書いている。競馬の予想屋ではないので当たったと言い募るつもりは毛頭ない。だが一言いえば、財務省要路にきちんと取材をすれば、防衛費増税が所得税・法人税・たばこ税の3税目となることは予測できたはずだ。
 いずれにしても本稿では以下の指摘をしたい。結論を先にいえば、防衛費増額の財源を巡り政府・自民党内では法人税を税目に加えることと、復興特別税の税率の引き下げによる所得付加税(税率1%)案に対する反対論が噴出し、岸田官邸はその収拾に苦慮している。党内政局の様相を帯びつつあるのだ。そもそもの発端は10日の第210回臨時国会閉会を受けて岸田文雄首相が行った記者会見だった。「防衛力を未来に向かって維持・強化するための裏付けとなる財源は不可欠だ」と述べた上で、防衛費の財源としての国債発行の可能性について「未来の世代に対する責任としてありえない」と語り、完全否定した。まさに増税容認発言であった。即刻反応したのは高市早苗経済安全保障相(無派閥)である。同日夜、自身のツイッターに「岸田首相から突然の増税発言。反論の場もないのか、と驚いた。首相の真意が理解できない」と投稿した。さらに同相は13日の閣議後の会見で「間違ったことは言っていない。閣僚の任命権は首相にあるので、罷免されるなら仕方ない」と開き直った。確信犯である。▶︎ 

▶︎一方、自民党の萩生田光一政調会長(安倍派)も11日、訪問先の台湾・新竹市内で「防衛力を高めるために必要な財源は、あらゆる選択肢、例えば国債も排除しない」と記者団に語った。高市、萩生田両氏はともに5年間で防衛費総額43兆円の財源に法人税増税ではなく赤字国債発行で賄うべきであると主張してきた。
 それは故・安倍晋三元首相の生前の持論でもあった。平たく言えば、特に自民党最大派閥の安倍派内で増税そのものに反対論が根強いのだ。事実、14日午後に自民党本部で開かれた税制調査会幹部会を取り仕切ったのは同調査会小委員長の塩谷立・元総務会長(安倍派会長代行)であった。塩谷氏は非公式幹部会「インナー」の一員であり、10月には安倍派の福田達夫前総務会長もメンバーに加わっている。英紙フィナンシャル・タイムズ(15日付)は「Who is going to pay for Japan’s military build-up?」(日本の軍事力増強の費用は誰が負担するのか)と報じるなど、海外も強い関心を寄せている。実際、その小委員会には100人近い自民党議員が押しかけたことで侃々諤々の意見噴出の場となった。要は、安倍派主導による“ガス抜き”とも見えるのである。「インナー」を構成するのは党税調会長の宮沢氏、顧問の額賀福志郎元財務相(茂木派)と甘利明前幹事長(麻生派)、小委員長の塩谷氏、そして福田氏、石田真敏元総務相(岸田派)、森山裕選対委員長(森山派)である。メンバーであった後藤茂之前厚労相(無派閥)は閣僚ドミノ辞任で急きょ経済再生相に転出したので8人目は空席だ。また前小委員長だったのは加藤勝信厚労相(茂木派)である。
 こうして見てみると分かるように、宮沢、後藤、加藤各氏は旧大蔵省官僚であり、額賀氏は大臣経験者である。殆どが財務省の色合いが実に濃いのだ。商工族ドンの甘利氏と農水族の仕切り役の森山氏だけが無縁なのだ。結局は、増税の時期は示さないものの財務省が描いたシナリオ「増税」で決着するのではないか。そうした中で与党税制改正大綱の草案作成責任者の福田氏の立ち位置が気になるのは筆者だけではあるまい。