1月28日付【反撃能力の保有】トマホークミサイル取得に2113億円、財源は「増税」か「税外」か…詰まる所カネの問題だ

異例の事である。政府は1月24日、我が国の防衛力強化の在り方を議論した「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」(座長・佐々江賢一郎日本国際問題研究所理事長)の議事録全文を内閣官房のホームページで公表した。翌日の各紙朝刊の記事(見出し)をチェックする。「『反撃能力必要』相次ぐ―有識者会議、議事録異例の全文公表」(読売新聞2面)、「安保戦略の議論発言者名を明記―有識者会議、議事録公開」(朝日新聞4面)、「防衛増税『丁寧な説明を』―政府有識者会議、議事録を公開」(日本経済新聞4面)、「防衛増税大半が『丁寧な説明を』―有識者会議の議事録公開、規模ありきの議論懸念」(東京新聞3面)。ちなみに毎日、産経両紙はなぜか報じていない。 各紙報道の中でとりわけ際立ったのは「読売」である。2面の本記以外に「防衛力強化有識者会議の議事録要旨」と題して11面の1頁すべてを割き、有識者会議メンバーの発言者名とその内容の触りを紹介しているのだ。
 改めて有識者会議のメンバーを列挙しておく。上山隆大総合科学技術・イノベーション会議議員、翁百合日本総合研究所理事長(元慶應義塾大学特別招聘教授)、喜多恒雄日本経済新聞社顧問(元社長)、國部毅三井住友フィナンシャルグループ会長、黒江哲郎三井住友海上火災保険顧問(元防衛事務次官)、佐々江日本国際問題研究所理事長(元駐米大使)、中西寛京都大学大学院教授、橋本和仁科学技術振興機構理事長、船橋洋一国際文化会館グローバル・カウンシルチェアマン(元朝日新聞社主筆)、山口寿一読売新聞グループ本社社長。同会議は昨年9月30日の第1回から第2回(10月20日)、第3回(11月9日)、第4回(同21日)の計4回開催された。この有識者会議は岸田文雄首相の肝いりで国家安全保障局(NSS。秋葉剛男局長)が中心となった「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定作業とほぼ同時期に開かれた(昨年12月16日に同3文書は閣議決定)。
 いずれにしても筆者は、「読売」が同会議の議事録から注目すべき発言の要旨を報じたことは極めて時宜にかなったものと評価する。▶︎ 

▶︎同紙報道は議事録全文を記者が注意深く読んでまとめたのだろうが、通読した筆者も別の観点からピックアップした発言を紹介したい。先ずはメンバー以外のゲストスピーカー発言から。自衛隊制服組を代表した折木良一元統合幕僚長の「この時代の安全保障を考えるとき、何ができるかではなく、何をなすべきかという発想がより一層求められている。抑止力・対処力を強化し、国民の信頼に応え得る真に戦える自衛隊を創設するために、防衛費の大幅な増額の下、防衛力の抜本的な強化をお願いする」発言(第3回会議)。抽象的であるが、「人は戦力の基盤であり、継戦能力の重要な要素」と言う元自衛隊トップ、折木氏の切実さが伝わる。黒江氏も同意する。
 次に、「サイバー空間は常に非平和(unpeace)の状態にあり、常在戦場である」と言う船橋氏の「国家安全保障局長、内閣危機管理監に並ぶ首相直属のサイバー・セキュリティー担当官と組織を設置すべき」(第1回会議)は火急速やかに実行すべき課題である。同氏は第2回会議でもNSSの中に本格的な経済安全保障政策担当部局を新設し、経済安全保障の戦略策定と省庁間調整を行うべきと、具体的提言を行っている。そして第3回会議での山口氏の「最も優先されるべきは有事の発生それ自体を防ぐ抑止力に直結する反撃能力、つまりスタンド・オフ・ミサイルではないか。国産の改良を進めつつ、外国製のミサイルを購入して、早期配備を優先すべきと考える」発言はまさに44日後の閣議決定で具体化したのだ。23年度当初予算に26年度配備予定の米レイセオン・テクノロジーズ社製巡航ミサイル「トマホーク」約500発の取得費2113億円が計上されている。出来すぎと言えばそれまでだ。防衛力強化、即ち防衛費増額にはその財源捻出問題が、実は最大のテーマである。政権与党の自民党内はいま防衛力強化では一致するが、防衛増税を巡り党内政局の様相を帯びている。「次世代にツケを回すな(財源の一部は増税)」とする岸田首相と、「財源は税外で知恵を出せ」とする安倍派の萩生田光一自民党政調会長グループの対立である。詰まる所、カネの問題なのだ。当面の問題として4月の統一地方選が控えているが、喜多氏の「自分の国は自分で守るのであり、財源を安易に国債に頼るのではなく、国民全体で負担するということが必要である」(第1回会議)が妥当だと思われる。如何なものだろうか。