荒井勝喜前首相秘書官(事務)の「差別発言」は2月3日夜,内閣記者会(首相官邸記者クラブ)所属の各社記者約10人とのオフレコ懇談で,1日の衆院予算委員会で同性婚法制化などについての岸田文雄首相答弁「社会が変わってしまう問題だ」に関する解説の最中に飛び出した。その荒井発言(Q&A)を起こした『毎日新聞』記者のメモには以下のように記述されている。「……別氏でさえそうですから,同性婚が嫌って思う人はもっとたくさんいると思いますよ,心の奥底では。僕だって嫌ですもん,隣に住んでても。人権はもちろん尊重しますけど,何となく嫌ですし。秘書官連中に聞いたら絶対皆嫌って言いますよ」。
これでは完全にアウトだ。実際,岸田の対応は素早かった。翌4日,荒井更迭を決め,後任に荒井の3年後輩で元宮澤洋一経産相秘書官の伊藤禎則官房秘書課長を決めた。このLGBTQなど性的少数者や同性婚の在り方を巡る前秘書官の差別発言問題は岸田政権にダメージを与えたのは事実である。事実,米紙ワシントン・ポスト(WP),英BBCなど欧米の有力メディアは大きく取り上げた。日本が今年5月の主要7カ国首脳会合(G7広島サミット)議長国であるだけに当然である。▶︎
▶︎だが岸田自身はアドリブで「変わってしまう」と答弁したことが斯くも大問題になると想像していなかったようだが,そのダメージは決して小さくない。『日本経済新聞』(7日付朝刊)の一面コラム「春秋」が「~しまう」という表現には後戻り不能のニュアンスが漂う,と指摘したのは正しい。それにしても,年初の欧米5カ国外遊で大きな成果を手にしたと自負する岸田からすれば,1月13日の日米首脳会談前に同じ米紙WP(11日付電子版)が折角の記事を掲載していただけに悔やんでも悔やみきれない思いに違いない。
それは「日本の首相,今日のウクライナは明日のアジアになり得ると警告」と題したジョシュ・ロギンのコラムである。とりわけ《日本が戦後の平和主義的姿勢から脱した瞬間(注・防衛3文書改定を閣議決定したこと)に,与党である自民党のハト派に位置する岸田氏が政権を握っているのは皮肉なことである。実際,昨年7月に暗殺されたタカ派の安倍晋三元首相が推進したこれらの計画に対して,国内に大きな反対意見がないのは,彼の真正リベラル(his liberal bona fidesとラテン語で記述している)所以が理由である可能性が高い》の箇所は岸田の率直な気持ちを代弁しているからだ…(以下は本誌掲載)申込はこちら