2月13日付「官邸側の『保秘』態勢に恐れ入った日銀人事」

 正直、2月10日午後4時16分に発信された日本経済新聞の速報「日銀新総裁、植田和男氏を起用へ」に仰天した――。 
 本連載コラム(13日発行)の原稿「日銀総裁の後任は雨宮正佳副総裁が昇格」を、同日正午前に入稿していたからだ。負け惜しみではない。筆者が知る限り、元日銀政策委員会審議委員の植田和男共立女子大学教授を次期総裁有力候補と予想していた人物は皆無である。長きにわたり公私共々お付き合いがあったインフレターゲット論者の故・中原伸之元東燃社長が日銀審議委員時代(速水優総裁当時)に、かつて「ゼロ金利」に反対した植田審議委員批判を頻繁に聞かされたことが脳裏の片隅に残っていたようだ。因って筆者には「植田総裁」は端からなかった。全くの思い込みである。この間、岸田官邸周りの多くの人物を取材した。そして副総裁の有力候補として氷見野良三前金融庁長官と内田真一日銀理事の両氏に辿り着いたが、総裁最有力候補は依然として雨宮氏で動かなかった。取材した相手の反応は、「総裁人事でサプライズはない」「オーソドックスな人事」でほぼ一致していたのだ。 
 だが1月下旬に会った一人が「決め撃ちはしない方がいいですよ」との助言を得ながら、最後は暴走してしまったのだ。さて反省はこのぐらいにして本題に入る。▶︎

▶︎植田氏は日本経済新聞「経済教室」(昨年7月6日付)に、「日本、拙速な引き締め避けよ」を寄稿している。これを読めば分かるが、同氏は異次元金融緩和の早期修正に反対していた。自民党最大派閥の安倍派の萩生田光一政調会長を中心に「金融引き締め路線=アベノミクス否定」という根強い反対論を念頭に置いた提言である。筆者が先週末に接触した岸田官邸幹部も「(植田氏を)そもそもゼロ金利政策に反対し、フォワードガイダンスを発案した非伝統的金融緩和手法の先駆者」と評している。
 では、日銀新執行部の植田総裁、氷見野、内田両副総裁に不安材料はないのか。学者出身初の総裁の植田氏は華麗な国際人脈を持つが、国会答弁に耐えられるだろうか。欧米の中銀トップは日本のように国会に縛られることがないので学者出身が多い。能吏で知られる内田氏は政治嗅覚が優れているとは言い難い。財務省が果たして同省出身の氷見野氏を全面支援するのか。それにしても今回は、人事情報に関する官邸側の完璧な「保秘」態勢に恐れ入った次第である。