「政府・与党の調整不足といった反省では済まされない問題だ。国益を損ねた今回の失態で外務省と自民党国対の罪は万死に値する」――。
先週、筆者が面談した主要省庁幹部の言葉である。この激烈な怒りを理解するには説明が必要だ。3月1、2両日の参院予算委員会の基本的質疑に出席を求められた林芳正外相は、インドの首都ニューデリーで開かれた20カ国・地域(G20)外相会合への出席断念を余儀なくされた。産経新聞(2日付朝刊)は「外交軽視ガラパゴス国会―林氏は予算委優先・断念、あすのクアッドは出席へ」と題し、次のように報じている。《「国会優先」の慣例を重視するあまり、貴重な外交機会を失ったことは否めない。与野党からは外交上の損失を指摘する声もあり、……》結果的に、国会は林氏が3日開催の日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド」の外相会合には出席することで合意した。
では、なぜ「外交軽視」、「日本の発信力低下」などと報道される事態を招いたのか。そして、「政府・与党の調整不足」とはいったい何を意味するのか。まずは自民党国会対策委員会(高木毅委員長)。前任の森山裕氏(現選対委員長)は安倍、菅両政権で4年余務め、「屈指の国対委員長」とされた。▶︎
▶︎野党・立憲民主党国対委員長の安住淳氏は元NHK政治記者であり、旧民主党政権時に財務相を歴任、政府の予算編成の仕組みだけでなく予算委員会質疑の裏表に通じた手練れである。高木氏は安住氏からすると赤子の手を捻るような相手でしかないと永田町関係者は言う。「森山不在」の自民党は終始、立民ペースの国対協議を強いられて手付かず法案60本が山積みとなり、国会審議の後ろ倒しに追い込まれたのである。
加えて、外務省の国対担当部署が昨年末にインド側からG20外相会合日程の事前通告を受けながら、外交・国会日程の擦り合わせを怠っていた。結果、「外交軽視」が招来したのである。一方、インド南部ベンガルールで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議(2月24~25日)はどうだったのか。G7議長国の日本はG20議長国インドと前議長国インドネシアと緊密に連携し、「ロシアと中国を除く全てのメンバーはウクライナにおける戦争を強く非難」を議長総括に盛り込んだ。外相会合欠席とは彼我の差だ。与野党国対トップの「器量」の違いがこれほどの大問題を引き起こすことを知ったのである。