4月1日付「サイバー安全保障」にオール霞が関が集結…霞が関官僚の総動員態勢で行われた「合同会議」の中身

慶應義塾大学大学院の土屋大洋政策メディア・研究科教授は日本経済新聞客員論説委員でもある。土屋氏は、同紙(3月29日付朝刊)のオピニオン欄に「転機迎えるサイバー安全保障」と題した一文を寄稿している。
 そこには、岸田文雄政権の「レガシー(遺産)」と言っていい昨年12月16日に閣議決定した国家安全保障戦略など「防衛関連3文書」について有為な指摘があった。以下に紹介する。《今回の国家安全保障戦略において興味深いのは、能動的サイバー防衛もさることながら、「サイバーセキュリティ」と「サイバー安全保障」が書き分けられたことだろう。両者は英語語版では区別されずに英語でサイバーセキュリティと書いてあるだけだ。
 しかし、日本語では書き分けられている》。同文には《……一般的に論じられてきたサイバーセキュリティーから一歩進み、安全保障の枠組みの中で施策が進められていくのだろう……》と続いている。これだけでは少々分かり難いが、後段で米国における重要インフラに対する実際にあったサイバー攻撃の事例(ウクライナ戦争関連を含め)を引いているので、趣旨向きは理解できる。この寄稿文の掲載前の23日午後、東京・永田町の自民党本部901号室で党政務調査会の経済安全保障推進本部(本部長・甘利明前幹事長)、安全保障調査会(会長・小野寺五典元防衛相)、デジタル社会推進本部(本部長・平井卓也前デジタル担当相)、サイバーセキュリティ対策本部(本部長・下村博文前政調会長)の合同会議が開催された。同会議出席者に配付された資料「経済安全保障上の重要政策に関する提言」がなかなか含蓄に富んだものであり、記載されたデータやチャートなどは保存に資するものである。同会議の省庁出席者リストを見ると、経済安保政策に通じた実務責任者ら霞が関官僚の総動員態勢であることが知れる。名前を挙げる。元防衛事務次官の髙橋憲一官房副長官補(危機管理担当)を筆頭に、内閣官房から飯田陽一国家安全保障局内閣審議官(経済産業省出身)、吉川徹志内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)内閣審議官(同)、小柳誠二サイバー安全保障体制整備準備室長(警察庁出身)らが出席▶︎

▶︎他省庁からは内閣府、警察庁、金融庁、デジタル庁、総務省、公安調査庁、外務省、財務省、経産省、防衛省、防衛装備庁、国土交通省、海上保安庁からの出席者だ。まさにオール霞が関の陣容である。
 もちろん、我が国がサイバー安全保障の強化に向けてお手本にしているのは米国である。米サイバーセキュリティ担当機関体制を見てみる。ホワイトハウスの国家サイバー長官のジョン・“クリス”・イングリス氏と大統領副補佐官(サイバー・先端技術担当)のアン・ニューバーガー氏を中核にした各府省庁に担当機関が控える。米機関の中軸に位置する国家情報官府のサイバー脅威情報統合センター(CTIIC)以下、国防総省の国家安全保障局(NSA)、国務省のサイバーセキュリティ新興技術局(CSET)、国土安全保障省のサイバーセキュリティ・インフラストラクチャーセキュリティ庁(CISA)、司法省の連邦捜査局(FBI)、商務省の国立標準技術研究所(NIST)がある。そこには国防総省の情報機関NSA、サイバー犯罪捜査をも担うFBI、サイバーセキュリティ技術を審査するNIST、サイバーセキュリティ行政機関であるCISA、そして各省庁からのインテリジェンス情報を集約するCTIICといったように役割分担が明確になっている。
 こうしたことを参考にしたのであろう、同提言の「(2)サイバーセキュリティ(CS)の確保」に2015年1月に設置された<内閣サイバーセキュリティセンターは発展的に改組し、CS戦略本部の事務機能(政策企画立案調整)とは別に、全く新しく実運用機能を内閣官房に設置すること>(6頁)と記されている。これはホンの一例であり、「(3)経済インテリジェンス(EI)の強化」の③では国家安全保障局(NSS)情報集約分析の機能強化、内閣情報調査室(CIRO)設置根拠及び権限の明確化―が謳われている。至極もっともの事である。政策部門の機能強化はもとより、情報集約分析部門の強化こそが今、我が国にとって喫緊のテーマなのだ。