4月8日付 日本の半導体装置メーカーが大打撃…岸田政権はこのまま「対中輸出規制強化」への道を突き進むのか

政府は3月31日、現下の国際安全保障環境がウクライナ戦争の長期化、米中対立の先鋭化など厳しさが増すなか、軍事転用の防止を目的として高性能な半導体製造装置23品目を輸出管理の対象に追加した。
 その直後の4月1日に訪中した林芳正外相は2日午前、秦剛・国務委員兼外相と約3時間(日中双方からの小人数会合1時間とワーキングランチ45分を含む)会談した。日中外相会談は3年3カ月ぶりだ。外務省が霞クラブ(外務省の記者クラブ)に貼り出した会談概要に記述されていないが、新たな先端半導体製造装置の輸出管理措置を説明した林外相に対し秦外相は《米国はかつて日本の半導体産業をいじめのような手段で残酷に抑圧したが、今度は中国に同じようにしている。封鎖は中国の自立自強の決心をより強めるだけだ」と述べて、米国に同調しないよう日本をけん制した》(NHK同日23:20分配信)。林氏は同日午後、中国指導部序列第2位の李強・首相(共産党政治局常務委員)を表敬、さらに同夕には中国外交トップの王毅・党中央外事工作委員会弁公室主任(政治局委員)と夕食を交えて1時間40分会談している。プロトコル(外交儀礼)からも李強→王毅→秦剛と中国外交要人を総なめにした林氏を、王毅氏は「林大臣はわれわれの古い友人であり長年にわたって両国の友好に携わってきたことを高く評価したい」(NHK報道)とヨイショしたが、肝心な問題についてはクギを刺すことを忘れなかった。「(台湾問題には)日本は干渉せず、いかなる形式であれ中国の主権を損なわないよう求める」と述べたという。「中国の核心的利益の核心」とする習近平指導部にとって絶対に譲れないレッドラインであるとダメ押ししたのだ。
 ここで本題の先進半導体製造装置の輸出管理規制問題に戻る。貿易管理規制をより厳格にするために外貨為替及び外国貿易法(外為法)に基づく現行の「貨物等省令」を改正し、新たに23の半導体製造装置について、全地域向けの輸出を管理対象に追加する。政府は省令法改正の5月公布・7月施行を予定する。▶︎ 

▶︎そもそも兆しはあった。昨年9月16日のジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)発言である。米国の科学技術エコシステムへの投資に関して非営利団体SCSP(議長・米グーグルのE・シュミットCEO)が主催した講演会のことだ。コンピューティング関連技術(マイクロエレクトロニクス、量子情報システム、人工知能・AI)、バイオ技術・製造、クリーンエネルギー技術などは科学技術エコシステム全体に波及する基盤的分野だとした上で、輸出規制について、特定の重要技術について競争相手よりも相対的な優位を維持するという長年の前提を見直す必要があると、サリバン氏は警鐘を鳴らしたのだ。
 言わずもがなだが、「競争相手」は中国を指す。米国は素早い。米商務省は翌月7日、中国向けに輸出する①AI処理やスーパーコンピューターに利用される半導体、②先進的な半導体製造に利用される半導体製造装置―の輸出管理について新たな措置を発表した。米国からの輸出のみならず、特定の米国原産技術・ソフトウエアを用いて製造した半導体については第三国から中国への輸出も米当局への許可申請が必要となった。
 その結果、どうなったのか。日本経済新聞(4月2日付朝刊)の記事「半導体装置輸出、対中4割―日本の貿易管理、十数社影響―曖昧な運用、懸念の声」が詳述しているように、日本の装置メーカーは大打撃を受ける。23品目の4カテゴリ(洗浄、成膜、露光、エッチング装置)では東京エレクトロンの製造装置3つが対象だ。世界市場でみると首位が米アプライドマテリアルズで、次いでオランダのASML、3位は東京エレクトロンである。2021年度実績で日本の中国向け製造装置輸出額は約1兆6000億円に達し、世界全体の4割を占める。政府は「軍事転用防止の観点から今回の決定は技術保有国としての国際社会における責任を果たし、国際的な平和及び安全の維持に貢献」と言う。
 だが、中国は反撃の構えである。電気自動車(EV)などに必要な高性能レアアース(希土類)磁石の製造技術の輸出規制を打ち出したのだ。高性能磁石で世界の8割のシェアを占める。ダメージを受けるのは米欧である。「今、そこにある脅威」と対中ビジネスへの逆風の“葛藤”は余りにも顕然明白だ。岸田政権はこのままバイデン米政権と足並みをそろえて対中輸出規制強化への道を突き進むのか。どうやら中国高官はこうした日本の米国追随を「陋習(ろうしゅう)」と言いたいようである。